一瞬の惨劇
「ゲーネン様、町の門前にて天空神軍約1000名が集結して決起集会をしているようです。そして、その天空神軍を率いているのは、天空神12使徒武具神バルカンと美貌神ウェヌスです。おそらくエリス第1王女を連れ去りに来たのだと思います」
「そうか、そうか」
※ ゲーネン・シュナルヒェン子爵 キューカンバの町長 身長160㎝ 体重80㎏ 小太りの温和で優しい顔の男性。
「バルカンの作った最強の武具を装備して、ウェヌスの能力で愛戦士となった天空神軍は万夫不当の兵士と言われています。しかし、私たちには死をも恐れぬ町の自警団がいます」
「そうか、そうか」
「相手は天下無敵の軍隊と呼ばれていますが、私たちは地の利と数の優勢があります。あの野蛮な奴らに、この地を自由にさせるわけにはいきません」
「そうか、そうか。それならばワシが先頭に立ってみんなの気持ちを鼓舞しようではないか」
ゲーネンは深呼吸をして精神統一する。そして、穏やかな顔を一変させて般若の顔で体中の細胞へ問う。
「細胞よ、覚悟はできているか?ワシの覚悟は決まっているぞい」
ゲーネンは全身に力を込める。すると全身にまとわりつく脂肪はゲーネンに返答をするように鉄のようにカチンコチンとなる。ゲーネンは幼い頃からたゆまぬ努力をして18歳の頃に神技を獲得した。ゲーネンの神技は身体強化だ。全身の脂肪を鉄のように固めることができる。
「ニーゼン団長よ、この時のために立てていた作戦を実行する時が来たぞい。アイツらにワシたちの恐ろしさを教えてやろうではないか」
「わかりました。すぐに実行致します」
「ここがあの本に載っていた料理を食べさせてくれる町なのゲソ」
キューカンバに1人の少女が訪れていた。その少女は白髪のツインテールで、透き通るほどの白い肌をしていた。
「お嬢さん、すまないね。今から戦が始まるから店はお休みになったのだよ」
「……」
少女は隈なくキューカンバの飲食店街を回ったが、すべての店は戦に備えて店を閉めていた。
「……」
「ゲーネン様、総勢8000名の町の自警団を徴集させて、7割の兵を南北の門から出兵させました」
ニーゼン団長はバルカンとウェヌスが演説をしている間に、自警団を南北の門から進軍させて、東門で演説をしている天空神軍を包囲する作戦を実行した。キューカンバは西側が海に面している港町である。東側に本陣を構え北と南に兵を送り天空神軍を囲う作戦だ。
「ニーゼン団長、この短時間でよくやったぞい」
「ゲーネン様、日ごろの訓練の賜物です。いくら万夫不当の兵士でも、八倍の兵力と四面楚歌ではどうしようもございません」
「ニーゼン団長、侮るなかれ。相手は神力を使う化け物だぞい。これほどの圧倒的優位でもワシらの勝つ確率は1%だぞい」
「そ……それほどまでに戦力差があるのでしょうか?」
「あんずるな。1%も勝率があれば問題はないぞい。戦で1番してはいけないことは驕りぞい」
「はい」
「今のお前はアイツらと同じ驕りで足元をすくわれるところだったぞい」
「ご忠告ありがとうございます」
「厳しい戦いになることは間違いないぞい。8割以上の死者が出ることも覚悟をしているぞい。だが、絶対に勝利するのはワシらぞい」
「はい」
「さぁ、門を開けろ。ワシが最初の一撃をぶち込んでやるぞい」
ニーゼン団長は部下に命じて全長10mもある巨大な門を開ける。
「……」
「ゲーネン様、これはいったいどういうことなのでしょうか?」
門が開くとそこには、天空神軍の兵士たちが体をネジネジにされて死んでいた。
「何か大きな力によって、体を雑巾のように絞られた感じぞい」
「はい。しかし天空神軍の兵士たちの鎧はミスリル製です。ミスリル製の鎧を雑巾のようにネジるのは不可能なことです」
「不可能……たしかにそうだぞい。最強と呼ばれる1000人の兵士、それに天空神12使徒武具神バルカンと美貌神ウェヌスを一瞬で絞殺すなんて絶対に不可能ぞい。しかし、ワシたちが目にしているのは夢かはたまた幻なのか……。いや、違う現実ぞい」
「もしかして、神様が私たちを救ってくれたのでしょうか」
「それを言うならば、偽の神を名乗る悪党に天罰を与えてくれたぞい」
「ゲーネン様、ご無事ですか!」
1人の男がゲーネンに駆け寄ってきた。
「シュヴァイス副団長、お前は何も見ていなかったぞい?」
シュヴァイス副団長はニーゼン団長の命令により北門より進軍していた。
「はい。悲鳴すら聞こえませんでした。しかし、一瞬なのですが、大きな白い物体のようなモノを見たような気がします」
「ゲーネン様、一部の兵士が城門の外に大きな白い物体が見えたとの目撃情報があります」
「大きな白い物体に捻じられた体……。いや、そんなことはあるまいぞい」
ゲーネンは何か話そうとしたが言葉を閉じた。
天空神軍に一体何が起きたのか!




