デジャヴ
「ソールさんもご存じたと思いますが、国王陛下は天空神教を国教と定めて、全ての町に天空神教の教会を設置して司教の在住を義務付ける法案を推し進めています」
「もちろん知っています。でも、天空神教の悪事を知れば、国王陛下は考えを改めるのではないのでしょうか?」
「……」
「それはありえません。現在王都では、教会設置法案を推し進める国王陛下陣営と法案を反対している王妃殿下陣営との対立が激化しています。恐らくですが、国王陛下陣営と天空神教は繋がっていると思われますので、今回のキマイラによるキャベッジへの襲撃作戦は、国王陛下は知っていると考えるのが妥当なのです」
「それなら王妃殿下に伝えるのはどうでしょうか?」
「……」
「その通りですが、王都では国王陛下陣営が8割も占めていますので、王女殿下陣営に接触するのは厳しいかと思います」
「それならば、私たち金運玉兎がその大役を引き受けます」
「……」
※ 金運玉兎とはソールとマーニの2人パーティー。
「実は金運玉兎には別の依頼をしたいと思っているのです」
「ロキの援助でしょうか」
「……」
「さすがAランク破壊者ですね。察しがいいわね。ロキさんたちは危険な状況よ。現在パースリには、天空神12使徒である創造神ジュピターと酔漢神バッカスが滞在していると聞いています。キマイラがいないと気付いたら真っ先にロキさんたちが狙われるでしょう。早急に出発してくれるかしら」
「わかりました。ルシスちゃんの面倒をお願いします」
「……」
ソールは急いでギルマスの部屋を出る。しかし、マーニはいつものように亀のようにノソノソと歩く。
「マーニ、何をしているのよ!急ぐわよ」
ソールはギルマスの部屋に戻って、マーニを背負って部屋を出た。そして、私は部屋に取り残された。
「ルシスちゃん、ロキさんが戻ってくるまでどうするつもりなの?」
「え~と。う~と……」
飛べることは秘密にしているので返答に困る。
「そうよね。どうしたら良いのかわからないわよね。でも安心していいわ。ロキさんが戻ってくるまでは、私の屋敷でのんびりと過ごすと良いわ」
「だ……大丈夫なのです。ロキさんからお小遣いをもらっているので問題ないのです」
ラディッシュに長居するつもりはない。私のドッキリ作戦はまだ継続中なのである。
『ドンドン、ドンドン』
ギルマスの部屋の扉が激しくノックされる。
「ギルドマスター、緊急事態です。扉をあけてください」
「開いているわよ」
『ガチャガチャ、ガチャガチャ』
「ギルドマスター、意地悪をしないで下さい。本当に緊急事態なのです」
私はデジャヴを見ているのだろうか。
「あの~、すみません。引いてダメなら押してみるのです」
私は前回と同様のアドバイスをする。
「なるほどです。それなら押してみます」
すると扉は簡単に開いた。
「お嬢ちゃん、助かりました」
ヤヌアールは私にお辞儀をしてギルドマスターに近寄る。
「ヤヌアール、どうしたのかしら?」
「て……天空神12使徒が……来たのです」
「……」
ディーバは顔面蒼白になり血の気が失せて呆然自失となる。
「ギ……ギルドマスター、た……対処をお願いします」
ヤヌアールはディーバの手を引いてギルマスの部屋を出ようとする。私はサッと扉を引いて、さらなるデジャヴを防ぐことに成功した。ギルマスの部屋を出ると、ギルドの中央には、血だらけの白の祭服をきた男が横たわっていた。私はその2人の男に見覚えがある。2人の男の正体はジュノとマーズであった。
「これはどういうことなの」
ディーバは思っていた状況とは違ってホッとしていたが、新たな疑念が生み出された。人間では最強と恐れられる天空神12使徒が瀕死の重傷を負っていたのだ。
「私が説明致します」
ジュノとマーズをギルドへ運んできたのは行商人の男であった。
「この2人は、私がラディッシュを出発してエッグプラントへ向かう道中で倒れているところを発見したのです。白の祭服を着ていますので天空神12使徒だとすぐにわかりました。天空神教と関わるのは危険だと思い、そのまま放置して先へ進もうと考えたのです。しかし、エッグプラントへ向かう街道には無数のオークの屍骸が山積みになっていたので、恐ろしくなってラディッシュへ戻ろうとした時に、微かに意識があった体のゴツイ男が助けを求めてきたのです。関わりたくはないけれどもオークの件も含めて、ギルドマスターへ報告すべき事案ですので、2人の男性を連れてギルドへ来た所存です」
「オークの大群に瀕死の天空神12使徒……一体、何が起きたのよ」
ディーバは頭を抱えて困惑した表情を浮かべた。
やばいのです。私の力がバレてしまうのです。