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第91話 無職の猿③

 「悪い待たせたなガガ、ミュー、ズズ」

 「おっせぇぞカケル!」

 「何してたんだyo!」

 「怖かったでごわす!」

 「ははっ、悪い悪い」

 「拙者もいるでござるよぅ!!」


 カケルは三人の無事を確認し、猿條を見た。


 「あんたが守ってくれたんだろ?ありがとうな」

 「感謝する!」

 「え、あ、はい」


 猿條にはこの声に聞き覚えがあった。

 そうだ、この声はあの時俺を殴った奴の声と似ていた。


 「さて、あんたらよくも俺の身内に手出してくれたな?覚悟できてんだろうな!!」


 カケルの声は地面や壁にヒビを入れ、窓ガラスを割り、空気を振動させた。

 黒服達はその瞬間に一斉に銃を構え、マガツの前に少女は立った。そしてユーヴェルトは不適な笑みを浮かべた。


 「何やこいつ」

 「カケル。この街で何でも屋を営む少年ですよ。そして貴方の商売相手を倒した男でもあります」

 「ユーヴェルトさん、あんた何でそんな事知ってるんですかい?」


 妙に詳しいユーヴェルトを怪しんだマガツであったが、当の本人はにこやかに笑うだけだった。

 

 「まぁええわ。お前らとっととこいつやらんかい!」

 「は、はいっ!」

 「とっとと終わらせて帰るぞ!ナビは下がっとけ」

 「承知!」


 黒服達は一斉にカケルを囲み、銃を放とうとしたがカケルが手にいつの間にか持っていた、掌サイズの袋を地面に叩きつけた。

 すると袋が破裂し中から煙が出現し周囲を覆った。


 「な、何や!?」

 「目眩し、ですか」

 「ぐあっ!」「がはっ!?」「ぶっ!?」「ぐえっ!」「ッつ!」


 煙が立ち込める中から次々の黒服達の叫び声が聞こえ、煙が晴れた頃にはその全てが倒されていた。


 「なっ!?せっこい手使いやがって!」

 「勝てばいいんだ!勝てばオラァ!」


 マガツに向かってカケルは蹴りを決め込もうとしたが、それをマガツの隣にいつの間にかいた少女によって受け止められた。


 「何だお前??」

 「あっぶな・・・よくやったぞ。ついでにあいつを殺せ!」

 「はい」


 少女は素早く無駄のない動きでカケルに迫り、手にしたナイフでカケルを突き刺そうとした。


 「子供がんなもん持つな」

 「ッッ!!?」


 突き刺したと思った瞬間、カケルの姿は何処にも無かった。そしてナイフを持つ腕を掴まれ少女は初めてカケルが自分の後ろにいる事に気がついた。

 少し強く腕を掴まれてしまった少女はナイフを落としてしまい、それをカケルが拾った。


 「これは没収だ」

 「な、何してんだボケ!てゆうか何で能力が聞いてへんのやあの男!?ユーヴェルトさん、あんたの部下は何処にあるんですかい!このままじゃああんな奴に商品が奪われッ!?」

 「・・・お前何のつもりだ?」


 うるさく騒いでいたマガツはいきなり自分の額に向けられた拳銃によって撃たれ倒れた。

 カケルはそれをやった張本人である男、ユーヴェルトを睨みつけた。


 「どうもこうも、ゴミを退治しただけですよ?」

 「仲間じゃないのかよ」

 「取引相手としては確かにそうですが、もうこの取引をしなくてよくなったのですよ」


 撃ち殺した時に飛び立った血を拭きながらユーヴェルトは淡々と答えた。

 

 「この奴隷売買はあくまで私の副業でしてね。本来の職は別にあるのですよ。それで今回はそちらを優先する事になりましてね?こちらをどうぞ」


 ユーヴェルトはカケルに向かって一枚の黒い紙を投げた。


 「何だよこれ。黒い紙?」

 「それは招待状ですよ、いずれ貴方の元に使者が訪れますからその時までそれは肌身離さず持っていて下さいね?」


 そう言ったユーヴェルトは指を鳴らし、背後に黒い渦のようなものを作り出した。

 

 「あ、そうそう。そこの彼女は私が預かりますね。護衛として丁度良さそうですので」

 「あ?渡すわ、あれ?」

 「あ、あいつの方いいるっす!」


 猿條に言われて、カケルが前を向くといつの間にかユーヴェルトの元に少女がいた。

 猿條とガガ、ミュー、ズズは困惑していたが、カケルは違った。


 「・・・お前の本職って何だよ」

 「ふっ、私の本職は魔法使い方ですよ。では」


 一言そう言い残して、ユーヴェルトは少女と共にその姿を消した。


 「あいつ何なんだ」

 「いたぞ!こんな、な!マガツさんが殺されている!?貴様ら、まさか!!」

 「あ、いや俺たちはって言っても聞かないよな」

 「おい!カケル!」


 ガガに呼び止められカケルが振り返るとガガとミュー、ズズの三人がカケルの側にきていた。


 「俺たちにやらせろ!お前はあのおっちゃんの手当てしてやれよ!」

 「いや、お前達には」

 「これじゃあ、俺たち見せ場がないままおわるyo」

 「そんなの嫌でごわす!やられた分はやり返したいでごわす!」

 

 頭をかいて悩んだが、子供達の真剣な眼差しを見て仕方なく道を譲った。

 死ぬかもしれないとは思わなかった。子供達とは言ってもnoiseを持っているし、あの程度の奴らに負ける程、弱くはない。

 だが、カケルは出来るだけ子供達を戦わせたくは無かった。


 「危なくなったらすぐに俺がやるからな」

 「おっしゃ!行くぞお前ら!」

 「「「おう!」」」


 三人はそのまま黒服達に向かって走り出した。

 

 「いっくぜぇ!お前らの弱点は見えてるぜ!"サーチ&デストローイ"!」

 「いぇい!俺も行くyo!ミュージックスタート!"サウンド・マッチ"!」

 「オイラも行くでごわすよぉ!どすこいどすこい"張り手山"!!」


 ガガは黒服達を次々と薙ぎ倒していき、ミューは音楽を鳴らしたと思いきや黒服達が糸が切れたように倒れだし、ズズが張り手を行った瞬間、巨大な手のひらが現れた黒服達をまとめて吹き飛ばした。

 次々と倒されていく黒服達を見て猿條は口を大きく開けて驚いていた。


 「びっくりしたか?あいつら昔、実験体にされてた事があってな。そこで色々訓練とかさせられてたんだよ」

 「あ、そ、そうなんすね・・・」

 「ガガのnoiseは"サーチ"ああやって人の弱点を見る事が出来るんだよ。ミューは"共振"鳴らした音を相手の放つ波長に合わせる事で気絶させたり、部分的に爆破させたりできる。で、ズズの奴は"張り手"だったかな。巨大な手が出せんだよ」


 自分が助ける必要がない程、しっかりと強い三人にただ唖然としていた猿條はカケルの話の内容も入って来ない程に驚いていた。

 そうこうしている内にあっという間に三人によって黒服達は倒され山のようにされていた。


 「へへ!久しぶりで腕が鈍ってるぜ!」

 「いい遊びになったyo!」

 「オイラにかかればこの程度、屁でもないでごわす!」


 意気揚々とそう話す三人はカケルと猿條がいる方に歩いて戻ってきた。


 「よくやったなお前達。うし!逃げるぞ」

 「「「おう」」」

 「へあ?」

 「ナビもこい!」

 「了解でござるぅ!」


 猿條はカケルに持ち上げられ、五人はそそくさとその場を走って逃げ出した。

 そしてしばらく走った先にあった公園で立ち止まった。


 「ふぅ。警察にバレると面倒くさいからな」

 「だなー。で、でもく、九条にはす、す、少しだけ会いたかったぜ」

 「何で顔赤らめてるでござるか?気持ち悪い」


 ガガは顔を少し赤らめて俯きながらそう答えた。他の二人もそれを聞いて何故か股を押さえてもじもじとしていた。

 

 「な、なんなんすか?」

 「んーまぁ成長期って奴だな!んな事より、お前ありがとなコイツら助けてくれたんだろ?」

 「あ、いや俺は成り行きというか何と言うか」

 「いやーお前見た目に反していい奴だったんだな」

 「い、いや、それほどでもって、え?」


 だったんだな?それはこちらの事を知っている人が言う言葉だった。


 「忘れてねーよ十二なんたらの奴だろお前?」

 「あ、い、いやそのあ、あははは・・・」


 バレてないと思っていた猿條は突然そう言われ、誤魔化す暇さえなく愛想笑いをしてしまった。


 「警察からまだ逃げ回ってんだな」

 「ッ、お、お前のせいで俺はこうなったんすよ!あんたらが邪魔しなければ俺は今頃!」

 「今頃なんだ?」


 そこで猿條の言葉は止まった。あのまま成功していればどうなっていたのだろうか?

 いやそんなのは決まっている皆んな死んでいたのだ。自分自身さえも。


 「くっ、どの道俺には入った時点で逃げ場、なかったって事っすか・・・」

 「何の話だ?」

 「ん?いやなんでもねーよ」


 猿條は立ち上がりその場を後にしようとした。


 「なぁ、お前」

 「・・・なんすか?」

 「行き場ねーならうちに来るか?」

 「は?」


 一瞬、猿條の思考が停止した。

 あの男は今何といっただろうか?うちに来るか?少し前まで敵対していた相手にみすみす弱点を晒すと言う事だろうか?

 いやあの子供達にすら勝てなさそうだけど・・・。


 「何のつもりっすか?」

 「ん?コイツら守ってくれたし、そんなに悪い奴には思えなくてな。だから、俺が留守中の黄昏荘の護衛も兼ねてどうかと思ってな」


 今逃亡中の自分ならばそこから逃げ出す事は出来ないし、もし逃げ出したとしてもさっきの口ぶりから警察に知り合いがいるこの男ならばすぐに自分は捕まる。更にここで断ればまた逃亡生活だし、今日のようなことも起こるかもしれない。


 「選択肢一つじゃないっすか・・・」

 「なんかよく分からないけど歓迎するyo」

 「オイラもでごわす!」

 「俺もだぜ!」

 「カケル殿に近づかないなら拙者はどうでもいいでござる」


 まだ行くとは言ってないのに歓迎ムードになっている事に若干戸惑いながら猿條はカケルの提案を受ける事にした。


 「よろしくな?」

 「はいっす」


 結局、俺はどこまで行っても人の下につくことしか出来ないのだろう。自分の生き方を呪いながらも仲間の為に命をかけて助け出そうとするこの男の元ならば今度こそ間違いは起こさないかもしれない。

 猿條は少しだけそう思いながら新たな寝床へと歩いて行った。

これで番外編は終わります。

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