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大盛況

 「トール、注文し過ぎよ」

 「キャキャキャキャ、ラスパには宵越しの金は必要ないねん」



 ※ラスパとはラストパサー(最後の晩餐)の省略です。



 「そうですよ、ロキさん。いつ死ぬかわからない私たちに貯蓄はナッシングなのです」



 2人には馬車を買う為の貯蓄は内緒の話である。



 「はぁ~、もういいわ。好きにしなさい」



 ロキは深いため息をする。



 「おかみ!ステーキや、ステーキ」

 「おかみさん、私にもステーキを3枚ほど追加して頂けないでしょうか」


 「なんやと!それなら俺はステーキを5枚や」

 「トールさん、そんなにも食べられるのでしょうか?おかみさん、私のステーキを10枚にしていただけないでしょうか」


 「な……なんやと!それなら俺は……」

 「トール、ポロン!つまらないことで張り合わないで。おかみさん、とりあえず二人に一枚づつステーキを用意して下さい」


 「……」

 「……」



 2人はホッとした顔をしている。おそらく2人は注文の量を張り合って引けなくなっていたのであろう。ロキのナイスな采配が2人に安堵をもたらした。




 「あら?ルシスちゃん、肩に黒い石のようなものが付いているわよ」

 


 私の肩の辺りに1㎝ほどの黒い塊が乗っていた。おそらくビーハイブラビリンス(ハチの巣迷宮)に突撃した時の天井の破片が肩に乗っていたのであろう。



 「本当なのです」



 私は肩から黒い塊をとり、ゴミ箱に捨てようとした。



 「ルシスさん、その黒い石を見せてもらってもよろしいでしょうか」

 「どうぞです」


 「すご~く綺麗な石ですね。捨てるのはもったいないので私がもらってもよろしいでしょうか」

 「どうぞなのです」



 私はポロンに黒い塊をあげることにした。



 「ルシスちゃん、ありがとうございます」

 「いえいえなのです」


 「お嬢ちゃん、プリンができたわよ」



 プリンを冷やして1時間が経過したのでおかみが声をかけてくれた。



 「はい。今すぐ取りに行くのです」



 私は念願のプリンが食べられるので急いでキッチンへ向かった。



 「甘くて良い匂いがするのです」



 黒蜂蜜の甘くて芳しい香りが鼻を刺激する。



 「お嬢ちゃん、それがプリンなのかい?」

 「はいなのです」


 「なんて美しいプリンなの!まるで宝石のように輝いているわ。そのプリンの上にかかっている黒く輝くソースは何かしら?」

 「カラメルソースなのです」


 

 実際はメガララ・ガルーダの黒蜂蜜だが、入手難度がSランクなので内緒にしておく。



 「へぇ~。鼻が解けてしまうそうな甘い香りの正体は、カラメルソースという調味料なのね」

 「はいなのです」

 

 「私にも1つもらえないかな」

 「あげるのです」


 「それなら遠慮なく頂くわ」


 おかみは私が作ったプリンを食べる。



 「なんなのこのプリンは……。口に入れると溶けてしまうほど柔らかな食感、濃厚な牛乳の香りとカラメルソースの重厚な甘い香り、私が知っているプリンとは全然違うわよ!」

 「褒めてもらえて嬉しいのです」



 前世の世界のプリンとこの世界のプリンは全く同じものだ。違う点があるとすればカラメルソースのありなしくらいである。しかし、おかみがこんなにも驚いているのは理由がある。それは、私が作ったプリンは、この世界で手に入る最高級の素材を使用しているからだ。



 「あら、プリンを食べたせいか、なんだか力がみなぎってきたわね。今日は朝まで働けそうだわ」



 おかみは元気溌剌になってキッチンへ戻って行った。



 「ルシスちゃん、とても良い香りがするわね」

 「ロキお姉ちゃん、お待たせしたのです。これが、私が作った美味しいプリンなのです」

 「めっちゃ、甘い匂いがするやんけ」

 「本当ですね。私のお鼻が喜んでいます」


 「ルシスちゃん、トールには渡さなくても良いわよ」

 「そんな殺生な~」

 


 私はロキとポロンにプリンを渡した。



 「ルシスちゃん、これが本当にプリンなの?」



 ロキはおかみさんと同じ反応をする。



 「はいなのです。私の実家ではプリンの上にカラメルソースをかけるのです」

 「この黒く輝いているのがカラメルソースなのね」

 「ロキさん、黒いソースもキラキラと美しいですが、透明感のあるみずみずしい肌のようなおプリン様の本体も芸術品のようですわ」


 「本当ね。デザートというよりも芸術品ね」



 ロキとポロンはプリンの味よりもプリンの色形に驚いていた。



 「プリンは鑑賞のためにあるのとは違うねん。食べるためにあるねん」



 トールはカメレオンのように舌を伸ばしてポロンのプリンをかぷりと一飲みにした。

 


 「うま……うま……うますぎるやろこれ!」

 


 トールは絶叫する。



 「私のおプリン様がぁ……」

 「トール!それはポロンのプリンでしょ!」

 「俺のバケツプリンを食べたから、これでおあいこやん」

 「みなさん、プリンを争ってケンカなどして欲しくないのです。プリンはたくさんありますので、みんなで仲良く食べるのです」


 「お~、ルシスは優しいのぉ~。どこぞの誰かさんとはえらい違うわ」

 「私のおプリン様は、まだまだいらっしゃるのですのね」

 「はぁ~。わかったわ、ルシスちゃん。トールの態度には納得できませんが、みんなで仲良く頂きましょう」



 私の作ったプリンが大盛況だったのでとても嬉しかったのです!



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