第97話 学生寮
「あんたが学園長か、俺はカケルよろしくな」
「こちらこそよろしく」
差し出された手をカケルが掴もうとした瞬間、周囲は一瞬にして白い景色が広がり、それと同時に出現した黒い粒がカケルに勢いよく迫った。
黒い粒は音速を超える速さでカケルに迫ったが、カケルはそれを難なく握りつぶし、そのまま正面に向かってカケルは拳を思い切り打ち、ガラスを破るようにして白い景色を破壊した。
「・・・何のつもりだよ?」
「驚いたな、私の 白景色を強引に打ち破るとは」
「挨拶にしては少し、て言うかかなり危なっかしいやり方じゃねーか?」
「いやすまないね。君の実力を見てみたくてね」
謝罪の言葉とは裏腹にアルバ学園長はこちらを値踏みするかなような目で見てきた。
「あんた、性格悪いとか言われない?」
「言われた事はないわね。それにそんな命知らずがいるとも思わないがね?」
なるほど、俺にとって一番苦手な手合いだ。カケルはこの数分の間の会話で彼女に対してそう感じた。
「そう警戒する事はない」
「するなって方がおかしいだろうが」
「ねー学園長ー!そろそろ帰ってもいいですかー?」
「おっと、すまなかったね。顔合わせはこの辺にしようか」
アルバはそう言って後ろを振り返り、先程まで座っていた席に再び座り込んだ。
「カケル君、君はしばらく私の学園で通うことになる。部屋は既に用意してあるからギンに案内して貰いなさい」
「分かった」
「じゃあ行こ、失礼しましたー」
「しましたー」
学園長の部屋を後にしたカケルとギンの二人はそのままカケルがしばらく住む事になる学生寮へと足を運んだ。
「さ、着いたよ。ここが今から君がしばらく暮らしていく事になる寮だよ」
「おおーここがか・・・」
連れてこられた場所は茶色いレンガが作られた五階建ての建築物だった。
しかし、その見た目は凄惨なものでまだ正面を見ただけでだが、壁は所々剥がれ、窓ガラスは割れ、入り口の扉はぎぃぎぃと音を立ながら開いたり、閉まったりしていた。
「・・・チェンジで!」
「ノーチェンだよ。ほら行くよ」
「いや待て待て!おかしいだろ!!?何でこんなボロっちい所なんだよ!?」
「だってしょーがないだろ?君は魔法使えないんだから、使えない人用の寮しか住ますこと出来ないんだよ」
連れてきといてこの仕打ちか。とカケルは内心で舌打ちしながら怒鳴ってやろうと思ったのだが、申し訳なさそうにするギンを見てその怒りを胸の内に閉じ込めた。
「はぁ、まぁいいや。案内頼む」
「あ?そう?いやぁ良かった良かった!怒鳴られるの覚悟してたんだよねー!」
「やっぱ一回だけ怒鳴っていい?」
「さぁーいくよー」
ボロい扉を開けて入るとまるで昔の銭湯の様な男と女と書かれたのれんがかかった二つの扉があり、その間にあるカウンターの様な場所でひじをつきながらスマホを触るオレンジ髪のおかっぱヘアの女が座っていた。
「何でここだけ日本風なんだよ・・・」
「何か作った人が丁度、日本被れしてたらしいよ?」
「だからってこんな作りに普通するかよバカか」
木でできた靴箱に靴を仕舞い、フロントに上がって女の所に近づいて行った。
「やっほーロキシーちゃん!」
「あら?ギンじゃないの?何?」
「相変わらず元気そうだねー」
「おいちょっとまて」
ギンの肩を強く掴み、カケルはロキシーと言われた女性に顔を近づけた。
「あんた・・・オカマか?」
「そうだったら何か悪いわけ?」
遠目だったのでわからなかったが、近くで見ると確かに化粧が濃いがそれに負けないくらいの青髭が顎に浮かんでいた。
なるほど、オカマの番頭ならば男女どちらの性別でもないのでここは適任だ。とカケルは内心で深く感心した。
「ギンこいつ誰よ?」
「今日からここに入居するカケルだよ」
「あ?入居しねーよ!?やだよ!こんな所!」
「はぁ、さっきも言っただろ?魔法を使えない子達は皆んなこの寮なんだ。通称"虫かご"、こればっかりは僕でもどうにも出来ないんだよ」
そうは言ってもここはとてもじゃないが人が住める様な場所とは思えない。
このフロントだって至る所に穴が空いているし、歩くたびにギシギシ音が鳴っている。
「まぁ、とにかくここから先は僕は案内出来ないからさ、彼に頼むよ」
「彼??」
「俺だ」
男と書いてあるのれんがかかった扉から現れたのは、レイヴン・アッシュだった。
「おぉ!あんたか、て言うか魔法使えないんだな」
「そうだが何か問題でもあるのか?」
「いや、ギンと仲良く話してたからよ」
俺が初めて会った時もこの二人は随分と親しげに話をしていた。話を聞く限りではこの国では魔法や魔術を使える者とそうでないと者とでは身分に差があるような気がしたのだが勘違いなのだろうか??
「こいつやロキシーさんが特別なだけだ。他の奴らだったら、こんな寮さえ与えてくれないさ」
「ロキシーさんもってあんたは魔法使える側なのか??」
「ええ、そうよ?目見たら分かるでしょ?」
「今日初めて来た俺がんなこと分かるわけないだろうが!?」
外から来た俺にとっては正直なところ、魔法や魔術を使える人とそうでない人の違いなど全く分からない。
「私服ならな。安心しろ学園では制服に違いがある」
「へー、そうなんか」
「俺達のは使い回されてる物が支給されている」
「えぇ・・・」
まぁまだ支給されるだけマシなのかと思う事にして、俺はレイヴンに早速男子寮を案内してもらう事にした。
「それじゃあ行くぞ」
「ん?そこ風呂場じゃないのか?」
レイヴンが振り返り、のれんを潜り扉を開けていた。
「何を言ってるんだここが男子寮の入口だぞ」
「何だそれ」
のれんを潜り抜けた先には少しだけ長い通路があり、左右それぞれに部屋の扉が設置されていた。
四、五歩進んだ辺りで二階へと続く階段があり、レイヴンと共に登って行った。
「なぁ、さっきの話に戻るんだけどよ、この寮はギンがくれたのか?」
「そうだ。この学園にはそれぞれの魔法の属性を極めた生徒が頂点に立ち、学園のルールを自由にする事が出来る校則がある。勿論、学園長の許可制でな」
「ん?つまり、ギンは、」
「あいつは雷魔法のトップランカーだ」
「あいつそんなすごい奴だったのかよ!?」
そして俺はそんな凄い奴に勝っちゃったのかよ。いや気絶させられたけどそれはそれだ。
「ギンは自分の立場を使って、こうして魔法を使う事が出来ない俺達に居場所を与えてくれてるんだ。まぁ流石に魔法が使えない俺達相手に大層な寮は教師共は与えなかったがな」
「ここぼろっちぃしな」
「あ、気をつけろ、そこ傷んでて少しでも力入れると」
レイヴンが忠告したと同時にカケルが踏んだ場所は崩れ落ち、カケルの片足は膝下までその穴にはまってしまった。
「忠告は最後まで聞けよ」
「じゃあ言うのをもっと早くして貰えませんかねぇ!?」
「こんな寮だが、ギンがくれた事に俺達は感謝しているんだ。あいつのおかげで俺達への風当たりの強さもマシになってるしな」
「話戻すなよ。たっく、うぉっ!?」
「あ、すまんそこまだ」
穴から足を抜いて次の段へ足を乗せた瞬間、再びその場所が崩れ落ち、カケルの片足はまたしてもはまってしまった。
「ちぇ、チェンジ!!」
「ノーチェンジだ」




