開かない扉
「……」
マーニは焦ることなく亀のようにゆっくり歩いてソールの元へ戻って来た。そして、服の裾を引っ張って合図をする。
「お嬢ちゃん、受付に向かうわよ」
ソールはにこやかな笑みを浮かべて、私に細くてきれいな手を差し出した。私は喜んで差し出された手を握り返す。
「ヤヌアールさん、マーニから事情は聞いているわね」
「いえ、何も聞いていません」
ヤヌアールはケモ耳の亜人族の受付嬢だ。ヤヌアールはソールの問いに呆れた顔で答えた。そして、ソールはマーニの方を見る。
「……」
マーニは無言で親指を立てながらニヤリと笑みを浮かべた。
「はぁ~。本当にマーニにも困ったものだわ」
「ソールさん、いつもお願いしていますが、受付にはあなたが来てください。無言で受付に立たれると他の破壊者さんのご迷惑になります」
「申し訳ありません。でも、マーニの成長を促すためにも今後もマーニを受付へ行かせるつもりです」
「ここは人見知りの更生施設ではありませんので、程々にお願いします」
「あの〜、すみませんが、キマイラを提出したいのです」
本題がそれているようなので、私自らヤヌアールに声をかけた。
「そうでしたわ。大事な一件があったのです。ヤヌアールさん、早急にギルマスに会わせてください」
「今キマイラって聞こえたのですが、キマイラの件でギルドマスターにお会いしたいのでしょうか?」
「そうよ。このお嬢ちゃんはロキに頼まれて、キマイラの死体をギルドへ届けに来てくれたのよ」
「そ……それは一大事です。すぐにギルドマスターに伝えて来ます」
ヤヌアールは血相を変えて、急いでギルドの受付の隣にあるギルドマスターの部屋のドアノブを引っ張る。しかし、扉はカギがかかっているみたいで開かない。
『ドンドン、ドンドン』
「ギルドマスター、緊急事態です。扉を開けてください」
「開いているわよ」
扉の中から透き通った綺麗な女性の声が聞こえた。ヤヌアールは再度ドアノブを引くが扉は開かない。
『ドンドン、ドンドン』
「ギルドマスター、意地悪をしないで下さい。本当に緊急事態なのです」
ヤヌアールは焦って額から汗が滴り落ちる。
「あの~、すみません。引いてダメなら押してみるのです」
私はヤヌアールにアドバイスをする。
「なるほどです。それなら押してみます」
すると簡単に扉は開かれた。
「お嬢ちゃん、助かりました」
ヤヌアールは私にお辞儀をしてギルドマスターの部屋に入った。そして3分後。
『ガチャガチャ、ガチャガチャ』
「ギルドマスター、扉が開きません」
「そんなことはないでしょう。さっきあなたが入ってから誰もカギをかけていませんわ」
部屋の中からヤヌアールの声が聞こえる。
『ガチャガチャ、ガチャガチャ』
「ギルドマスター、やっぱり扉が開きません。緊急事態ですので扉をぶち壊してもよろしいでしょうか?」
「ヤヌアール、待ちなさい!ちゃんと扉を引いていますか?」
「……」
扉は静かに開かれて、顔を真っ赤にしたヤヌアールが姿を見せた。
「お待たせしました。ギルドマスターがお呼びですので、お部屋へお入りください」
ヤヌアールは何事もなかったかのようにギルドマスターの部屋の中へ案内してくれた。
「ロキさんは可愛らしいお嬢ちゃんに大事なおつかいを頼んだようね。お嬢ちゃん、私はラディッシュのギルドマスターを任されているディーバ・コーンウォリスよ」
※ ディーバ・コーンウォリス 身長170㎝ 細身のグラビアモデル体型 ラディッシュの領主リアム・コーンウォリス伯爵の妻。
「私はラストパサーのルシスなのです」
私はお辞儀をして淑女の振る舞いをする。
「よろしくね、ルシスちゃん」
「こちらこそよろしくなのです」
「早速ですが本題に入るわね。ルシスちゃん、キマイラの死体を見せてくれるかしら」
私は魔法袋からキマイラの死体を取り出して床に置く。
「想像していたよりも大きいわね。詳しい事情を聞かせてくれるかしら」
「はい」
ロキからはキマイラは討伐途中に急に動きが止まり死んでしまったと報告するように言われていたので、そのようにディーバに説明した。ロキは私の力を隠すことにしたのだ。
「失敗作ということね」
「私にはわからないのです」
私は無知なフリをする。
「でも、一安心というわけにはいかないわね。着実にキマイラの完成に近づいているのでしょう」
「ギルマス、今回のキャベッジ付近に魔獣が出没したのは、キマイラが原因だったのでしょうか?」
「……」
ソールは進言するが、マーニは無言で相槌を打つ。
「そのようね。キャベッジの町長は教会の設置に反対していたから、天空神教に狙われたと考えるのが妥当かもしれないわ。もしも、キマイラが失敗作でなければ、キャベッジは大混乱に陥っていたでしょう」
「天空神教は失敗作のキマイラを回収して、計画した悪事を隠蔽するはずです。ロキはそれを防ぐために、子供のルシスちゃんにキマイラを運ばせたのでしょう。子供ならパースリで疑われることなく通過できるはずです。これは早急に国王陛下へ連絡する事案です」
「……」
「ソールさん、それは無理なのです」
「どうしてですか!このまま天空神教の悪事を野放しにするのですか」
「……」
ソールはディーバに詰め寄り、その姿を見たソールも目をすごませてディーバに詰め寄った。
私も一緒に詰め寄りたかったがグッと我慢したのです。




