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第75話 子の十二司支③

 「ほらー、そろそろ起きんと」

 「ん、ん?んんん!??」

 「おはようさん?」

 「おわっ!」


 クールの元へと現れる少し前、ハヤテは桜花によって真っ二つに切られたと思っていたが、気がついたらその本人の太ももを上で眠っていた。


 「危ないなぁ〜。乙女の顔に傷ついたらどう責任とってくれるんよ」

 「おま、おま、お前こそ!敵の癖に何で膝枕なんてしているんだ!?」

 「なしてそんなウブな反応してるん?童貞なん?あそこの方とまだ未覚醒なん?」

 「斬るぞ」


 純粋な殺意を込めてハヤテな無防備な状態の桜花を叩き斬ろうとしたが、直ぐに落ち着きを取り戻し、刀を納めた。


 「なんや、冷静やん」

 「あんたと俺の実力差は分かってる。勝てない事だってな。それに殺そうと思えば殺せた、いや俺は確かに死んだ筈じゃ」


 あの時、確かに真っ二つにされた。

 痛みもなく一瞬の出来事ではあったのだが、確かに俺は斬られた感触があった。


 「ふふっ、あんたはんの思ってる通りやで?ウチは一度、あんたはんを殺しました」

 「じゃあ何で俺は」

 「斬る事によって細胞を活性させ、回復力を通常よりも高める剣術、細胞活斬剣を使わせてもろただけやよ〜」

 「何?」


 名前には聞き覚えがある。その剣術を扱える物は世界中を探しても五人も以内と言われるほどの希少中の希少な剣術だ。

 確かに先程、優希やこの女から受けた傷は完全に治っている。


 「ウチもあんたはんに聞きたい事あんねん」

 「何でも聞け。俺は負けた上に命まで助けられたんだ。できる限りの事は答える」

 「潔ええなぁ〜。そうゆうところ好きやわぁ〜」


 うふふと笑いながら桜花はハヤテの刀を指差して質問を一つだけした。


 「あんたはん無影はんの剣、"魔刃"は習っとらんの?」

 「?、何だそれ??」

 「あら、ほんまに知らんのなぁ」


 魔神?それとも魔人?そういえば昔、師匠が「わし、昔魔神を叩き斬ったことあってのぉ」みたいな事を言っていたような気がするがそれだろうか?


 「無影はんが第三次世界大戦中に現れた魔神の軍勢をたった一太刀で斬り伏せた事から、そんな名前がついたんよ」

 「合ってんのかよ・・・」

 「あんたはんそれ習ったらんの?」


 そんな技が師匠にあったのか、師匠には確かに剣術を教えてもらっている。だが、そういった技は教えてもらった事はない。


 「師匠は俺にそうゆう技は教えてくれてない」

 「ならウチが教えるのも筋違いやなぁ」

 「いや、教えてくれ」

 「ええの?」


 確かに師匠の技ならば、師匠から教えてもらうのが筋だと思う。だが、今はそんなこと言ってる場合なんかじゃない。少しでも勝つ可能性が増えるならそれに越した事はない。


 「ならしゃーない、ウチが教えたるわ」


 ーー


 「こ、これ・・・は?」

 「はぁ…はぁ…魔刃。俺の師匠が最も得意とする技、らしい。あんたんところの剣士から教わった」


 魔刃。刀を納刀した状態から一気に引き抜き、それにより生じる真空を斬撃として打ち出す技。それだけでは他の斬撃と大差ないが、この魔刃は全身の筋肉を余す事なく使い放つ技であり、どこか一つでも筋力が劣っていれば発動できない代物となっている。


 「土の精霊達よ・我が願いを聞き届け・その癒しの一端を我に与えよ。"土精の恩恵"」


 クールが詠唱を唱えると部屋中の至る所から黄色い丸い光が溢れ出し、クールの受けた傷口へとそれは集結していった。


 「傷が、治ってる?」


 ハヤテが放った魔刃の傷は黄色い丸い光が集まるとみるみる内に傷が消えていった。


 「ふぅ、やはり地下だと通常より多くの土の妖精が現れるな」

 「土の妖精??」


ハヤテがよく目を凝らして黄色い丸い光を見てみると、茶色い肌をし、所々緑色の苔のようなものや岩の結晶のようなものをつけた小さな妖精の姿を捉えた。


 「中々いい視力だな。こいつらは土の妖精テラリス。岩場や洞穴などに特に多く住む妖精だ」

 「妖精まで使えるのか・・・」

 「ああ、その通りだ。残念だったな必殺技がおじゃんだな」


 その通りだった。今の俺では魔刃はそう何度も打てる技じゃない。さっきの魔刃ですら全身の筋繊維がブチブチとちぎれる音を出してやっとあの一発を打てたんだ。これなら普通の斬撃撃った方がマシだ。


 「さて、と。どうする?怨月鬼は見ての通り、黒曜石で俺が封じ込めた」

 「うぅ〜ハヤテぇ〜」


 怨月鬼はいつの間にか、俺の元を離れクールの真下で黒曜石によって、その動きを封じ込まれていた。


 「それにお前も今の技で全身が酷く痛むようだな」

 「お前には関係ない」


 だが、状況は再び絶望的だ。怨月鬼は封じられ、俺はボロボロ。俺が気を失っている間に優希と女刑事が来ていたようだが、既に意識がない。

 反対にクールは回復魔法が使えていつでも傷を癒せる。


 「何か勘違いしているようだから言っておくぞ。お前に勝ち目はゼロだ」

 「何っ、カッ・・・かはっ!・・・こ、きゅうが」


 どうゆうわけか聞こうとした時だった。突然、呼吸がし辛くなり、息もうまく吸えなくなってきた。

 ハヤテな首を抑え、膝から崩れ落ち、クールにひれ伏すような形となった。


 「さっき言ったはずだ体内に水を入れたと。それを大量に血管にいれた。急性肺水腫と言うやつだ」

 「ぐっ・・・がっああ・・・」

 「呆気ない最後だったな。結局お前には青は救えないんだよ」


 息が上手く吸えなくなり、立つこともカールを睨む事さえ出来ない。

 そんな時にクールは手のひらに水を作り出し、何かを唱え始めていた。


 「我が手に宿るは水の奔流・果てなき水流・鋭き刃となりて・敵を切り裂かん。"ヴォルテアカリス"」

 「うっ」


 唱え終わったと共に手に集められた水は水圧カッターのように地面を斬り裂きながらハヤテをお返しだと言わんばかりに左脇腹から右肩にかけて斬り上げた。

 血を吐きながら惨めにその場に倒れるハヤテを一瞥してクールは青に顔を向けた。

 

 「さて、青始めるぞ」

 「・・・」

 「青」

 「・・・はい。兄さん」


 青はほんの一瞬だったが、クールの命令すらそのままには聞こえてこなかったのか、クールによって斬られたハヤテを見続けていた。


 「ぼっーとするな。お前には手始めに、はぁー・・・まだ足掻くか」


 装置に手をかけようとした瞬間、俺の足をハヤテは掴んできた。どこにまだそんな力があるんだと思うほど、その力は強く動くことができなかった。


 「・・・」

 「まさか・・・そこまでしてお前は助けたいのか」


 ハヤテは既に意識を失っていた。

 意識を失っているはずなのにこの力は何なのだ。そこまでして青を助け出したいのか?いや情報によればこの男が青と関わり出したのはつい最近だ。

 つい最近のはずなのだ。それなのにこの男は意識を失っても尚、俺を離そうとしない。


 「ハ・・・ヤテ・・・」

 「ッ!」


 気のせい?いや違う。だが、あり得ない。今の青は能力を使うこと以外の思考は出来なくなっている。

 だが、青は確かに今ハヤテ、と口にした。思いの力というやつなのだろうか。

 直後、クールは背中の辺りからゾクリ、と震えた。


 「・・・お前はどうやら想像以上に危険だな」


 これ以上、この場に居続けさせるのは青に何かが起こる。クールはそう直感し、ハヤテこの場で確実に始末する為に消滅魔法を展開し始めた。

 

 「全ての闇よ・神聖なる光に・滅び去れ・輝きは刃となりて・全てを滅さん。"ルーメン・アニヒレイト"!!」


 断罪の光がクールの手のひらに凝縮され、光は剣のように鋭くなり、ハヤテに放たれた。


 「は・・・やて・・・誰か・・・たすけ、て」


 放たれた魔法を見て青が口にしたその言葉は同時に一筋の涙となり装置内に流された。

 そして、


 「あいよ!」

 「何!?」


 一人の男を決戦の場へと導いた。

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