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短編まとめ

愛されなくても別に問題ない、ていうか愛がないほうがいい

作者: よもぎ

一部性行為を思わせる表現があります(とてもマイルド)

「君を愛することはない」



結婚式直前に言われたその言葉に、鼻で笑ってしまった。

この男――夫となる予定のハロルドとは、一年前の顔合わせで会ったきり、今日まで手紙の一枚も交わすことのなかった関係だ。

それでよしとしていたのだから、こちらにも愛などないのは分かっているだろうに。



「それで?おつむの弱いあなたさまは、わたしがあなたの愛を望んでいると本気でお思い?」

「なっ」

「わたしとあなたに望まれているのは、両家の血を引く子を作ること。

 家を潰さないこと。

 たったそれだけのための婚姻関係に、愛?笑わせないでくださいますか?」



そこでとんとん、と扉がノックされた。



「はい」

「式の準備が整いました。ご入場を」

「はい」





式は何事もなく終了した。

若干顔色の悪くなったハロルドのことは気にしない。

わたしの仕事はにこやかに花嫁を演じること。

そして今夜以降は子種をいただくこと。

それだけ。


それだけなのに、夫婦の寝室に来ようとしない夫。

即座に使用人に命じて部屋に連行してもらって、その気になれないと喚く夫に媚薬を飲ませて子種を出させたわ。

別に行為をしなきゃいけないのじゃない。

子種を腹にいただければいいのだから、清純ぶらないで欲しいわ。


それから毎晩、嫌がる夫を使用人に押さえつけさせて、なんとか子種を出させては腹に入れる。

数か月後には無事妊娠出来たので、ひとまず放り捨てる。

大事なのはお互いの家の血を引く子供を産むこと。

夫が何を気に入らなくて役割を果たさないのかなんて、些細なことよ。



その後調査してみたのだけど、どうも愛人がいるみたいね。

屋敷にはまだご両親がいらっしゃるから引き込めないし、今は使っていない別邸にかくまっているとか。


さすがに別の女に血を引く子供なんてできても困るから、タチの悪い――妊娠できなくなる――堕胎薬を毎日口にさせるように指示をした。

別邸といっても同じ敷地内で使用人もこちらのものが通っているのだから、料理に堕胎薬を混ぜ込ませるだなんて簡単なことよ。

ま、分かっているはずのご両親が黙認なさっているのが気になるところだけれど、別にどうだっていいわ。




生まれた子は双子の男女。

ちょうどいいわ。

跡継ぎと政略で使える組み合わせが生まれた以上、もう子は要らないわね。

あとは順当に家を継ぐため、そして貴族として当たり前の教育を与えるだけ。

義父母は夫をああ育てた実績があるのでわたしが全て教えるわ。


貴族婦人として、せっせと社交に励み、育児にも力を入れて過ごすうちに十年が経過した。

夫はいつまで経っても妊娠しない愛人に苛立ちを隠せていないけれど、そりゃあ塩がまぶされた畑に種をいくらまいても育ちはしないでしょう。

わたしが子を産んだのだから自分が不能というわけじゃないことは分かっているだけに、腹が立つのでしょうね。


そういえば愛人に飲ませていた堕胎薬もそろそろいいかしらね。

どれだけ強い子袋を腹に持っていたとて、こんなに長い間飲んでいたのだもの。

もう子を宿すことなどできないでしょうし。


ああ、夫や義父母にも処置が必要かしらね。

こちらに関してはきっちりしたいから断種薬をきちんと取り寄せて飲んでいただかないと。

わたしはブランデーを嗜まないけれど、あの方々は嗜むし、肴としてチョコレートをつまむからチョコレートに仕込んでおけばいい。

断種薬は苦いというし、いつもよりチョコレートを少し甘めに仕上げさせて薬を誤魔化せばなんとも思わないでしょうね。



子供たちはきちんと貴族らしい考え方に育ってきていて、満足している。

自分の祖父母や父が間違った風に育った貴族だとしっかり認識させたおかげで、無駄に夢を見たりロマンに思いを馳せたりしていない。

勿論憧れを持つことは悪いことじゃないとも言っているし、恋愛小説を読むことも禁止していない。

だけど現実では愛し合ってお互いに選びあった人と結婚する、なんて事はないのよ、とだけきちんと言ってある。


夫が執務を放棄しているおかげで、わたしは実質当主としてこの家を切り盛りしている。

だから、政略と相性を考えて縁談も進めているところ。


わたしは実家ではあまりものだったから適当に嫁に出されたけれど、息子と娘は違うもの。

大事な跡継ぎ、大事な嫁入り娘。

家のために生きては欲しいけれど、不幸になってほしいだなんて考えていない。

子供の社交で相性のよさを確認して、その家の背景や何やらを調査して。

それで大丈夫そうな家を残していき、今はいくつかの家に的を絞っている。


あとは子供たちが選ぶだけね。




夕暮れの執務室に、子供たちがそわそわと入ってくる。

後ろ手に何かを隠しているけれど、侍女たちの微笑ましそうな顔からして危ないものではない。



「なぁに?お母さまに見せたいものがあるの?」

「はい。あの。お母さまのお誕生日、今日初めて知ったんです」

「晩餐、いつもと同じだって知って、でも、お祝いしたくて」



そうしてすっと出されたのは、少しぶきっちょに作られた花冠と花束。

きょとんとするわたしに、かがんで欲しいというからかがむと、頭にそっと花冠が授けられた。



「今日はお母さまが一番主役の日だから!」

「そうよ。あのね、今日はね、お母さまの好きなアップルパイをデザートにしてもらったわ」

「あら。そんなことしなくても――」

「皆お祝いしたかったって言ってたの!」

「でもお母さまがしなくていいって言うから出来なかったんだよ」

「だからわたしたちはしてってお願いしたの」

「ダメだった?」



そわそわとする二人をそっと抱きしめ、頬にほおずりする。



「嬉しいわ。優しい子に育ってくれたこと、お母さまは何より嬉しい」

「「よかったぁ」」



ぎゅう、と抱き着いてくる子供たちに、私は益々嬉しくなる。

不出来な血筋が混じろうとも、「いい子」は作れるのだ。

たとえ片方しか「親」がいなくても。


この子たちの未来に幸あれ。

わたしの愛は、この子たちにだけ与えるものだ。




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