合成魔獣
「ロキ……ベアーウルフまでも死んでるやん」
シュティルの森の奥へ進むにつれて、ブラックウルフの死体が増えていく。そして、シュティルの森の中心部付近に到達すると、シュティルの森の頂点に立つベアーウルフの死体までもが転がっていた。
※ ベアーウルフ 体長は2mを越え二足歩行もできる。赤黒い毛並みの狼と熊が合体した魔獣 鋭い牙と鋭い爪を持つ Eランク魔獣。
「この森で何が起こっているのかしら」
「わからん。でも、何かとんでもない化け物がいるのは確定やな。ロキ、どないするつもりや」
「トール……撤退しましょう。と言いたいところですが、奇妙だと思いませんか」
「そやな」
「ロキさん、奇妙とはどういうことですの」
ポロンだけが気付いていないようだ。もちろん私はわかっている。
「簡単なことです。魔獣の生息する場所は、中心部に近づくほど強い魔獣が生息しているのです。私たちは中心部に近づきつつあります。それなのに、膨大な魔力を感じ取ることができないのです」
強さは魔力量に比例する。魔力操作に長けた者は、相手の魔力量を感じ取ることで強さを認識する。その為、魔力操作に長けた者は、相手を油断させるために魔力操作で魔力量を偽装をする。しかし、これは知恵をもつ種族の特徴だ。一方、魔獣は違う。魔力量は強さの証、己が強者であることを強調するために、魔力量を隠すことはしない。むしろ、己を強く見せるのが魔獣だ。もしも、シュティルの森の中心部にとんでもない化け物がいるとしたら、己の魔力量を誇示することで、強さを見せつけるはずである。
「もしかすると、俺たちは相手にされてないかもしれんわ」
「その可能性も考えられますが、私たちは魔獣の生息地を荒らす破壊者よ。私たちの侵入を歓迎することはないわ」
魔獣は縄張り意識が強い。自分の生息地でしか狩りをしない反面、自分の生息地へ侵入するモノは徹底的に排除する。
「原因を調べるのが俺らの仕事ってわけやな」
「そうです。逃げるのは原因を突き止めてからよ」
「全てを理解いたしました。しかし、これ以上先へルシスさんを連れて行くことには反対です。なので、私はルシスさんとこの場所で待機することを提案いたします」
「レッツゴーなのです」
私はポロンの提案を無視して、シュティルの森の中心部へ向かった。
「ポロン、残りたいのなら1人で残っとけや」
「ポロン、私たちは先へ向かうわ」
「ちょっと待つのですわ。私を1人にしないで下さい」
私は魔力操作をして魔力量を最低限の出力に抑えている。しかし、まだ魔力が戻って初日である。修業の成果を100%発揮しているかというとそうではない。完全に魔力を抑えることができていないので、ロキとトールには、私がただモノではないことはバレてしまっているのは当然だ。
「ギョエ~~~~~~」
ポロンは絶叫してその場に尻もちを付く。
「おいおい、なんやねんあれ!」
シュティルの森の中心部に到着した。シュティルの森の中心部には、太陽光を遮る木々が一本もなく直径1㎞ほどの円形の広場となっていた。そして、円形の広場には色とりどりの花が咲いて、そこはシュティルの森の王が住むにふさわしい庭園となっていた。その庭園の中心部には体長5mほどの大きな生き物が横たわっていた。
「あ……あれは魔獣ではないわ」
「ロキ、どういうことやねん?」
「合成魔獣なのです」
私はトールに答えを伝える。
「ロキ、ルシスの言っていることは本当か?」
「はい。あれは禁忌の力で作られた合成魔獣キマイラよ。しかし、キマイラは研究段階で合成に成功した事例はないと聞いているわ」
「オホホホホホ、そういうことでしたのですね。ビックリして損してしまいました」
※ キマイラ ライオンの頭と前足をもち、胴体と後ろ足は山羊で、尻尾は毒蛇でできている5mくらいの大きさの合成魔獣 ランクは対象外。
ポロンはむくっと立ち上がりキマイラに近寄ろうとする。
「ポロン、どうするつもりだ」
「これは失敗作ですわ。私を驚かしたバツとして蹴りを一発お見舞いしてあげるのですわ」
「ポロン、近づくのは危険よ。合成魔獣は人が禁忌の力で作り出した魔獣よ。だから、魔獣とは違い魔力を感知することができないの」
「ひぇ~~~~。それを先に説明するのですわ」
ポロンは急いで引き返してトールの後ろに回って身を隠す。
「寝ているのか?」
「わかりません。でも、不用意に近づくのは危険よ」
「そやな。ちなみにコイツのランクは知っているのか」
「成功例がないのでランク付けはされていないはずよ。しかし、Aランク級の魔獣になると聞いたことがあるわ」
「ちょ……調査は終了ですわ。即時撤退を提案いたします」
「そやな」
「致しかたありません」
3人の意見は一致した。しかし……私は小走りでキマイラに近寄った。
「ルシス」
「ルシスちゃん」
「ルシスさん、危ないですわ!」
3人は一斉に走り出して私を止めに入る。しかし、3人が私を捕まえる前に私がキマイラの前に到着した。
「ほら、問題ないのです」
私はキマイラの首根っこを捕まえて、引きずるように持ち上げた。
「パチン」
ロキが私の頬に平手打ちをした。
「無茶はしないでと言ったでしょ」
「そやで、お前が強いのわかっている。でも、安全を確保してから動けや」
「ルシスさんが無事でよかったのですぅ~~~」
私はキマイラが死んでいることを知っていた。しかし、3人は知らないのである。これは完全に私が悪い。きちんと3人にキマイラが死んでいることを説明してから、行動をおこすべきであった。
「ごめんなさい」
私は涙が溢れ出た。それは平手打ちをされた痛みではない。昨日出会ったばかりの私のことを心から心配して怒ってくれた3人に対する嬉し涙であった。
良い仲間と出会えてよかったのです。