作戦決定
「ほなロキ、後は任せたで」
「ロキさん、私はお昼寝の時間ですので宿屋に戻ります」
町長の屋敷を出るとトールは一目散に飲食街へ向かい、ポロンはあくびをしながら宿屋へ戻る。
「ロキお姉ちゃん、私は探索を……」
「ルシスちゃん!」
私の発言を遮るようにロキが大声で私の名を呼んだ。私はすぐにロキの異様なオーラに気が付いた。このオーラはお母様が機嫌の悪い時に発する怒りのオーラに似ている。
「はい、なんでしょうかロキお姉ちゃん」
私は背筋を伸ばして大声で返事をする。私は知っている。この怒りのオーラを発する人物に対しては絶対服従するのが正解だということに。少しでも口ごたえでもすれば、怒りはさらに炎上するのだ。
「ルシスちゃんは、次の依頼の作戦を一緒に考えてくれるよね」
「もちのろんです」
「本当に良いのかしら?さっきは探索をしたいと言いかけていた気がしたわ」
「それはロキお姉ちゃんの聞き間違いなのです。私はトール親分や殲滅のポロンさんと違って、ロキお姉ちゃんの手伝いをしたいと思っていたのです」
「そうなのね。それはよかったわ。ルシスちゃん、あのお店で食事をとりながら次の依頼の作戦を練りましょう」
「了解なのです」
ロキの怒りのオーラが消え去り、私はホッと肩をなでおろす。私とロキは近くの飲食店に入って、遅めの食事を食べながら次の依頼について話し合う。
「本当は今すぐにでもラディッシュへ赴き、キマイラをギルドへ提出すべきなの。しかし、ラディッシュへ向かうには、乗り合い馬車でキャベッジを出発して、パースリとバードクを経由するので早くても3日はかかるわ。しかも、キャベッジ発の乗り合い馬車は2日に1度しか運行していないので、出発は明後日の朝になるわ」
「馬車を賃車できないのでしょうか?」
「賃車するとキャベッジに返却する必要があるのよ。手間と時間とお金がかかるので賃車は無理ね」
「それならいっそ馬車を購入するのはどうでしょうか?」
「それが一番良い選択と言えるけれども現実的に無理ね。トールには内緒の貯金があるけれども、馬車を買うにはほど遠いわ。残念ながら今回も乗り合い馬車を使うしかないの」
「それなら馬を借りるのはどうでしょうか」
私は食い下がらない。馬車ではなく一人ずつ馬に乗れば、早くラディッシュに着くと考えた。
「馬は貸出されていないのよ」
結局乗り合い馬車を使うしかないようだ。
「ルシスちゃん、実は一番の問題は時間ではなく、パースリを無事に通過できるのかが問題なのよ」
「どうしてですか?」
「パースリには、天空神教の大教会があるの」
「大教会って何ですか?」
「各教会の司教をまとめる大司教がいる教会よ。簡単に言えば、天空神教のナンバー2がいるのよ」
「それなら私に任せてください。キマイラのようにサクッと倒してみせるのです」
「ダメよ!ルシスちゃん。理由もなく大司教を殺せば、国家を揺るがす大問題に発展する恐れがあるわ」
国王陛下が国教と認めた大司教を殺せば、国から指名手配がかかるのは当然だろう。
「でもアイツらは悪いヤツなのです」
「わかっているわ。でも、パースリは町全体が天空神教の教徒で成り立っている天空神教の町とも呼ばれているの。私たちの正義はパースリでは悪になるのよ。実際に教会の建設に反対しているキャベッジの町長は、パースリでは異教徒と呼ばれて憎まれているわ」
「それでは、どうするつもりなのでしょうか?」
「わからないわ。でも、どうにかして争いを避けて通り抜ける方法を考えないといけないのよ」
「そんな方法があるのでしょうか?」
「難しいわ。おそらく魔法袋のチェックもされるはずだから、キマイラの死体を持っているとバレたら、何かしら理由をつけて拘束されてしまうわね。空でも飛べたらパースリを経由せずにラディッシュへ行けるのにね」
ロキは苦笑いをする。
「……」
私は頭上に雷が落ちたかのように体に電気が駆け抜けて名案が浮かんだ。
「ロキお姉ちゃん、そうなのです。空を飛べば良いのです」
私は空を自由に飛べるのだ。これならパースリを経由せずに簡単にキマイラをラディッシュへ運ぶことができる。
「ルシスちゃん、今は真剣に話しているのよ。冗談はよしなさい」
「冗談ではないのです。証拠を見せるのです」
私はロキを町の外に連れ出して翼を広げて空を飛んでみせた。
「……」
ロキは口をあんぐりと開けて驚く。
「ロキお姉ちゃん、キマイラのことは私に任せるのです」
私は胸を張ってロキに伝える。
「ルシスちゃん、あなたは本当にすごい子なのね」
「そんなこと……あるのです」
私は褒められて調子に乗る。
「ルシスちゃん、キマイラの輸送はどのくらいかかるのかしら」
「往復で1日もあれば余裕なのです」
「キマイラが討伐されたことに気付くにはもう少し時間がかかると思うわ。1日で帰って来られるのならば、キマイラが討伐されたことに、気付く前にキマイラを届けることができるわね」
「そうなのです」
「念のために私たちは町の警護をしておくわ」
「お願いするのです」
こうして作戦は決まった。
後はサクッと届けるだけなのです。