ピンチ
「そろそろ行くか」
「そうね」
2人はこれ以上ヒントになるものはないと判断してドアのボタンを押した。
「ポチっとな」
『ガガガガガガガガ、ガガガガガガガ、ガガガガガガガ』
扉は地鳴り音を立てながらゆっくりと開く。2人は扉が半分も開かないうちに中へ入り左右に移動した。扉の中は8角形の部屋で、その中心に3つ首のスケルトンがカマを構えてた状態で待機していた。2人が扉から入って来た瞬間に、3つ首スケルトンは黒色の刃が付いたカマを振り落とすとカマの先端が扉に向かって飛んでくる。ここまでは前回と全く同じ展開だ。
「八熱地獄、烈炎烈火」
ロキは連続魔法名を唱え8色の炎を剣に纏わして剣を振るう。そして、8色の炎は龍の形となり扉の方へ向かって行き、扉の付近で急カーブをしたカマを喰らってドアにぶつかり、ドアもろとも炎上した。前回はここでトールがヨタトンハンマーで床を破壊した。しかし、今回は何もせずに3つ首スケルトンを凝視する。3つ首スケルトンは後方の顔でトールが動かないことを確認すると再び黒色の刃のカマを振りかざしてカマの刃を飛ばす。
「絶対零度」
ロキはすぐに魔法名を唱えて自分の体を凍らせた。カマの刃はロキにぶつかりメキメキと音を立てながら凍りついて床へ落下して砕け散る。
「ロキ、1度に2つのカマは使えないみたいや」
「わかったわ」
3つ首スケルトンは白色と黒色のカマを同時に使うことはできない。
「喰らえ、ヨタトンハンマー」
トールは全身の筋力をバランスよく強化する。そして床を蹴ってジャンプして、体をバネのようにひねって両手でハンマーを振り落とす。3つ首スケルトンは後ろの顔でトールの動きを見ていたので、扉と反対方向へ瞬時に避ける。トールの空振のハンマーは床を叩き潰す。
「物理攻撃やとダメージが与えられるってことやな」
トールは物理攻撃から逃げる3つ首スケルトンの姿を見てそのように判断した。
「八熱地獄、烈炎烈火」
ロキは絶対零度を解除して、魔法名を連続詠唱して剣を振りかざす。剣先からは8色の炎の龍が出現して、3つ首スケルトンを襲う。
「氷点凍結」
3つ首スケルトンが魔法名を唱えるとカマの刃からは凍てつく冷気を発する。そして、3つ首スケルトンはカマを大きく振りかざして炎の龍を凍らした。
「喰らえ、ヨタトンハンマー」
トールは再びハンマーを振り落とす。今回はロキと同時に攻撃を仕掛けたので、3つ首スケルトンに避ける時間はない。トールのハンマーは無情にも3つ首スケルトンの頭に降り注ぐ。
「金剛不壊」
3つ首スケルトンは魔法名を唱える。
「嘘やろ」
トールのハンマーが3つ首スケルトンに当たる瞬間に3つ首スケルトンの体が光り輝いた。すると振り落とされたハンマーはガラス細工のように砕けてしまった。
「気炎万丈、気炎万丈、気炎万丈」
八熱地獄と烈炎烈火の合成魔法を連続で放つのは、今のロキの魔力操作では不可能だ。そのため威力が落ちる気炎万丈の魔法を連続発動する。ロキは3つ首スケルトンを倒すのではなく、自分がヘイトを稼いでトールを助ける。ロキの思惑通りに3つ首スケルトンはトールを無視してロキの魔法に対処する。これはトールなど相手にするほどでもないという3つ首スケルトンの傲慢な判断だと言えるが、ハンマーが砕かれたと同時に心も砕けたトールには、反撃ののろしを上げることはできない。一方ロキは攻撃の手を緩めない。
「気炎万丈、気炎万丈、気炎万丈」
ロキは3つ首スケルトンとの距離を保ちつつ連続で炎を放つ。しかし、魔法の質で上回る3つ首スケルトンの氷点凍結によって全ての炎は氷となって砕け散る。
「物理攻撃は無効……。いや、俺レベルの物理攻撃は効かないってことか」
トールは小声で呟いた。トールは土属性と天属性の2属性を手に入れた。土属性は回復系と身体強化系(デバフ系)の魔法が主であり、天属性は雷地震台風などの天変地異にまつわる魔法を使える。トールは身体強化魔法と雷魔法を重点的に強くしている。3つ首スケルトンを倒すには今は炎属性の攻撃か物理攻撃で押し切るしか方法はない。実際は他にも方法はあるのだが、今の2人の実力では他の方法を選ぶことはできない。
ロキと3つ首スケルトンとの距離はだんだん縮まっていく。3つ首スケルトンが一気に距離を縮めないのは傲慢だからではない。自分を弱体化する属性を持つ相手には慎重に行動しているのだ。絶えず魔法を撃ち続けるロキの魔力量の消耗と魔力操作の乱れを感じ取ったら一気に距離を縮めて首を切り落とすだろう。そして、その時が来るのはもう時間の問題だ。
ロキお姉ちゃんが非常にピンチなのです。




