最弱と最強
「騒々しいですよマーズさん。少しは天空神12使徒の自覚を持ちなさい」
馬車の中から金色の長い髪をした美しい顔立ちの白の祭服を着た男性が降りてきた。
「ジュノ、これが落ち着いていられるか。コイツはお前が使役したハイオークとオークスターを殺したのだぞ」
「ウフフフフフフ、マーズさん。こんな小さな亜人のお子様が、私が使役した魔獣を殺せるわけないでしょ。あなたは見間違いをしているのですよ」
※マーズ 身長180㎝ 体重90㎏ スキンヘッドの筋骨隆々の肉体 いかつい顔をした男 天空神12使徒の1人。
※ジュノ 身長175㎝ 体重51 ㎏ 金色の長い髪の華奢な細身体系 美しい顔立ちの男 天空神12使徒の1人。
「……」
私の想定では馬車からはお貴族様の令嬢が飛び出してきて、魔獣を退治したことを感謝されるはずだった。しかし、馬車から降りてきたのは、イカツイ顔のおっさんと女性口調の中世的な男性だったので私は動揺していた。
「黙れ、ジュノ。俺がコイツの化けの皮を剥がしてやる」
マーズは全身に力を入れて、ダブルバイセップス・フロントのポージングをした。するとマーズの体は巨大化して3mほどになり、白の祭服はビリビリに引き裂かれて、岩石のようなゴツゴツとした肉体があらわになる。マーズはボディビルのポージングをすることで神力を発動させて体を巨大な筋肉の塊に変貌させた。
「マーズさん、亜人のお子様を相手に本気を出すのはとっても愚かな行為ですよ」
「ジュノ、知っているか?獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという言葉がある。神の子は亜人のガキを狩るにも全力を尽くすのだ!ガハハハハハ」
マーズは白のビキニパンツ一枚で品性のない笑いを浮かべた。
「マーズさん、やるのでしたらすぐに終わらせてください。この場所で何が起きたのか早急に調べる必要がありますので」
「もちろん、すぐに終わらせてやるぜ。そういうわけだ亜人のガキ、3秒で終わらせてやる」
マーズはゴツゴツの筋肉を弾ませながら私の目の前に立つ。そして、体中から千手観音の如く無数の手を生やして、私をタコ殴りにする。
「クソクソクソクソ、クソクソクソクソ、クソクソクソクソ」
1秒間に1000のパンチを打つマーズは、3秒間で3000のパンチを私に打ち込んだ。
「マーズさんは体を巨大化して全身を鋼鉄のように固くすることができるのです。そして鋼鉄となった体から千の手を生やして、終わることのない無限のパンチを放つことができる一騎当千の強者です。亜人のお子様を倒すのに1秒すら必要はありません。しかし、マーズさんが3秒も時間を掛けたのは、亜人が大嫌いだからなのです。でも仕方がありませんね、亜人族なら当然の仕打ちでしょう。さぁ、ぐちゃぐちゃのミンチのお姿になったお汚い姿を私に見せてください」
「グギャ~~~~」
「悲鳴……。そんなことはありえません。マーズさんの千手観音パンチをお受けになった方は、悲鳴をあげる時間も与えられずに死を迎えてしまうはずです」
3秒間に3000発の鋼鉄パンチを受けたモノは悲鳴など上げる暇もなく死んでしまう。
「もう、終わりなのですか?それなら次は私の番なのですが、準備はよろしいのでしょうか?」
「や……やめてください」
私は即座にオーバープロテクトを発動した。オーバープロテクトは最強の防御結界だ。最強のパンチと最強の防御結界の対決は私の圧勝で幕を閉じる。マーズの千本の手はオーバープロテクトと衝突することによって、ぐちゃぐちゃに砕け散ってしまった。千本の腕を潰されて戦闘不能となったマーズは、馬車の中から見た私の圧勝劇が本物だと理解して命乞いをする。
「マーズさん、その腕はどうしたのでしょうか?まさか……亜人のお子様に負けたなんてことはないでしょう。もしかすると神力を失ったのでしょうか?」
ジュノは私がハイオークとオークスターを倒した姿を見てはいない。だから私がマーズを倒したとは思えないので別の理由を探す。
「ジ……ュノ。逃げろ。コイツはヤバ……」
マーズは気力を振り絞ってジュノに私の危険性を伝えようとしたが力尽きて意識を失った。
「亜人のお嬢さん、マーズは私に何を伝えようとしていたのでしょうか?」
「私が強いと言いたかったのです」
私は素直にジュノに伝える。
「ウフフフフフフ、冗談はよしこさんですよ。最弱の種族である亜人族に、神力を授かった天空神12使徒が負けることなどありえないのですよ。マーズさんは天空神12使徒の中でも最弱なうえ、怠け者という怠惰な男でした。マーズさんはあまりにも怠惰だったので、神から神力を奪われてしまったのでしょう。さて、幸運にも命を取り留めたお嬢さん、どうなされますか?私は天空神12使徒の中でも最強なうえに勤勉者です。最下等種族の亜人族に触れるのも吐き気がしますので、今すぐにでも私の視界から消えてくれるのでしたら、命だけはお救い致しましょう」
「いえ、遠慮するのです」
私はバカではない。ジュノは魔獣を使役して何かを企んでいたのだろう。このままジュノを野放しにするのは危険なので始末することにした。
さて、悪い奴を懲らしめる時間です。