第96話 魔法が支配するこの国で
日本人であるカケルにとって十字架に磔にされた男とそれを取り囲うようにして見ている観衆は異様な光景に映った。
「な、何だこれ?」
「処刑だ」
「は?処刑??」
レイヴン・アッシュはカケルの隣に並び、この光景の答えを述べてくれた。
しかし、未だカケルにはそれがピンと来ていなかった。日本の処刑とはおおよそ、掛け離れたそのやり方に対して理解出来なかったのだ。
「アレで何するかだよ・・・」
「火刑さ。ほら、魔女裁判って知ってるでしょ?」
「それくらいは知ってるが、磔にされてるの男だぜ??」
「アレはそれの逆だけどね」
『あー、あー、我が名はアルバルト!よく聞け!民衆よ!!』
カケルとギン、レイヴンが話をしていると、一人だけマントをつけていた騎士、アルバルトが大きな声でこちらに呼びかけてきた。
『これより!我らの祖国、イギリスに対して反逆の意を示したこの愚かな虫を処刑する!!』
「またか」「嫌だわ汚らわしい」「さっさと殺せ!」「ねぇ、行きましょ。臭いが写るわ」
群がっていた人々は皆、口々にそう言い、この場から立ち去る者達もいた。
カケル達は立ち去った人によって空いたスペースに足を運び、見やすい場所に赴いた。
「ギン、これから起こる事は大体想像できるぜ?だがよ、俺の目にはどうしてもあの磔にされた人が何か悪い事をしたとは思えねーんだ」
勿論、自分はそこまで人を見る目があるわけではない。しかし、あそこにいる男にはそう言った奴特有の空気が無いことにカケルは疑問を持っていた。
「お前の言う通りだ。あの男は何もしていない。ただ、この国にとって禁忌とされる力を発現しただけだ」
「禁忌??」
「君達の国ではnoiseって呼ばれてる力だよ」
「は?noise?何でそれだけで」
noiseは人の隠された力のようなものだ。過度なストレスやトラウマによって発現すると言われている。それが禁忌?
「あれは環境問題とかで起こるもんだろ?それが禁忌ってお前、」
「それがこの国のルールなんだよ。魔法や魔術を使える人は優遇され、使えない人間は" 虫"と揶揄され冷遇されるんだ」
「な、なんだよそれ・・・」
「そしてnoiseを発現した虫はああして国への反逆者として処刑されるんだ」
なんて言う国だ。カケルが最初に感じたのはそれだった。noiseの発現はその人の意思に関係なく、いつどこで発生するのか分からないし、止めようが無いものだ。
それなのに発現したら処刑される。
「なるほどな。お前が言った通り、魔法が使えない奴にとっては地獄みたいな国だな」
『それではこれより!この男の処刑を行う!今回のやり方は火刑とする!』
「止めねーと!」
「ダメだ!」
カケルが止めるために動こうとした時だった。その行動を肩に手を掴んでレイヴンが静止させた。
「何すんだ!早く辞めさせねーと!」
「ダメだ!処刑を止める者も国家の反逆罪に問われるぞ!!」
「知るか!俺はこの国の人間じゃねーんだよ!!」
静止した手を振り払い、カケルが声を上げて動こうとした時だった。
「ごめんね」
その一言が聞こえたと思ったら、カケルは首筋にビリッとした痛みが走り、その場で倒れて気絶した。
ーー
「んっ、ここは・・・」
「お、起きたね。って二度目だねこれを言うのは」
自分がベッドで寝かされているベッドの横から声がした方を向くと横にはギンが座っていた。
「ここ、どこだ?」
「病室だよ。ここは私が通う学園さ」
「がく・・・えん?・・・」
上半身を起こし、カケルは未だぼーっとする自身の頭で何故、ここにいるのかを思い返した。
「俺は・・・プールで・・・それから空港に・・・それで・・・そうだ、処刑は!あの人は!?」
「・・・死んだよ」
「ッ!?・・・そうか」
赤の他人だ。そう割り切れるほど残念だが、俺は大人じゃない。白いシーツを握りしめ言いようのない気持ちが込み上げてきた。
「おや?起きたようだな」
カーテンの奥から、短いスカートと白い白衣に身を包み、長い髪を金色に染め、緑色の瞳をした女性が現れた。
「・・・あんたは?」
「私はセリーナだ。このエヴァーモア魔法学園の保険医をしている」
セリーナはそのままもう一つあった席に艶かしい足を組んで座った。
「首筋が少し傷ついていたが、それ以外は至って健康。いやむしろ健康すぎる程だ」
「首筋・・・あ!ギンお前!?よくもやってくれたな!!?」
「まぁまぁ、あそこで止めてなかったら君は反逆罪で処刑されてたよ。それよりもほら、元気なら立ってとっとと行くよ」
ギンは席を立ち、そのまま保健室を出た。カケルもその後に続いてセリーナに頭を下げてから部屋を後にした。
「カケルは魔法や魔術についてどれくらい知ってる?」
「自慢じゃないが全く知らないな。クールが使ってたのを見たのが初めてだしな」
「あーそっかー。まぁそれはおいおいになるかもね。ついたよここが学園長の部屋だよ」
カケルがギンに連れてこられた場所には金色の装飾で飾られており、他の教室の扉と比べても格段に豪華な作りとなっていた。
「なぁ、何で俺は学園長に挨拶しないといけないんだよ・・・」
「そりゃ、これからここに通うんだから挨拶は必要でしょ?」
「まぁそっか」
「失礼しまーす!ギンでーす!命令された通り、対象人物を連れてきましたー!」
扉を叩き、ギンはそのまま向こう側の返事も待たずに扉を開けてカケルを強引に連れて行った。
「君はノックをした後、相手方の返事を待つと言う事を覚えなさい」
「すみませーん」
扉を開けた先には、赤と金のカーペットが敷かれ、その上には豪華な椅子と机が設置されていた。
そしてその先には長く綺麗な白い髪を綺麗に切り揃えた女性が座っていた。
「やぁ、君が噂のカケル君かい?」
「よぉ、あんたが噂もされない学園長かい?」
「おや、随分と機嫌が優れないようね」
席を立った学園長はどうやら目が不自由なようで杖で周囲を探りながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
しかし、その瞳はまるで全てを見透かしているかのような人だった。
「私の名前はアルバ・ユーハランス。エヴァーモア魔法学園の学園長だ」




