第97.5話 舞台裏
カケルとギンが部屋を後にした学園長室では、アルバ・ユーハランスが一人席に座り、紅茶を啜っていた。
「ふぅ、彼が来てこの国の状況が本当に変わるのかね?」
「さぁ、それは分かりません。ただ、彼は進行役ですからね。この国の物語は動き出すはずですよ?」
そんな部屋にはもう一人、メガネをかけて髪を七三分けにした男性がいつの間にか机の端に腰かけて同じく紅茶を啜っていた。
「少なくとも日本は変わり始めます。政府は今回の件を受けて、海外との貿易を再び再開する動きを見せてますよ?その第一歩として彼を寄越したのです」
「彼一人にそれ程の価値があるとは思えんがな」
紅茶を飲み干し、コップを置いたアルバは皮肉混じりの声色で男に言った。
「価値とは後になって初めて分かるものですよ。彼はクール君を倒し日本を、いや世界を変えた。その結果が示すものは一つ。彼には確かな価値があったということ。そして、それを認めたからこそ……貴方たちは彼を要求したのでしょう?」
男はアルバに対して優しく、だが維持の悪い笑みを浮かばせながら紅茶を机の上に置いて、机から離れて扉まで歩いて行った。
「イギリスでも彼がもたらす結末が、貴方達を、この国をどう変えるか、楽しみにしてますよ。では私はこれにて、私もこう見えて忙しくてね」
「そうか。手回しご苦労だった」
「いえいえ。私はやるべき事をしているだけです」
男が扉を閉めた後、アルバは席を立ち部屋の中心まで歩いて立ち止まった。
そして杖を二回、地面に軽く叩いた。すると、部屋の景色は宇宙空間の様な場所へと変化した。
『随分、遅かったな。アルバ・ユーハランス殿。貴殿と同じ、我ら七大名家と魔術王であるアウレス様を待たせるとは』
「これは失礼。少し客人と話し込んでしまってね」
『まぁまぁ、良いではないですか。アルバさんは学園の経営もしてくれているんですから。少しくらい遅れてもいいでしょう』
アルバの頭上には巨大なモノリスが六つ浮かんでおり、その内の二つから威厳のある声と少し砕けた陽気な声が聞こえてきていた。
『して、例の少年はどうだ?』
「そうね。アウレス様のご氏族様を倒したと言う真偽はまだ分かりませんが、私の所感では 至高なる七柱に差し迫る実力者かと」
『何と!?彼らにか!?』
「実際、ギンは彼に負けたらしい」
『馬鹿な!?』
アルバの一言にモノリスからは聞こえてくる声達は皆驚いていた。
それもそのはず、 至高なる七柱とは、エヴァーモア魔法学園における頂点に君臨する魔法使い達の事でありギンはその一人であった。
『それが本当ならば即刻、この国から追い出すべきですぞ!貴方方も知っているはずだ!』
『虫共の事かね?』
『その通り!この数ヶ月、奴らが不穏な動きをしておる!噂ではテロを起こすのだとか!そんな状態の中に 至高なる七柱が負けたなどと言う噂が広がってみよ!より一層、火を注ぐ事は明確ですぞ!?』
モノリスの一つから聞こえてくる声は怯えた声色で他の者達に訴えかけた。
『噂は所詮噂である。仮にそんな事があるのなら、即刻処分すればいいだけでないかね?何なら、我の"猟犬"を貸し与えても良いですぞ?』
「ぷふっ」
『何がおかしいのかねアルバ殿!!?』
自分達が自ら虫と称した魔法を使えぬ者達に対して、まだ反乱が起きているわけでもないのに怯えてしまっている姿にアルバは思わず笑ってしまった。
「いやこれは失礼。たかが虫程度に何をそんなに怯えることがあるのやら。我々が彼を招いた本来の目的をお忘れですか」
『アルバ殿の言う通りだ。今は噂程度の事よりも実際に起きている事態に早急に対処するべきではないのかね?』
初めに遅れてやってきたアルバを咎めていた声の男性は、アルバに賛同したことによって先程まで会話していた二人は押し黙った。
『今起きてる事態・・・例の吸血鬼ですか?』
『そうだ。数ヶ月前から起きている虫、魔法使い無差別に次々と襲うアレを早く何とかせねばあるまい』
「その為の彼でしょう?実力は申し分ない、魔法使いではない、虫ということからたとえ死んだとしても我々には何の損害もない。以上の点で彼以上の適任はいないでしょうね」
『いかがなさいますか、魔術王アウレス様』
モノリスの一つが一際大きく目立っているモノリスに声をかけ、皆が一斉に静まり返った。
『好きにせよ』
それだけを言い残し、一際大きかったモノリスはその場から姿を消した。
「相変わらず気難しい方だ」
『ふぅ、アウレス様がいなくなったのならば我々がこの場にいつまでいても意味がない。私も失礼する』
アウレスを皮切りに次々とモノリスは消えていき、アルバ一人がその場に残された。
誰もいなくなったのを確認したアルバもここに来た時と同じ様に杖を二回叩き学園長室へと戻った。
「はてさて、彼はこの学園に何をもたらしてくれるのかね・・・」




