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母の思い

 ※ルシスの母親視点になります。



 ルシスを書庫に監禁して約3年が経過しようとしていた。

 

 ルシスは契の間から出てきた時には完全に魔力を失っていた。魔力を失った原因が魔石を浄化されたことまでは解明することができた。しかし、どのようにして魔石を浄化したのかはわからなかった。私はルシスの魔力が戻ることを切に願いながら、ルシスを見守ることしかできなかったのである。


 ラファンとは魔界随一の智者であり、魔王軍参謀長官の職に就いている。ラファンは先代の魔王の弟であるが、魔王と共に冥界へ旅立つことなく、魔界に残った忠義が厚く信頼できる人物だ。私の至らない点はラファンが補ってくれていると言っても過言ではないだろう。今回のルシスの件もラファンに助言を仰いでいる。しかし、魔界随一の知恵を持つラファンでさえルシスの魔石が浄化された原因を掴むことはできなかった。


 私はラファンの協力を得て、ルシスが魔王城の地下で療養しているという嘘を他の魔族たちにバレないように偽装してもらった。ラファンの発言力は絶大だ。ラファンを疑う者などいなかったので、この3年間は誰もルシスの療養生活を疑う者は現れなかった。


 ルシスを魔王書庫へ幽閉した理由は2つあった。1つ目は、角が白色化したことで魔力を失った事実を隠すためだ。しかし、監禁する最大の理由は2つ目にある。魔界には魔瘴気が空気のように満ち溢れている。魔瘴気とは無色無臭なので存在自体に気付くことはなく、空気のように息をするたびに体内へ吸収される。魔瘴気は魔族にとっては魔力を高めるエネルギーとなるので、吸収することは良いことだ。だが、魔族以外の種族にとっては毒となる。魔族以外の種族が魔瘴気を吸い続けると次第に体は蝕まれて、長く吸い続けると死に至るのである。魔石が浄化されたルシスは魔瘴気が満ち溢れている魔界では生きていけない。


 私は魔王書庫に部分的結界を張ることで、ルシスの体を蝕む魔瘴気から守ることにしたのだ。しかし、結界を張ることだけではルシスを守ることはできない。絶えず魔瘴気を体内に吸収している魔族は体の皮膚から魔瘴気をオーラのように纏っている。この魔族の体を纏う魔瘴気のオーラでさえ魔石を浄化されたルシスの体を蝕むのである。ラファンのこのような進言を真摯に受け止めた私は愛するルシスを守るためにルシスと会うことまたは魔王書庫に近づくことを禁じたのである。



 「ルシスは私のことを恨んでいるでしょうね。この3年間は2人の息子の修業を手伝い、魔界の治安を維持しながらも、ずっと魔石が元に戻る術を調べていたわ。ラファンに協力してもらって、魔界に住むあらゆる智者の協力を仰いだけれど、全て徒労に終わってしまったわ。でも、絶対に諦めないわ」



 ラファンはバティンとオロバスという2人の悪魔と契約している。バティンは瞬間移動の能力(スキル)、オロバスは三世(さんぜ)能力スキルを有する。三世(さんぜ)とは現在、過去、未来の出来事を知ることができる能力(スキル)であり、ラファンは三世(さんぜ)能力スキルを巧みに使いこなして、魔王書庫の全ての叡智を知り尽くした人物だ。そのラファンが魔界全土に住む智者たちの協力を得ても魔石を元に戻す方法はわからなかった。ラファンからはルシスのことは諦めるようにと言われたが、私は諦めることなどできなかった。この先何十年かけてもルシスの魔石が元に戻る方法を探し続けるつもりだ。しかし、私の思いとは逆にルシスの状況は悪くなるばかりであった。


 ルシスに会えない私はブエルの能力(スキル)を使ってルシスの健康状態を遠隔で確認していた。ルシスは魔王書庫に監禁されて1か月が経過したあたりから睡眠時間が長くなっていた。魔王書庫に幽閉されて、本を読む以外は何もすることはないので仕方がないことだろうと思っていた。しかし、月日が増すごとに睡眠時間は多くなる。ルシスは本しか読んでいないはずだ。それなのにハードな運動をしたかのようにぐったりとして眠っているのだ。しかもこの1年間は晩御飯もろくに取らずに眠り続けているのだ。あきらかにおかしい。ブエルの能力(スキル)で健康状態をチェックしても、異常なところは見つからない。だが、疲労困憊しているのだけは確実だった。


 私はラファンに何度も相談した。ラファンは原因不明の病だと判断したが、最近になって新たな仮説を提唱してくれた。その仮説とは、私の張った結界でも防ぎきれずに魔瘴気がルシスの体を蝕んでいるという結論だった。



 「レジーナ王妃殿下、ルシス王女殿下のことを思うのであれば、魔界から追放すべきだと思います」

 「……」



 ラファンの言っていることも一理あると思う。しかし、ルシスと完全に離れ離れになるのは嫌だ。



 「このままルシス王女殿下を魔王書庫にて幽閉し続ければ、いずれ魔瘴気に蝕まれて死んでしまうでしょう。私もルシス王女殿下の回復を信じて、あらゆる智者に相談して治療方法を探してきました。そもそも、ペンタブラックの魔石を持つルシス王女殿下の魔石を浄化することなど不可能なのです。これは魔界始まって以来の難病だと診断するしかありません。もう、一刻の猶予もありません。ご決断をお願いします」

 


 ラファンはルシスを人界へ避難させるべきだと進言してくれた。人界なら魔瘴気は存在しないので、これ以上ルシスの体を蝕むことはない。本当にルシスのことを考えるのならば、魔王書庫で幽閉しながら死を迎えさせるよりも、人界でのびのびと生きて欲しいと願うのが母親の務めなのであろう。私はラファンの進言を受け入れることにした。



 「わかったわ。でも転送する場所は私が指定するわ」

 「御意」


 

 ラファンはバティンの瞬間移動の能力(スキル)を使うことにした。瞬間移動の能力(スキル)は自分自身もしくは相手を転送させることができる。魔界であれば一度訪れたことがある場所ならばどこへでも転送することができる。しかし、魔界から天界や冥界への転送はできない。だが、魔界から人界への転送は設置された転送ポイントなら可能である。

 ルシスは魔族だけど魔力を失ったことで魔族ではなく亜人だと判断されるだろう。人界では亜人は差別の対象となる国も多い。ひ弱なルシスがそのような国へ転送すれば殺される危険性がある。私はラファンに命じて亜人と人間が仲良く共存している国へ送るように命じた。





 「やっと邪魔者を処分できるな」



 ラファンは不敵な笑みを浮かべて呟いた。


 

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