1号の本気
2000名の天空神軍の兵士は神の果実を食べて魔獣人間へと変貌した。
「ポウポウ」
「ウキャー、ウキャー」
「グゲー、グゲー」
魔獣人間へと変貌した兵士たちは気持ちが高騰して奇声を上げる。
「神の果実を食べたあなたたちは最強の兵士です。敵はたったの2人ですので臆することなどありません。皆さん神の力を見せつけてください」
「ポポウ、ポポウ」
「ウキャキャ――、ウキャキャ――」
「ググゲゲー、ググゲゲー」
ケレースの鼓舞の声援を受けた魔獣人間は、さらに気持ちが高騰して奇声を上げる。
「さぁ!アイツらに神の鉄槌を下しなさい」
ケレースの合図とともに魔獣人間は一斉にロキとトールの元へ全力で駆け出して辺り一面は土煙が舞う。
「ロキさん、大食い糞野郎さん、万全の体制を整えた化け物たちが向かって来るのです。相手はたった2000名ですので10分以内で全滅させるのです」
「1号ちゃんは厳しいわね」
「やるだけやってみるか」
ロキとトールはできないとは言わない。
「ロキ、俺から行くで」
トールは魔法袋から大きなハンマーを取り出す。
「雷速」
トールは魔法名を唱える。するとトールの足から稲光が走りトールの姿が消えた。
「ほほう。やるのです」
1号はトールの魔法を見て感心する。トールは走ることに特化した筋力だけを強化しつつ、雷魔法を足から放つことにより加速力を得て目にも留まらぬ速さで移動している。
「私も行くわね」
ロキは魔法袋からロングソードを取り出す。
「永久凍土」
ロキは魔法名を唱える。するとロキの足元付近の地面が凍りつき、ロキの靴が氷の靴に変わった。
「ほほう。やるのです」
1号はロキの魔法を見て感心する。ロキは自分の移動する場所と靴を凍らせることによりスケートをするように地面を高速で移動する。ロキとトールの移動スピードが速いので、魔獣人間は2人の姿を見失ってオロオロしている。
「側撃雷、側撃雷、側撃雷」
トールは目にも留まらぬ速さで移動して、魔法名を唱えて魔獣人間の頭上にハンマーを振り落とす。側撃雷とは、ハンマーに電気を通すことにより、敵に電気ショックを与える魔法であるが、その電撃は敵の体から地面を通って半径10m以内の敵にも通電する。トールの側撃雷のハンマーを喰らった魔獣人間は、ハンマーの衝撃と電気ショックにより地面に倒れ込み、辺りにいた魔獣人間も電気ショックを受けて体を痙攣させて倒れ込む。1分も経過しないうちに100名ほどの魔獣人間が地上に打ち上げられた魚のようにピクピクと体を痙攣させて倒れ込んでいる。
ロキがトールの電撃を受けないのは、ロキが自分の足元付近だけを凍りつかせて、電気の通りを遮断しているからである。2人は個人技でなく団体戦を考慮した戦いをしているのであった。
「ほほう。大食い糞野郎も成長したのです」
1号はトールを褒める。
「八熱地獄」
ロキはフィギアスケーターのように地面を華麗に舞いながら、8色の炎を纏ったロングソードで次々と魔獣人間の頭を焼き斬っていく。突然頭を失った魔獣人間は、死んだことに気付かないでしばらくは体を動かすが、電池が切れたロボットのように突如動かなくなりその場に崩れ落ちる。
「ほほう、ロキさんもかなり成長したのです」
1号はロキを褒める。10分が経過した時には2000名もいた魔獣人間は全て倒されてしまった。
「グヒィィィィィ、グヒィィィィィ、お前の魔獣人間はたいしたことないな」
「お前の巨人化への時間稼ぎにはなっただろ。後は任せたぜ」
魔獣人間は時間稼ぎの捨て駒であった。ケレースが時間を稼いでいる間にバッカスは、樽に入った全てのお神酒を飲み干して、5mの真っ赤な肌をした巨人へと変貌していた。
「グヒィィィィィ、グヒィィィィィ。ワシがこの姿になったのはあの時以来だな。まさかこんなところで巨人化するとは想定外だぞ」
「たしかにそうだな。お前の巨人化は3年に1度という制約があるので、ゼーウス法王様から許可がないと巨人化は許されない。しかし、逃げる時間もなかったから仕方がないだろう。あの2人を殺したら俺も一緒にゼーウス法王様へ謝罪をしてやろう」
「頼んだぞ」
バッカスは地鳴りを上げながら進みだす。
「ロキ、でっかいのが来たで」
「やっと本気で戦えるわね」
「そやな。これからが本番やで」
ロキとトールは巨人化したバッカスを見て心が躍る。
「ちょっと待つのです!」
1号はロキとトールを止めに入る。
「なんやチビルシス」
「ムッキー」
1号はトールを睨みつける。
「トール、黙りなさい。1号ちゃん、どうしたのかしら」
「ロキさん、アイツは私が倒すのです」
「1号ちゃん、無茶をしたらダメよ」
「ロキ、好きにさせたらええやん」
「ムッキー!大食い糞野郎。偉大なるルシスお姉様から授かった私の心なる力を見るのです」
1号は翼をパタパタとはためかせて巨人化したバッカスへ一直線に飛んで行く。
「アトミックパンチ」
1号は小さな拳を握りしめてバッカスの頬をぶん殴る。
「あ!虫か?」
バッカスは頬に違和感を感じて自分の頬を軽く叩く。
「グチャ!」
1号はバッカスの頬で叩き潰される。
「もう一歩だったのです」
1号は魂となり捨て台詞を吐くと消え去った。
1号ちゃんの無念はロキさんとトール親分が晴らしてくれるのです。




