続サンドイッチ
「トール、今までどこをほっつき歩いていたのですか」
ロキの顔はまたしても閻魔大王へと変化していた。
「知らんわ。さっき目を覚ましたら路上で寝ていたわ。キャキャキャキャキャキャ」
トールは話をそらすように笑う。
「……。トール、このテーブルにはおかみさんが私とルシスちゃんのために用意してくれたサンドイッチがあったはずです」
「キャキャキャキャキャキャ。あの美味しそうなサンドイッチなら俺のお腹の中やわ。俺のために用意してくれてサンキューやで」
「トォ~~~~~ル!あのサンドイッチはお腹を空かしたルシスちゃんのために用意してもらったのです!ルシスちゃんに謝りなさい」
「はい、はい。ルシス殿、申し訳ありませ~~~~ん」
トールは全く反省していないようだ。
「ルシスちゃん、ごめんね。私の不甲斐無い仲間があなたのサンドイッチを食べてしまったようです。すぐに追加で注文するから許してね」
「ロキお姉ちゃん、私は気にしていないのです」
「ロキ、俺のサンドイッチも注文してくれや」
「トール、いい加減にしなさい!」
「ロキ、そんな怖い顔をして怒るなや。俺も反省しているんやで」
「ロキお姉ちゃん、私がみんなの分を注文してくるのです」
私はふと前世の記憶を思い出す。地獄行きの原因になったプリン事件のことを。私は知っていたのだ。お姉ちゃんが冷蔵庫に大好きなプリンを保管していたことを。それなのに、甘いプリンの誘惑に負けてコッソリとプリンを食べてしまったのだ。もちろん、すぐにプリンを食べたことはバレてしまって、お姉ちゃんにこっぴどく怒られてしまった。私はトールを憎むどころか、共感してしまった。トールにとってのロキは、前世の私のお姉ちゃんのような存在なのであろう。ついつい優しいお姉ちゃんに甘えてしまっているのだ。
「ロキお姉ちゃん、すぐに3人分のサンドイッチを用意してくれるそうです」
私はおかみに頼んで、すぐにサンドイッチを用意してくれるようにお願いした。
「よくやったなルシス!お前は使える子供や。俺たちの仲間にしたるわ」
「はい。よろしくなのです」
トールからの仲間への誘いは冗談だとわかっている。でも、亜人に見える私への差別意識もなく、気さくに接してくれたことが嬉しかった。
「トール、バカなことを言わないの。ルシスちゃんは子供です」
「キャキャキャキャキャキャ。冗談や。でも、コイツ……強いで」
トールは真剣な眼差しで私を見た。それは蛇を睨むカエルのように私を威圧していた。
「ほらな。俺の威圧に全く動じないわ。キャキャキャキャキャキャ」
「ルシスちゃん、トールが変なことを言ってごめんね」
「全然気にしていません」
私は場を和ませるようにニコニコと笑う。
「ツノが生えた種族とは珍しな。お前はお牛さんなのか」
「トール!失礼なことを言ってはいけません」
「ロキお姉ちゃん、私は気にしていないのです」
トールは私をからかっているが亜人族とは言わなかった。トールは私の頭にツノが生えていることを無視するのもおかしいと思って敢えてツノのことを茶化したのだ。
「ルシス、捨てられたのか?」
「……はい」
「これからどうするねん」
「わからないのです」
トールはロキが聞きにくいことをズバズバと聞いてくる。しかし、これもトールなりの愛情表現なのであろう。
「ロキ、俺たちはいつ死ぬかもしれない破壊者や」
「わかっているわ」
この世界では冒険者のことを破壊者と呼ばれている。
「ルシス、遠慮せずに本心を言えや」
「……。私はロキお姉ちゃんと一緒に居たいです」
前世の記憶もあり、明日にはチート級の力が手に入る。そうすれば、8歳の私でも1人で生きていくのは容易いだろうと思っている。でも、お母様とどこか雰囲気が似ているロキと一緒に居たい。
「キャキャキャキャキャキャ。ロキ、めっちゃなつかれているやん。ちゃんと責任を取らなあかんで」
「そうね。ルシスちゃん、私たちと一緒に旅をする気はないかしら?」
「あるのです。荷物持ちでも何でもしますので一緒に居たいのです」
私は即答する。
「よし!ルシスの【ラストパサー】への加入を認めるわ。ロキ、ルシスの加入祝いにガンガンに食べまくるぞ」
「トール、ルシスちゃんを歓迎するのは良いことよ。でも、もう路銀が底を尽きているの!」
「嘘やろ。依頼の前金があったはずやん」
「あなたが私の財布から盗んだのを忘れたの!」
「……。すまんルシス。歓迎会はなしやわ」
「大丈夫なのです。仲間にしてもらえただけで嬉しいのです」
「お~~~。ロキと違ってルシスは素直で可愛いのぅ。これからは俺のことは親分と呼べや」
「はい。トール親分」
「トール!ルシスちゃんに変な呼び方をさせないで」
「キャキャキャキャキャキャ」
トールは無邪気に笑う。
「ロキ、追加のサンドイッチができたわよ」
おかみがサンドイッチを運んできた。
「お!待ってたで」
「トール、あんたのは後回しだよ。お嬢ちゃん、私の特性サンドイッチをどうぞ」
おかみは私にサンドイッチを渡してくれた。
「こっちは、ロキの分ね」
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。トールの分は後回しにしといたわ」
「そんな殺生な……」
トールは涙目で俯いた。
「皆さま、おはようございます。今日も素敵な1日をお過ごしでしょうか?あら、美味しそうなサンドイッチではございませんか。私が起きる頃合いを見計らって用意して下さるなんて、誠に光栄ですわ。遠慮なく頂きます」
目を覚まして部屋から食堂へ降りてきたポロンは、テーブルに用意されていた私のサンドイッチを食べてしまった。
私のサンドイッチはいずこへ……。
トールのイメージ画像