ハーメルン司祭
私の心はワクワクのドキドキだ。やっと念願の異世界ファンタジーのイベントを成功させることができるのだ。私は悪者から王女の誘拐を阻止して、王家と親密になるチャンスをゲットするのだ。私は王女を救った自分の勇士を想像して、にやけ顔を見せつけながらキューカンバへ到着した。
「およよ~。とっても平和に見えるのです」
私は天空神12使徒とキューカンバの兵士たちが激闘を繰り広げている光景を思い描いていたが、そのような光景は微塵もなかった。
「私は早く来過ぎたのです」
私の飛行スピードが速すぎた為に、天空神12使徒よりも早くキューカンバへ到着したようだ。
「すみませんなのです」
「お嬢さん、どうしたのでしょうか」
私はキューカンバの大きな門を守る門兵に声をかけた。
「え~と。え~と。天空神教が襲って来るかもしれないのです」
遠回しに説明しようと試みたが語彙力が乏しくてありのままを伝える。
「ご忠告ありがとうございます。でも心配はいりません。本当の神様が神を名乗る不届き者を成敗してくれたのです」
門兵は満面の笑みで答える。
「……それは本当なのですか」
門兵の笑顔とは逆に私の顔は凍り付く。
「本当ですよ。だからそんなに怯えた表情をしなくても大丈夫です」
「そ……そうなのですか」
私はショックで目の前が真っ暗になり千鳥足でキューカンバから離れて行った。
「お嬢さ~ん。どこへ行くのですかぁ~」
門兵の声は私に届かない。
※時は少し遡ります。
ローガンは無我夢中で馬を走らせて、日が暮れる頃にはパースリへ到着した。
「ここは神が治める町パースリです。神の証をお持ちでしょうか」
パースリは天空神教の信者しか住むことは許されない。天空神教の信者は金色の雷の形をしたペンダントを身に着けている。この雷のペンダントのことを神の証と呼ぶ。しかし、信者しか町へ入ることができないというわけではなく、寄付金を支払えば、町の入り口付近にある宿屋などの利用は可能である。
「ほら!これを見ろ」
ローガンは雷のペンダントを見せる。
「どうぞ、お入りください」
「俺は次期キャベッジの町長のローガン様だ。ルークは何処にいる」
「ルーク?聞いたことのないお名前になります。私は全ての信徒のお名前を把握しているわけではありませんので、天空神大教会にて確認することをお勧めします」
「それはどこにあるのだ」
「町へ入ればすぐにお分かりになると思います」
「……」
ローガンは返事もせずにぶっきらぼうな顔をして町の中へ入る。
パースリの中心部には、東京ドームの3倍ほどの真っ白な円形の建物があり、その円形の建物の天井には、大きな金色の雷型のオブジェが突き刺さるような形で設置されている。この円形の建物が天空神大教会であった。天空神大教会へ入る真っ白な扉には金色の雷が無数に描かれている。そして、扉の前には巨漢の男が立っていた。
「俺は次期キャベッジの町長のローガン様だ。ルークという男がこの町いるはずだ。すぐに俺の元へ連れ来い」
「……」
巨漢の男は無言でローガンを見る。
「聞こえないのか!俺は次期キャベッジの町長のローガン様だぞ」
「教会建設に反対している異教徒の町だな。異教徒がどうしてこの場所に居るのだ」
巨漢の男は鬼の形相でローガンを睨む。ローガンは背筋が凍るほどの恐怖を感じて涙目になる。
「ちょっと待て、俺は天空神教の信徒だ。ここに……ここに……」
ローガンは胸元にしまっている雷のペンダントを取ろうとするが、手が震えてなかなか取り出すことができない。
「黙れ!異教徒が」
巨漢の男は丸太のような太い腕でローガンの首を掴んで持ち上げた。
「あぁぁ~」
ローガンは悲鳴をあげる。
「異教徒には天罰が必要だな」
巨漢の男はローガンをいたぶるように少しずつ力を加える。ローガンは首を絞められて息ができなくなり顔はみるみる青くなる。
「シンク、手を放してやれ」
「わかりました」
シンクが手を離すとローガンは地面に落下した。
「これは、これは、ハーメルン司祭様。何か御用があるのでしょうか」
シンクは大きな体を曲げて跪く。
「ちょっとな」
ハーメルン司祭はシンクの問いに濁すように答えた後でローガンを見る。
「お前はここへ何しに来たのだ」
「ガハッ、ガハッ」
ローガンはすぐには声を出すことができない。しかし、ハーメルンの姿を見てローガンは驚きを隠せない。
「お……お前……なんでそんな恰好をしているのだ」
ハーメルンの正体は誰なのか次話にて明らかになるのです。




