第77話 子の記憶
「幽冥の闇に・煌きを宿し・裁きを示せ!明暗魔法"幽煌"!!」
両手にそれぞれ光と闇の魔力を発生させ、それをクールは合体させ白黒く光ながら全てを消し炭にして、それはカケルに放たれた。
「んなもんで俺がやられるかよ!!!」
カケルも拳を強く握りしめ、渾身の一撃を迫り来る魔法に向かってぶつけた。
そして両者の攻撃は周囲を巻き込む形で大爆発を起こし、二人はそんな爆発の光に包み込まれた。
ーー
『あれ?ここは・・・』
爆発の光に包まれたカケルが目を覚ますと、どこかの家庭のリビングに立っていた。
「ただいま帰りました父様、母様」
「お帰りなさい。手洗ってね」
「あぁ」
『ん?なんだこれ??』
俺にはかつてイギリスの首都ロンドンで尊敬する父、優しい母、そして、
「お兄ちゃん!」
「よしよし、ただいま青」
「うん!!」
愛する妹と共に住んでいた。
『うわっ!?んだこれ頭に声が!!?って、これって・・・あいつの記憶?』
「ふふっ、二人とも手を洗っておいでお菓子あるわよー」
「「はーい」」
「今日ねーお友達がねー」
「へぇ、それはすごいな」
家は決して裕福と言うわけではなかったが、それなりな暮らしは出来ていた。家族仲もよく特に母は俺達にとって太陽な人だった。
『やっぱクールの記憶か、にしても今とは考えられんくらい、あいついい笑顔で笑うじゃねーか。んであっちが青ちゃんか』
だが、あの日その全てを失った。
カケルがかつてのクールの姿を見ていると、今度はいつの間にか大きな十字路の交差点の真ん中に立っていた。
『今度は何だよ』
「母様!!母様!!」
『?』
叫びながら母を何度も呼ぶ声にカケルが振り返ると車同士が衝突しており、そしてその下敷きになり下半身を潰されているクールの母とそれを助け出そうとするクールの姿があった。
「・・・クー・・・る?」
「あぁ、そうだよ待ってて、もう少しで父様が来るから!」
「・・・ごめ・・・」
「母様!!!母様ぁぁぁ!!」
『・・・』
その日はなんて事ないただの日常だった。買い出しのため俺と青、母は外に出かけていた。
しかし当時、海外で多く存在していた、彼の者の後継者を自称する組織のテロ行為によって、母がその場で青を庇い、大怪我を負いそして間もなく死亡した。
子供ながらに人はこんな簡単に死ぬんだと理解させられた。
「ま、ま?私を庇って・・・」
「青、大丈夫だ。落ちつけ」
「私のせいで、私の」
「違う青、お前のせいじゃ、」
「ままぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『おわっ!?何だ??!クール危ねぇ!」
そして初めて青がnoise覚醒した。覚醒した力は周囲一帯の建物や人、母さえも例外なく次々と崩壊させていき、俺自身もその力の前に消えそうになった。
しかし、寸前で父が到着し被害は最小限に抑えられた。だが、この力が父を狂わせた。
『くそっ!?記憶だから助けれねぇのか。ってまた場面変わってるじゃねーか!?』
あの時の青の力を見た父の姿は今でも覚えている。
その日から父はまるで何かに取り憑かれたように自分の研究室に籠り、何かしらの研究を行っていた。
『何の研究してんだ?』
カケルが近づこうとした瞬間、またも場面は変わり今度は墓地のような場所でクールと青の二人が神父によって聖書を読んでもらっている場面に移り変わった。
『今度は葬式か・・・』
その為、葬式にも父が来ることはなかった。
薄情だとは思わなかった。俺自身も母の亡くなる姿を見た時も空っぽの墓を見ても特に何も思わなかった。
俺にとっての母はその程度のものだったのだろうと俺は俺に落胆した。
『・・・』
そして俺は崩壊という危険な能力を持った青と二人きりの生活を始めた。
初めは母を亡くした影響によって青は口を開くこともしなかったが、徐々に徐々に回復の兆しがみえてきていた。だが、それと同時に青のnoiseを強力な物になっていき、日常生活にすら支障が出てきていた。
その時だった。俺は青の力を落ち着かせる意味も込めて青と約束をした。
『約束?ん、また変わった』
場面は夜へと変わり、今度は一面に広がる野原の上でクールと青の二人はそれを背に星を眺めていた。
「いつか、母さんを奪ったこの国、いやこの世界から争いを無くすんだ。俺がこの世界を変える。青、お前も協力してくれるか?」
「うん。私もままを奪ったこの世界の人たち嫌い」
「なら約束だ。俺は必ずそれを実現させてみせる。青、お前はその時までにその力を抑える術を身につけるんだ。勿論、俺も協力する」
「分かった!頑張る!」
『これが約束?・・・あいつ、この約束の為に世界を?』
なんて事のない子供の約束だ。俺自身もそんな事ができないと考えていた。だが、
『お、また変わった』
それから一カ月が経ち、父がよく分からない人間達と関わり始めた。
『なんだあのハゲちゃびん共は』
カケルが不思議に思い近づこうとしてみると突然、部屋中が七色の光に覆われた。
『何だ!?これ!?』
「これは・・・素晴らしい!」
「貴方は今この現代に甦った魔法を更にもう一段階上のステージへ上げた!」
そして魔法なんて物に手をつけた。
そこからは早かった。ロンドンに限らず、ヨーロッパ全州を瞬く間に統治下に置き、自分は自らを魔術王と名乗り魔法が全ての国として生まれ変わらせた。
場面が次々と二転三転していき、カケルは目を回しながら何とかそんな記憶にしがみついていた。
そうした時、俺達は久方ぶりに父と対面した。
『や、やっと・・・場面落ち着いたぁ・・・」
「久しいな」
「はい、父様」
「ぱぱぁ!」
数ヶ月ぶりにあった父はひどくやつれ、髭も髪も白く伸ばしっぱなしになっていた。だが、それ以上にその目は全てを見透かしているようにも全てを投げ出しているかのようにも思える瞳をしており、俺はそんな父に恐怖すら覚えた。
『あれがクールの父さん。父親っていうよりおじいちゃんだな・・・』
父は少しの間、青と会話をした後、青を魔法で眠らせ俺の方に目を向けた。
「青の様子は」
「は、はい。え、えっと」
俺はすぐに能力の事だと理解した。青は少しずつだが能力を着実に使いこなせるようになっており、俺はそれを報告した。
「そうか。ならば、その能力は封印する」
「!?」
『は?』
帰ってきたのはその一言だった。青の力を危惧したのか、はたまた青の力を他の奴らにバレたくなかったのか、父はその日、魔法でnoiseの力を封印した。
更にそれに関する記憶も全て消され、青は俺との約束すら覚えていなかった。
「クール、お前には魔法を覚えてもらう」
「え、あ、は、はい父様」
そして俺はその時、父に魔法と言うものを教えられた。
俺はどうやら魔法の才能があったようで、父が直々に俺に魔法の手解きをしてくれた。
その甲斐あってか、俺は直ぐに魔法を使いこなせるようになり、数年後父からある命令を受けた。
「日本を手に入れる。その為にお前は工作員として裏から日本を権力を奪いとれ」
「はい」
それだけを言われた俺は青を連れ、日本へと飛ばされた。そして、まずは首相として活動していた宗一郎に取り入る為に裏から手を回し、拾われる形で宗一郎の補佐として政府に入り込む事に成功した。
当時の日本はまだまだ戦後の傷が残っており、まともに機能すらしていない状態であった。
そんな手薄な状況は俺にとって好都合だった。まずは十二司支制度を宗一郎に提案し、メンバーを俺自身が集めた。
『あいつが十二なんたらを作ったのか・・・』
そして父から言い渡された日本を手に入れるの半分はほぼ終了したと言ってもいいくらい、宗一郎は俺を頼りにしていた。ただ、最大の障害が存在していた。東部の陰陽師どもだ。
「日本は以上のように現在、東部と西部に分かれており、中でも東部はあの英雄、アーサー・アルトグレイアスが治めており中々手が出しにくい状況となっております」
当時から日本は鎖国まがいのような事をしていた為、海外では日本の情報がかなり少なく、俺自身もそれを知るまでに少し時間がかかっていた。
そして父に相談した俺はある一つの提案をその場でした。
「青の力を使うと言うのはどうでしょうか?」
『なに?』
「青の力は強大です。情報が他の国に入れば危険でしょうが、幸い日本はそれがない。青の力を使ってもその原因を知るすべはないので何が起きたのか分からずしまいで終わるでしょう」
『・・・いいだろう。そこらへんはお前に一任する』
「わかりました」
そして俺は日本であの日の約束を果たすことに決めた。そしてその為の手駒として、ロンドンからの付き合いであったチキンや日本で知り合った宇佐美の両親を利用して地下に研究施設と崩壊を効率よく使う装置を作った。
『宇佐美ってあの拾った子の両親か』
途中、宇佐美夫妻が俺の計画を知ってしまい、裏切りにあいかけたがそれを宇佐美を利用して処分させたり、計画の邪魔になるものを暗殺もしてきた。
そうして計画が順調に進んでいく中で俺はある疑問を持った。青の力を抑止力として扱い、この世界から争いを無くす意味が本当にあるのか、人にそこまでの価値はあるのだろうかと。
『・・・』
何よりも青の力はさらなる争いを生む。それならば、いっその事この世界そのものを消してしまってゼロにするべきではないのかと俺は考えた。
そこから計画の最終目標を変更した。
計画を変更はしたが、やる事は今までと変わらない。テロ組織にイリスの誘拐をさせている側で電磁塔のシステムの一部を変更させたり、青のnoiseを覚醒させる為に優希、莉猫を使ったり、計画の邪魔になるような連中を監視しやすい場所に捕えるなどをして順調に進めていた筈だった。
「お前達が邪魔をしなければ今頃、この世界は終わっているはずだったんだ」
「ん?本物か?」
気がつけば最初にいた真っ白い空間にカケルは立っており、目の前にはクールが憎しみいっぱいの目で睨みつけていた。
「・・・クールあんたのやろうとしてる事は分かったよ。母さん奪われ、父さんは研究に没頭、残されたお前はいつまた暴走するかも分からない妹に怯えながら暮らさないといけない恐怖に脅かされる。確かに辛いよな」
「あぁ、だからそんか世界を俺は認めない」
「でもだからってお前一人の為に世界を終わらす訳にはいかねーよ」
大切な人がいなくなる気持ちもそれによって寂しさを覚える気持ちも痛い程わかる。
「お前と俺は似てるかもな」
俺もかつてはそうだったでも今は違う。何かの歯車が狂えば俺もこうなってた自信がある。
だが、俺は絶対にそうはならない自信もある。
だって俺には間違ったら止めてくれる仲間がいた。守りたいと思う人がいた。大切な人から受け継いだ想いと意志があった。
だから俺はどんな時でも自分が信じる道を進むことが出来ている。
だがこいつは違う。大切な人を失って守りたい人も大事な人も見失ってしまったんだ。
そして世界の憎い部分しか見れなくなって、本当に見るべき大事なもんから目を背けてしまっているんだ。
「そうか、お前は怖いんだ」
「何?」
「また失う事が怖くて、自分が守れなかった時を考えて恐怖して、お前は逃げたんだ」
「黙れ!俺は逃げてなどいない!」
「いいや逃げたね。しかも一人で逃げるのが怖くて、昔の約束に縋って今の青ちゃんを見ずに一緒に世界を破壊しようとしてんだ」
俺は青ちゃんとはそんなに付き合いがあるわけじゃない。だけど、青ちゃんがこんなこと望んでないのはそんな俺でさえ理解できた。
「青はまだ子供だ!この世界の不条理を理解できていないんだよ!だからこそ俺が、」
「青ちゃんだってもう中学生だ。世界の不条理さだって分かってんだろ」
「根拠のない理由を述べるなよ!?お前に青の何がわかんだよ!?あぁ?」
「お前こそ、今の青ちゃんをちゃんと見てんのかよ。あの子にはもう大切な人も助け出そうとしてくれる仲間もいるんだ。一人びびって逃げてるお前なんかよりもよっぽど出来た人生送ってると思うぜ?」
葵もハヤテもきっとこんな過去があっても笑顔で歩き続ける青ちゃんに惹かれて友達になったんだと思う。
「黙れ!お前との問答は無意味な事が分かった。所詮、お前らの様な低知能な存在に何を言っても無駄だった!・・・はぁ、この後の事も考え、ある程度は温存しておくつもりだったんだがな。喜べ、今からお前に向けて放つ魔法は俺が持つ魔法の中でも最高位に位置する特別な魔法だ」
そう言ったクールは部屋全体を覆い尽くすほどの巨大な魔法陣を何個も展開させた。
「最害魔法、発令」




