第90話 無職の猿②
「ぶはっ!?」
「オラァまだまだぁ!」
こうゆう時にお決まりの第三倉庫に連れ込まれた俺は椅子に括り付けられ、殴られ続けていた。
「ぺっ!腹いせに殴るなんて流石、腐ってるっすね?」
殴られ続けている猿條は口から血の塊を吐きながら、黒服集団のリーダーと思われる男、マガツに言葉を吐き捨てた。
「そういうなや。お前さんがマジモンの下っ端だったなんて知らなかったんだ。許してくれや」
「ならとっとと帰してほしいっすね」
少し遠くでは一緒に連れてこられた三人組の子供達が捕らえられ、檻に入れられており未だ眠りについていた。
「何よそ見してんだコラァ!!」
「がふッ!!?」
腹に蹴りを入れられた猿條は床に転がり倒れた。
「マガツのアニィ、その海外のやつらと本当に取引するんですかい?」
「なんや?何が悪いんや?」
怯えた様子で子分らしき男がマガツによって、声をかけた。
現在の日本では海外との接触が禁じられていることから海外の情報は少なく、子分らしき男のようにこうして怯える人も多くいる。
「いやだって、知らん所なんすよね?アニィが今取引しようとしてるところって」
「あぁーなんたら学とか言ったったわ」
「そんな適当じゃ、」
「お前うるさいわ」
その時、一発の銃声の音がした。
そして子分らしき男は横腹を抑えて倒れ込んだ。
「ぐっ、ぐぅぅぅ」
「何でお前みたいなのに指図されなあかんのだよ?」
「す、すみません、あ、アニィ・・・」
「うるさいわとっとと死ね」
二、三発の銃声が鳴り、撃たれた子分らしき男はそのまま動かなくなった。
「ほんま、こいつめんどくさいわ。おーい、誰かぁ〜こいつ海に捨てとかんかい!」
「あんた、典型的なヤクザもんっすね?今時だっせぇすよ?」
「ゆうやんけクソガキがぁ。あ?死にたいけ?」
先ほど弾を撃った銃口を額に突きつけられ、その熱で火傷したであろう額の痛みに堪えながらマガツを睨みつける。
「何やその目ぇ?言っとくがな、能力は使えんぞ?ほら見ろ」
「・・・え?マジっすか??」
やばい。さっきの女の子がいないと思って調子こいてた。
「あ、いやそうなんすね。えーそれは、ちょっと・・・あのあれっす。すんません!調子乗ってましたぁぁぁ!!!」
「「「だっせ」」」
だって仕方ないじゃないか。あの女の子の前では能力が使えない。
恐らく、そういった類の能力なのだろう。
「あの娘は俺達から借金して逃げてた奴から奪ったガキよ!ちょっとばかし、調教すりゃこのとおり大人しくて従順になってなぁ」
「お、俺が言えたことじゃあないっすけどクズっすね」
「お前そんな死にたいんか」
その時、黒服の男の一人がマガツに近づき、何かを報告し始めていた。
「何だもう来たんか。命拾いしたな?まぁ数時間程度だけだがな。おいお前ら見張っとけ妙な動きしたらすぐ殺せ」
そう言ってマガツは何人かの黒服を連れて出て行った。
ーー
「やぁ今日は取引ほんま、ありがとうございますぅ〜」
両手を擦り合わせてマガツの部下らしき男が白と黒の髪をした二十代半の長身の男性を出迎えていた。
「いや何、取引に応じたのは我々ですから」
「お待たせしましたぁ。あんたがユーヴェルトさんですかい?随分とまぁわけぇことで」
お互いに握手を二人は交わし、サッサか取引の内容の話し合いを始めた。
内容は至極簡単な事だった。ユーヴェルトの取り仕切る会社を日本でもやりたいから根回しをする、マガツはそれで金儲け。ついでに捕まえたガガ達を海外で売って金儲け。
「話はスムーズに進みますなぁ」
「マガツさん、貴方が話がわかる人だからですよ」
「そないなことあらへん。ユーヴェルトさんがしっかりしてるからですよ。ガキ共はこの部屋におりますんでッ、!?」
部屋を開けたマガツは開けた扉の先の光景に驚愕した。見張らせていた筈の部下達は倒れ、捕まえていた筈のガガ、ミュー、ズズ、そして猿條は姿を消していた。
「おやおや、これは穏やかじゃないですね?」
「ほんとですなぁ。おい、直ぐに捕まえてこい。じゃないとテメェはコレだ」
マガツは親指で喉を横に切る真似をした。
黒服達は直ぐに走り出し、消えた猿條達を探すために他のもの達にも連絡をした。
そしてマガツはもう一人、この部屋に残っていた幼い少女に目を向けた。
「オイコラ、お前何してんだ?殺せ言っただろ?」
「お手洗いに行くと言っていたので」
「チッ、役立たずがッ!・・・何の真似ですユーヴェルトさん?」
淡々と答える少女に苛立ちを覚えたマガツはそのまま彼女を殴ろうとしたが、それをユーヴェルトが止めていた。
「落ち着いてくださいマガツさん。見たところ、彼女は貴方の仲間の中では一番実力がある。殴るよりも商品を捕らえさせた方がいいんじゃないですか?」
「チッ、ユーヴェルトさんに免じて殴らんといてやるわ。とっとと探して殺してこんかい!」
少女は何も言わずに扉を開けて部屋を後にした。
ーー
猿條とガガ達四人は、猿條が隙を見て一気に黒服を倒した事で部屋をでることができ、現在走って逃げていた。
「あんた強かったんだな」
「まぁこれでも昔、有名になる為に片っ端から色々やったっすからね!」
そう本当に色々やった。空手やカポエラ、エスクリマやメントスコーラとか本当に片っ端から手を出した。まさか、それが今役に立つとは思いもしなかったが・・・。
「それでこっからどうすんだよ!」
「またあいつらに見つかるyo」
「いや、それはノープランすよ」
「「「えぇ〜!!」」」
「だってしょーがないでしょ!?こっちも咄嗟の行動だったんで、危ない!」
突然上から先程の少女が降ってきてガガ達に襲い掛かった。猿條は三人を離して、自分は鉄の棒を振るって殴りかかった。
「またあんたっすか!」
「殺すそれが受けた私の命令」
まるで猿のように倉庫内を縦横無尽に飛び回り、関節を的確に責める戦法に加えてまたもや能力を使えなくなってしまっており、猿條はなす術なく斬られ続けた。
「くっ、やっぱ君もnoiseあるっすよね?」
「せやでぇ〜こいつはなぁ、一定範囲のnoiseを使わせなくするnoiseや。範囲はこの倉庫全体くらい。つまりお前らは能力使えんってことや」
背後から猿條達に追いついたマガツとユーヴェルトも現れ、猿條達は完全に囲まれてしまった。
「よぉ逃げてくれたなぁ?ユーヴェルトさんにまで迷惑かけやがって」
「私は気にしていませんよ」
「誰だyo」
「知るか」
黒服達が周囲を囲まれ、能力が使えない猿條達は抵抗する術もなかった。
「くそっ」
そもそも何で俺がこんな事をやっているのだろうか。見ず知らずの子供達何て置いて逃げれば良かったのだ。
普段の俺なら自分の命助かる為なら絶対にやっている。
「さぁて、覚悟はいいか?お前はいらないんでね。全責任をとって死んでもらおか」
「い、いやちょ、ちょっと待ってくださいっす!俺まだ死にたくないんすよ!!」
ダメだ。命乞いをするくらいしか考えられない。
本当に俺ってやつは。こんな事してまた人気が復活する、社会に許されるとでも思っていたのだろうか。
「つまらん人生やったなぁ」
「く、そっ!」
もう何を言ってもダメだ。勝てる訳がない。
猿條は諦めて目を瞑った。
猿條自身は気がついていないが、彼は今まで強い奴の下についてへこへこ頭を下げるような人生だった。だが、今どん底まで落ち、頭を下げる相手もいない今なら、最後くらいならば自分の意味というのを貫きたいと猿條は無意識のうちに感じた。
だからこそ、自身の身を危険に晒しながらも子供達を逃がそうとした。
「「「おっさん!」」」
最後に聞こえた声はあの子供達の声だった。
「へへっ、せめて最後くらいはカッコよく助けて死にたかったっすね」
「じゃ〜なぁ〜」
銃弾が放たれる瞬間だった。
突然、ドガンッという音が倉庫中から鳴り響き、猿條やマガツ達の目の前の壁から一人の少年が現れた。
「誰や!?」
「・・・来ました」
「あ、あんたはッ!」
「「「カケルゥゥゥ!!」」」
壁を破壊して現れた少年、カケルはナビを肩に乗せ、赤い目を光らせマガツ達を睨みつけた。




