暗黒世界
「ここは天国ですか?」
ポロンは目を爛爛と輝かす。
「これも美味しそうです。こちらも美味しそうです。はたまたこちらも美味しそうです」
ポロンは目を覚ますと甘い香りのする部屋で、ミルクゼリーで作られたベットの上にいた。部屋中から香る美味の誘惑がポロンを狂わせる。
「このお布団は食パンで間違いありませんわ」
ポロンは夢現状態だった。お布団が食パンであるわけはない。ベットがミルクゼリーであるわけはない。枕が饅頭であるわけはない。ポロンが目にする全ての家具は食べ物でできているが、そんなことが現実であるわけはない。しかし、お腹が減っているポロンは理性よりも食欲が勝つ。食欲の権化となったポロンは常識に囚われることなく布団をかじりついた。
「美味しいです」
ポロンは遠慮なく次々と部屋の家具を食べていく。
「この床はビスケットです」
部屋の家具を食べつくしたポロンの次の標的はビスケットで作られた床だ。しかし、お腹はパンパンに膨れ上がり、床のビスケットを食べるために手を伸ばすがお腹が邪魔になって床に手が届かない。
「なんて巧妙なトラップなのでしょうか。でも、私を甘く見ないでほしいのです。私はキャベッジの町を自慢の弓で守った殲滅のポロンです」
お腹が邪魔で床に手が届かないという逆境に立たされたポロンだが、そんなことで諦めるほど意志(食欲)は弱くない。ポロンは屈伸をして態勢を低くする。そして、全ての力を膝に集中させて、一気に膝を伸ばしてジャンプする。ポロンは垂直にジャンプをして、水泳の飛び込み選手のように大きく口を開けてから頭から床へダイブした。
「ビスケットさん、もう逃げ場はないのです。観念して私の胃袋におさまりなさい」
ポロンは大きく開けた口で床を噛みついた。
『モグモグ、モグモグ、モグモグ、モグモグ』
ポロンにとって甘いお菓子は別腹だ。ということは無限に食べられるということとなる。
『モグモグ、モグモグ、モグモグ、モグモグ』
ポロンの勢いは止まるどころか加速する。
「キャー」
『ズドーン』
案の定、床を食べつくしたポロンは下の階へ落下した。
「ポロン、やっと起きたんか?」
「ポロン、ルシスちゃんの勉強会は始まっているわよ」
「殲滅のポロンさん、おはようございますなのです」
現在お菓子の国では午前の11時になる。私は午前9時から勉強会を開始していた。
「オホホホホホ、急いで勉強会に参加しようと思って床を突き破って来たのです」
「嘘つけ。お前のお腹を見れば一目瞭然やで」
「ポロンの場合は、腹は口ほどにものを言うね」
お腹のふくらみを見れば、ポロンが今まで何をしていたかはすぐに理解できた。
「ルシスさん、さぁ勉強を始めましょう」
ポロンはリーダーのように合図を出す。
「では、お勉強を再開するのです」
こうして厳しいルシス式基礎訓練は2週間が経過した。
「やっと実戦やな」
「そうね。どれほど成長したのか楽しみだわ」
「アパパパパ……」
ロキとトールは期待に胸を膨らませている、一方ポロンは食べ過ぎでお腹が相撲取りのように膨らんだ。そのため声もまともに出せなくなっていた。
「ルシス、実戦もここでやるんか?」
「違うのです。特別なステージを用意しているのです」
お菓子の国は、ある人物のお願いで作ることになった。そして、ロキたちの実戦を行う場所も同じ人物のお願いで作ったのである。
「ルシスちゃん、特別なステージとはどのような場所なのかしら?」
「クククククク、行ってからのお楽しみなのです」
私は不敵な笑み浮かべる。
「アパパパパパ、アパパパパパ」
「ルシスちゃん、ポロンは動けそうにないので、リタイヤすると言っているわ」
「わかったなのです。でも、殲滅のポロンさんにはダイエットメニューを用意するのです」
「ルシスにポロンのことは任せるわ。こんな状態やとまともに動くこともできんやろ」
ポロンは別腹の魔の手に陥り体重は5倍ほど増えてしまった。ロキとトールが実戦形式の特訓を10日間しているうちに、ポロンの体重を元通りにしないとラスパの編成を考え直さないといけなくなる。
「アパパパパパ、アパ」
「ポロンはダイエットをがんばると言っているわ」
「任せるのです。では、ロキお姉ちゃんとトール親分には別の異空間である暗闇世界へ招待するのです」
私はタップシューズに履き替えて軽快に床を踏みタップダンスを披露する。すると、3人の姿が消えてしまった。
「アパパパパパ、アパアパ」
ポロンは私たちへいってらっしゃいと言っているように聞こえた。
食べ過ぎには注意なのです。




