母との再会?
私には選択肢は1つしかない。それは逃げることだ。しかし、どこへ逃げれば良いのだろうか?このまま引き返すのが妥当だが、次の町へ向かう道のりが安全とは限らないし、次の町が安全だとも限らない。もしかすると、転送されたこの国自体が亜人族を差別をしている可能性もある。私はここでまたしても新たな選択を迫られる。
「誰か助けてください。門兵の人が私のことを誘拐しようとしているのです」
町の門は開かれていて行く手を遮るものはなかった。私は大声を上げて助けを求めるために町の中へ侵入した。もしかすると、私のことを助けてくれる人がいる可能性を信じたのである。
「助けてください。助けてください」
私は泣きながら大声で叫んだ。男たちに捕まったら生贄として殺されるかもしれない。今は生きるためになりふりを構っている余裕はない。
「逃げるな亜人!誰もお前のことなんて助けてはくれないぞ」
すごい勢いで門兵は私を追いかけてくる。門兵は町の中へと逃げるとは思っていなかったようで、少し行動が遅れてしまっていた。
「誰か!助けてください」
町の中へ入ると数名の人間とすれ違うが、誰も私を助けてはくれない。けれども捕まえようともしない。みんな見て見ぬふりをしているのだ。私は必死に泣き叫びながらも一筋の希望が見えた。もしも、この町全体が亜人族を差別していたら、門兵に協力して私を捕まえるはずだ。これを希望と言わずして、何を希望と言うのだろうか!絶対にだれか1人は私を助けてくれるはずだ。そう願いながら必死に町の中心部へ向かって走って逃げる。しかし、弱体化した私の足では大人から逃げることなんて出来なかった。200mほど走った場所で私はローガンに捕まってしまった。
「はぁ~はぁ~。やっと捕まえたぜ」
「ローガン、息を切らしているぜ。少しは痩せろよ」
「お前だって女遊びばかりしてるから体力ないだろ」
「ハハハハハ、そうだな。こんなガキ1人を捕まえるのにお互いにバテバテだな」
2人は私を羽交い絞めにして余裕の態度を示す。
「やめてください。私は何も悪いことなどしていないのです」
「お前は何もわかっていないな。亜人であることが悪いんだよ!」
私は頭を掴まれて地面に擦り付けられた。
「助けてください。助けてください。誰か助けてください」
私は希望を捨てない。魔王書庫へ幽閉され魔界からも追放された。最後は神の供物となって死ぬなんてまっぴらごめんだ。
「うるさいぞこの亜人め。少しは黙りやがれ」
そう述べるとローガンは地面へおさえつけていた私のお腹を蹴っ飛ばしたのである。
「あぁぁ~~~」
呼吸ができないほどの激痛が腹部を襲う。なぜ私はこんな目に合わないといけないのだろう。明日まで魔王書庫にいることができていたら、お母様に全てを話してまた家族で仲良く過ごせたはずなのに。しかしそれは叶わぬ夢である。私はお腹を蹴られた痛みよりも、自分の育った環境が悲しくなり、とめどなく涙が溢れ出る。
「助けてください。助けてください」
それでも私は諦めない。こんな環境に陥ったのは悪魔が怖くて契約を拒んだ自分の責任だからだ。お母様は何も悪くない。環境を嘆くのは筋違いであった。だから私は諦めない。
「黙れ!泣き叫ぼうが誰も亜人なんか助けるものか!」
ローガンとルークは、しつこく泣き叫ぶ私の態度にイライラが募り2人で私をタコ殴りにする。
「やめなさい!」
背の高い黒髪の女性が大声を張り上げた。
「黙れ!俺様はこの町の町長の息子だぞ」
ローガンは門兵であるが町長の息子でもあった。だから誰も私を助けることをしなかったのであろう。
「あなたの立場などどうでも良いのです。すぐに女の子を解放しなさい」
「ローガン、コイツはギルドの要請できた破壊者だぜ。揉めるのは得策じゃないぞ」
ルークはローガンに忠告をする。
「コイツは亜人だ。亜人がどうなろうと問題ないはずだ」
ローガンはルークの忠告を無視した。
「それはおかしいのです。この国の王女殿下は、人界に生きるすべての種族は平等であると公言しています」
「……。そうだ!このガキは手続きを踏まずに勝手に町へ侵入した罪人だ。俺たちは職務を全うしただけだ」
ローガンは難癖をつけて自分の正当性を主張する。
「あなたの言い分は理解しました。それならば、その女の子が勝手に町へ侵入した罰は受けたはずです。これ以上の狼藉は私が許しません」
「……」
「ローガン、手を引くぞ。相手が悪いぜ」
ルークはローガンの手を強引に引っ張って門へ戻って行った。
「お嬢さん、よく頑張りました。あなたの叫びはきちんと私の元へ届きましたよ」
「お……お母様……」
私を助けてくれた女性は長い黒髪の綺麗なお姉さんだった。お姉さんの凛とした佇まい、優しい笑顔、そして心を鼓舞する言葉に思わず私はお母様と呟いてしまった。
「よくがんばりました」その言葉は私がお母様に言ってほしかった言葉だった。
「大変だったのね」
私の素性など何もしらない女性だが、私を強く抱きしめて優しく包み込むように頭を撫でてくれた。
「お母様、お母様、私はがんばったの。大変だったけどがんばったの」
「うんうん。えらいわね」
女性は理由も聞かずに私の心からの叫び声に答えてくれてずっと抱きしめてくれた。やっと私はお母様に褒めてもらえた。そんな気がしたのであった。
とても嬉しかったのです。