2人の決意
「もうお1人お残りですが、ルシスお姉様のお怖さをお伝えるお役目として、お逃げになることをお許ししましょう。しかし、お次にお会いした時はお絶望とお恐怖のお狭間でお断末魔をお叫ぶことになるでしょう」
ハーメルンは地獄の業火に焼かれて激しく踊り狂って死を迎えた。しかし、ローガンは生きていた。ローガンは町長という恵まれた家庭に生まれて自堕落な生活をしていたので体力がほとんどない。他の魔獣人間は、ハーメルンの合図と同時に全力で駆け出して、キャベッジを蹂躙しようとして命を落とす。一方ローガンは体力がなく走りも遅かったので、他の魔獣人間に追いつけず大幅に出遅れていた。やっと他の魔獣人間の姿が見えた時には、魔獣人間たちは光の矢の串刺しになっていた。もちろん、その様子を見たローガンは一目散に逃げ出した。
「2号ちゃん、これで全て終わったのかな」
ロキは2号に問う。
「はい。私のお役目はお全てお終了したのです。保護対象者をお守りして、キャベッジをお襲撃するお悪党をお退治することができたのです。これでルシスお姉様もお満足してくれるでしょう」
2号は誇らしげに答える。
「ルシスちゃんは、天空神教が襲って来るのを察知していたのね」
「聡明たるルシスお姉様は、全てのお事柄をお予知することができるのです。劣等生物であるあなたたちのお物差しでお考えするのはお怠慢と言えるでしょう」
「ロキ、コイツを殴ってもええか」
全身血だらけで動くことができない状況のトールだが2号の話しぶりに怒りを感じる。
「トール、相手は子供よ。むきにならないで」
ロキはトールをなだめる。
「ルシスお姉様は劣等生物であるあなたたちがお傷を負った時にはお治療をするようにとお命じられていました。ロキさんはルシスお姉様をお敬うお気持ちをお感じるので、高級治癒を施しましょう」
2号の治癒魔法で、ロキは一瞬で体中の斬り傷は消え去り、失った血と魔力と体力が全回復して元気な姿を取り戻す。
「大食い糞野郎さんは、ルシスお姉様にお対するお態度がお全くなっておりません。私のお個人的なお意見としては、お治療をするお必要はないと思っています。しかし、慈悲深いルシスお姉様は、ラストパサーのおメンバーのお全員のお治癒をお所望しております。お不本意ですが低級治癒をしてあげましょう」
2号の治癒魔法で、トールは体中から流れる血は止まったが、破裂した血管の傷は完全には塞がらす、失った血と魔力と体力は10%ほどだけ回復した。
「めっちゃ差別しとるやん」
トールは不満を言う。
「これはお差別ではなくお区別なのです。お治療をしてもらっただけでもお感謝をするべきなのです」
「2号ちゃん、トールは口が悪いけど仲間思いの優しい一面もあるのよ。ルシスちゃんもそれを理解しているからこそ、あなたに私たちの治療を頼んだのと思うわ。お願いだからトールにも高級治癒をしてくれるかしら」
ロキはトールの痛々しい姿を放っておくことはできなかった。
「ロキさんがそれほどまでにお言うのでしたらお致しかたないのです。私としてはお不本意ですが高級治癒をお施すのです」
2号は高級治癒をして、トールの体を完全に治癒した。
「トール、礼を言いなさい」
「ありがとな、クソチビルシス」
「ムッキー!お次はお絶対にお治癒しないのです」
トールと2号が仲良くなるのはまだ先になりそうなのです。
「ロキ、チビルシスのことは、後でじっくりルシスに確認するとして、これで天空神教の襲撃は終了したと思うか?」
トールは頭を切り替えて真剣な面持ちでロキに問う。
「今日のところはいったん終了と判断しても良いかもね。でも、天空神教は全力でキャベッジを潰しにかかっていると判断した方が賢明ね」
「そやな。ディーバのおばはんの情報では、パースリには天空神12使徒のジュピターとバッカスが滞在してるはずや。もしもあの2人が協力して攻めてきたらヤバすぎやろ」
「そうね。今回も2号ちゃんがいなければ私たちの命もなかったわ」
「糞ったれ!俺にもっと力があれば……」
トールは地面を殴りつけて自分の不甲斐無さを責める。
「糞ったれです。私ももっと力が欲しいわ」
ロキは歯を食いしばり苦悶の表情を浮かべる。
「あなたたちは劣等生物なのでお仕方がないのです。あなた方はどんなにお努力をしても、ルシスお姉様のお足元にもお及ばないのです」
「……それや」
「そうね」
ロキとトールはお互いの顔を見合わせた。
2人はある決断を決めたようです!