長い旅路の終わり
「ポロン、起きろ!海鮮丼祭りに乗り遅れたやんけ」
「大失態です。お少しお昼寝をしたつもりが、もうこんな時間です。トールさん、急いで会場へ向かいましょう」
2人は30分ほど睡眠を取るつもりが、がっつりと3時間も寝てしまった。今の時刻は19時である。
「すごい人やで」
「海鮮丼祭りは大盛況のようです」
港には、祭りの熱気とともに、身動きが取れないほどの人がひしめき合っていた。
「ポロン、この人混みを一気に突き抜けて海鮮丼をゲットするで」
「もちのろんの助です」
2人は人混をかき分けながら海鮮丼の匂いを手繰るように先へと進む。
「ゲソ――。満足したゲソ」
トールとポロンの間を1人の少女がすり抜けて行った。
「ポロン、出店が見えたで」
「目標物を発見しました。後は突撃あるのみです」
たくさんの人の間を潜り抜けてようやく海鮮丼を提供してくれる出店が立ち並ぶ場所へ辿り着いた。2人の鼓動は最高潮の高鳴りをみせる。この瞬間を2人はどれだけ待ちわびていただろうか。遂に念願の海鮮丼をお腹いっぱいに食べることができる。そう思うと、2人はこれまでの出来事が走馬灯のように頭に浮かぶ。
「おっちゃん、海鮮丼をもらうで」
「私にも海鮮丼を1つ用意して頂いてもよろしいでしょうか」
「すまん。今の女の子で海鮮丼は売り切れになったぜ」
「ポロン、案ずるな。今日はたくさんの出店が立ち並んでいるので、次の出店へ向かうで」
「もちのろんの助です」
2人に不安がよぎることはない。しかし、この展開は一昨日と同じ展開である。
「嘘やろ」
「嘘だと言ってください」
「申し訳ありません。先ほどの女の子で海鮮丼の提供は終了致しました」
2人は私の予想通りの結末へとたどり着く。またしてもクラちゃんが海鮮丼を食べつくしたのである。
「そんな殺生なぁ~~~」
「酷いのです。とても酷いのです。私が何か悪いことでもしたのでしょうか」
2人はその場に座り込んでしまった。
「トール親分、殲滅のポロンさん、こんな所にいたのですか」
「……」
「……」
返事が返ってこない。
「向こうでロキお姉ちゃんが待っているのです」
「……」
「……」
2人は屍のように微動だにしない。
「ロキお姉ちゃんが海鮮丼を用意して待っているのです」
私の言葉に2人はピクリと反応した。
「ど……どうせ丼に米粒1つだけやろ」
「そうです。私たちは山盛りの海鮮丼を食べたいのです」
以前の2人とは違う。今は米粒1つで満足するほど落ちぶれてはいない。
「無問題なのです。フリューリングさんがお2人の分の海鮮丼を確保してくれていたのです」
「ほんまかいな」
「その話を鵜呑みにしてもよろしいのでしょうか」
「はいなのです」
「ポロン」
「トールさん」
2人はお互いに見つめ合い方を組む。
「抜け駆けはあかんで」
「もちのろんの助です」
なぜか2人は肩を組みお互いの足を紐で結んで二人三脚で走り出した。
「ポロン、これで抜け駆けはできひんで」
「それはこっちのセリフとなります。私の分の海鮮丼には指一本触れさせません」
2人はお互いのことを信じていない。それはお互いに相手の海鮮丼までも食べたいというやましい気持ちを持っているからだ。同じ穴の狢という言葉がぴったりと当てはまる。
「ところでポロン、どこへ向かっているんや」
「それはこっちのセリフとなります。トールさんこそどこへ向かっているのでしょうか」
2人は早く海鮮丼を食べたいという気持ちが止められずに無我夢中で走り出した、私を置き去りにして。
「待って下さいなのです」
2人が止まって話し出したので私は無事に追いつくことができた。
「逆なのです。あっちのテーブルでロキお姉ちゃんが待っているのです」
2人が走り出した方向はロキが待つテーブルとは真逆だった。私はロキが待っているテーブルの方向を指さした。
「こっちやんけ」
「こっちです」
私の言葉を聞くと2人は息の揃ったリズムで走り出す。もしも二人三脚の大会があれば2人が優勝することは間違いないだろう。
「ポロン、この匂いは……」
「間違いありませんこの先には絶対に美味しい海鮮丼があるはずです」
ついに2人はロキが待つテーブルに辿り着いた。
長い長い旅路だったのです。




