順番待ち
私の名はルシス・エルドラード、魔王の子供に転生した5歳の女の子である。今日は5歳の誕生日を迎えたので、【契の間】で悪魔との契約を交わす特別な日だ。強大な能力を持つ悪魔と契約することができなければ、魔王としての資質がないと判断される。
「ルシスちゃん、ついに悪魔と契約する日が来たわね。あなたの魔力量ならお父様を越える悪魔と契約して、偉大な魔王に成れるはずよ」
お母様は私に優しく微笑みながら言ってくれた。
悪魔は自分より弱い者とは契約を結ばない。そして、強さの基準は魔力の量で判断される。3人の魔王の子供の中で、1番の魔力量を保持しているのは私だ。その量は歴代最高値を計測した。魔力量は生まれた時に決まっている。すなわち、歴代最高の魔力量を誇る私が、魔王となるのは決まった事実である。この悪魔の契約で意味するのは、先代の魔王を凌ぐ悪魔と契約することを求められているのだ。
「はい、お母様。素敵な悪魔様と契約して、私が魔王の座につきますので安心してくださいなのです」
……とは言ったものの私には不安しかない。悪魔との契約とは、どのようなことをするのだろうか?魔王の子供へ転生したが、前世の記憶があるので、悪魔と会うことに躊躇いがあった。
「天使様ならよかったなのです」
と心の中で呟いていた。
「カァラァ、リプロ、2人もがんばって偉大な悪魔と契約するのよ」
「はい、お母様。お姉ちゃんの力になれるように、偉大な悪魔様と契約します」
カァラァとリプロは私の2人の弟である。私より魔力量は少ないが、2人ともかなりの魔力量の持ち主である。この2人のどちらかが魔王になっても、魔界のバランスを保てるだけの力を秘めている。
悪魔との契約の儀式は、魔王城の最上階にある契の間で順番に行われる。順番はリプロ、カァラァ、そして私である。
「最後は嫌なのです」
とまた心の中で呟いた。トリを飾るのが主役の務めではあるが、緊張感を最後まで持ち続けるのは辛いものだ。
「お母様、いってきます」
リプロは自信溢れる表情で契りの間に進む。
「いってらっしゃい。がんばってくるのよ」
「はぁ~」
私は思わずため息が出る。悪魔との契約ってどんな事をするのだろう。お母さまに聞いても儀式の内容は秘密なので教えてくれなかった。「簡単なものよ」とお母様は言ってはいたが、簡単なものなら教えても問題ないはずだ。逆に私の不安が大きくなった。だって悪魔だよ!想像しただけでもおしっこをチビってしまうくらい怖い。前世の記憶があることでかえって仇となる。私がビクビクと怯えている間に30分が経過して、リプロが契りの間から出てきた。
「やったよ!お母様、僕は3人の悪魔様と契約したんだよ。この悪魔様の能力を自在に扱えるよう日々訓練をして、お姉ちゃんの配下として頑張ります」
「よくやったわ。3人の悪魔様と契約するなんてすばらしいわ。配下としてルシスを支えてね」
「はい。お母様」
次はカァラァの番である。カァラァもリプロと同様に3人の悪魔との契約に成功する。
「僕もお姉ちゃんの力になれるよう日々精進します」
と嬉しそうにカァラァは答えた。
2人の弟はお姉ちゃん大好きっ子に育ってしまっている。魔王はお姉ちゃんになってもらって、自分たちはサポートに徹するのが、2人の弟の目標になっていた。しかしそれは、そうなるようにお母様が育てたというのが正解なのかもしれない。そしてついに私の番が来てしまった。
不安しかないのです!