ブートキャンプ
魔法で1番大事なことは魔力操作と言えるだろう。トールは重くて大きなハンマーをぶん回すために、魔法を使って身体を強化をする。身体を強化する際に大事なことは、どの筋肉にどれだけの強化をするか見極めることだ。トールは人間の筋力の構造を熟知していないので、無駄に強化される部位が多く生み出されてしまう。人体の構造や筋肉の種類を理解することで、強化する部位に強弱を付けることで、効率の良い身体の強化をすることができる。そして、その知識を生かすためには、精密な魔力の操作が必要となる。一瞬でどの部位にどの筋肉へどれだけの魔力を配分するのか見極めてから必要な魔力をコントロールするのである。
魔法で2番目に大事な事はイメージだ。前世では実現不可能なことでもこの世界では魔法を使えば実現可能となる。手から炎を出すなど前世では絶対にできないことだが、この世界では魔力があれば手から炎を出すことは簡単だ。料理をする程度の小さい炎ならイメージはさほど必要ない。しかし、魔獣を殺すほどの圧倒的火力を備えた炎を出すのは難しい。魔法の威力を増すためには、イメージを明確にするための詠唱を必要とする。自分の中でイメージが明確になり魔力操作が精練されれば、詠唱ではなく魔法名で魔法の発動を簡素化できる。
魔法で炎を出す時は可燃物が燃えることを頭でイメージする。するとライターのように可燃物に火を付けることができる。可燃物が燃えるという短絡的なイメージでは、小さな炎にしか発動しないが、生活魔法ならばこれで十分だ。しかし、魔獣を退治するには小さな炎では、はたかれてすぐに炎は消えてしまう。さらに大きな炎を発動するには、イメージを膨らますために詠唱を唱える。
「漆黒の中で煌めく紅蓮の炎の大輪よ、我が前に姿を見せて、我に仇を成す敵の体を灰と成るまで全てを焼き払え」
詠唱は術者の頭の中でイメージした情景を言葉で述べる。この詠唱には科学的要素はまったくなく、思い描いた炎の形をイメージしただけだ。これでも十分威力は発揮するので問題はない。だが、この詠唱に科学的要素を加えると威力はさらに増大することを私は発見した。この世界は魔法があるので科学の発展は乏しい。しかし、私は知識の書庫の能力を使って、前世の記憶を引き出すことができる。高校2年生までの知識しかないが、科学の発展が乏しいこの世界では、十分に魔法の威力を増大させることができる。
私は前世の知識と魔王書庫で学んだ知識を2人に適した知識を選別して徹底的に教え込む。強くなりたい2人に、強くなるために知識を提示すると、2人は俄然とやる気が出る。集中すると時間の経過は早いもので、あっと言う間に今日の勉強の時間は終了した。
「頭がパンクするで」
「トールが熱心に勉強する姿は新鮮だったわよ」
1日目の勉強を終えた2人は清々しい顔をしていた。勉強を終えた2人がお菓子の家を出ると、空は真っ暗になり大きな目玉焼きの月と金平糖の星がキラキラと輝いていた。
「一旦キャベッジへ戻るのです」
私はポール牧ばりの指パッチンをする。すると私たちはキャベッジの宿屋の部屋に戻って来た。
「ロキ、時計を見ろや。ホンマに1時間しか経過してへんで」
「本当だわ」
2人は驚きを隠せない。
「納得して頂ければ幸いなのです。では、お菓子の国へ戻るのです」
「トール、ポロンも連れて行きましょう」
「そやな。あの勉強はいずれ役に立つやろ」
ロキは気持ちよさげに寝ているポロンを起こそうとするが、全くポロンは起きる気配がない。
「ルシスちゃん、事後承諾を得るのでこのままポロンをお菓子の国へ連れて行くわよ」
「かしこまりなのです」
私は再びポール牧ばりの指パッチンをした。すると私たちはお菓子の国へ戻って来た。
「ルシスちゃん、修業の予定はどれくらいかしら」
「先ほどの説明どおりに人体の構造などの勉強を1週間、魔力の操作に1週間、実戦形式の練習に10日間、合計24日間のカリキュラムを用意しているのです。しかし、これは入門編になりますので、継続的に修業を行うことをお勧めするのです」
これは短期間のルシス式基礎訓練である。
「24時間すなわち向こうの世界での1日ってことやな」
「そうなのです。2色の魔石を最低限に使いこなすだけの実力は保障するのです」
「ほな、頼むわ」
「お願いね。ルシスちゃん」
2人は希望に満ちた目で了承した。
ルシス式基礎訓練が本稼働するのです!




