油断大敵
「トール、私は気付いたら首に激痛がはしり、目の前が真っ暗になり呼吸ができなくなったわ。本当なら死んで何も感じないはずだけど、ルシスちゃんの言ったとおとりに呼吸ができずに苦しくて、首のあたりからは説明ができないほどの強烈な激痛を感じて地面をのたうち回っていたわ」
「俺は振り返ってお前が死んだことに目を奪われている隙に背中を滅多刺しにされてしまったわ。背中を何度も刺されてもすぐには死ねないから痛みだけが増幅するから拷問やで」
2人は自分の身に起きた惨劇を説明し合う。
「トール、敵の姿は見たの?」
「もちろんやがな。敵は身長が3mほどの3つ首のスケルトンや。武器は大きなカマで、カマの先端は飛び道具にもなるみたいやで」
「私はそのカマで首を切り落とされたのね」
「そやな。いきなり襲って来るとは思ってへんかった俺達の落ち度やな」
破壊者なら一瞬の油断が死を招くのは知っていたはずだ。修行だと思って気を抜いた2人は反省をする。
「ロキ、行けるか」
「ごめんなさい。もう少しだけ待ってもらえるかしら」
本当の死を疑似体験したロキはなかなか次へ進めない。
「実は俺も無理や。もう少しだけ心が落ち着いたら行こか」
トールも心の準備がまだできていない。
「トール、対策を練りましょう」
「そやな」
現実世界なら二度目はない。しかし、黒の迷宮はゲームの世界なので何度もやり直しができる。2人は作戦を練って希望を見出すことによって、心を落ち着かせることにした。2人は一瞬の出来事を細部まで思い出しながらイメージを膨らませる。そして、3つ首スケルトンの攻略方法を考えつく。
「扉が開いたらすぐに左右に移動しましょう。そして、私が攻撃をして3つ首スケルトンの気を引くから、トールは背後から攻撃してくれるかしら」
「わかった。とびっきりの一発をお見舞いしたるわ」
2人は勝てる希望を見出して再びログインする。
「ロキ、ボタンを押すで」
「わかったわ」
「ポチっとな」
トールはボタンを押した。
『ガガガガガガガガ、ガガガガガガガ、ガガガガガガガ』
扉は地鳴り音を立てながらゆっくりと開く。2人は扉が半分も開かないうちに中へ入り左右に移動した。扉の中は8角形の部屋で、その中心に3つ首のスケルトンが黒色のカマを構えた状態で待機していた。2人が扉から入って来た瞬間に、3つ首スケルトンは黒色のカマを振り落とすとカマの先端が扉に向かって飛んでくる。
「八熱地獄 、烈炎烈火」
ロキは私との魔力操作の練習にて連続魔法名詠唱を習得した。ロキは8色の炎を剣に纏わして剣を振るう。
「ロキ!」
トールが叫ぶ。
「わかっているわ」
ロキは3つ首のスケルトンではなく扉の方へ向けて剣を振った。8色の炎は龍の形となり扉の方へ向かって行く。
「喰らえ、ヨタトンハンマー」
トールは全身の筋力をバランスよく強化する。そして地面を蹴ってジャンプして、体をバネのようにひねって両手でハンマーを振り落とす。3つ首スケルトンの投げたカマの先端は、扉の付近で急カーブをして、左へ避けたロキの方へ軌道が変わる。ロキはカマの軌道の変化に気付いて、カマに向かって剣を振ったのだ。8色の炎の龍はカマを喰らってドアにぶつかり、ドアもろとも炎上した。3つ首スケルトンはトールがロキへ叫んだ一瞬の隙を見逃さない。3つ首スケルトンは黒色のカマを振って、カマの先端をトールへ投げ飛ばしてから、ロキの方へ向かって白色のカマを振り落とす。
今回は2人共冷静に判断をする。トールは私との魔力操作の練習にて、一撃一殺であるヨタトンハンマーを随時出せるようになっていた。トールは飛んでくるカマをハンマーで叩き潰して、そのまま部屋の床までもぶち壊して大きな穴ぼこを作る。足場を崩された3つ首スケルトンは攻撃を止めてすぐにジャンプをして扉の反対方向へ移動する。そして体制を立て直すと3つの首で左右前後と全方位を確認する。
「ロキ、俺が仕掛けるで!」
「わかったわ」
ロキは剣を握りしめて炎を纏わせて3つ首スケルトンの動向を見る。トールは前傾姿勢で砕けた地面を蹴って3つ首スケルトンとの距離を一気に縮める。そして、片手でハンマーを振り上げて、3つ首スケルトンの頭上にハンマーを振り落とす。しかし、3つ首スケルトンは白色のカマを持っていない左手を盾のようにしてトールのハンマーを受け止める。
「感電死」
トールはすかさず魔法名を唱えてハンマーに1億ボルトの電流を流す。3つ首スケルトンは落雷が落ちた衝撃を受けて体をピクピクを震わせながら体がバラバラになって床へ崩れ落ちる。
「どやさぁ!」
トールは思わずガッツポーズをして勝利を喜ぶ。
「トール、後ろ」
「ぐあぁ~~~」
トールの悲鳴が部屋の中に響いた。
油断大敵なのです!




