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第72話 寅の十二司支③

 九条が止めを誘うとした時、間に割って入ってきたのは、ハヤテによって完封され敗北した亥の十二司支の優希だった。


 「優希・・・なんで、、、」

 「姉さん。もうこんなこと終わりにしよう」

 「は?」


 優希は姉である莉猫の方を振り向き、手を差し伸べた。


 「何言ってんの?私達の夢は?もう一度みんなで暮らす夢はどうなるの?」

 「・・・諦めるしかないよ」

 「なに、いっ、て、るの?」


 優希と莉猫の二人は小学生の頃、家族での旅行に出かけた際、起きた能力者の暴走事件によって父親が亡くなりその後、後を追うようにして母が亡くなり、二人きりとなった優希と莉猫は親戚の元まで送られた。

 しかし、noiseを嫌う親戚にたらい回しにされた挙句、捨てられそこをクールに拾われた。


 「あの時、クール様が話してくれた事忘れたの!?クール様はこの計画が成功すれば全てがやり直せるって、両親とまた一緒になれるって!」

 「違うんだよ姉さん・・・。クールさん、いやあの男の計画はそんな物じゃなかったんだよ」

 「待て、私にもあの男の計画とやらを説明して貰おうか」


 直前まで黙っていた九条だったが、クールがやろうとしている計画についての情報が知れると分かり口を開いた。


 「・・・あんたら知ってて来たんじゃないのか?」

 「知らないから来たみたいなところがある。緑という少年がいうには正義の行いだとか言っていたらしいが詳しい情報は何もわからん」

 「あの人は・・・」


 そこから優希は自分が知り得る情報を姉である莉猫と刑事の九条、そして目を覚ましたダイ達にもクールが青のnoise"崩壊"を使い、世界を文字通り崩壊させ、全てを無くそうとしている事を話した。


 「クール君がそんな事を・・・」

 「ふぅー。恐らく事実でしょうな」

 「そんなの嘘だ!だってクール様はあった時、私達に家族を」

 「俺たちは騙されていたんだよ・・・」

 「そんな、いや、嘘、う、うぅ、うぅぅぅぅ!」


 莉猫は優希が嘘をついているとは思えなかった。実の弟である優希は自分の意思で人を騙すような事はしない子だと分かっていたからだ。

 

 「ふぅー。お前は何故、それを知っているんだ?」

 「・・・意識が朦朧とする中で教えてくれた人がいたんだ。クールが何をしようとしているのかを」


 優希はうっすらのその男がメガネをかけていることは分かったが、それが誰なのかまではわからなかった。だが、優希はその姿に見覚えがある気がしてならなかった。


 「チッ、このことはカケル達は分かってんのかぁ?すぐに情報共有しといたほうが、」

 「それは無理だ。ここは地下だ電波が届いてない」

 「ふぅー。とにかく今やるべき事は二つだ。一つはクールを止める。もう一つは宗一郎殿達を安全な場所まで避難させる事だ」

 「イリスちゃんなら俺が運ぶぜ」

 「ならお前は宗一郎殿達も頼んだぞ」

 「九条君」

 「お話は後で、まずは総理貴方の命が最優先ですから。後、そこのニンジャお前もだ」

 「え、拙者も?てゆうか砕蔵だ覚えておけ無礼者」


  九条は優希と莉猫の二人を見やった。

 戦力としては恐らく、申し分ない実力は持ち合わせている。だが、姉の方はダメだな。弟の言葉かクールの言葉、どちらを信じればいいのか分からなくなっている。


 「優希とか言ったな」

 「はい」

 「クールを止めるのを手伝え」

 「俺が?」


 九条の提案に優希本人は愚か、ダイや砕蔵でさえ驚いた。それもそのはず、優希はこれでも十二司支としてクールの部下になっていたのだ。それを連れて行こうとしている何て戦力を集めさせるだけの自殺行為だからだ。


 「もし裏切る事があるのなら姉を殺す」

 「お前ッ」


 優希は怒りを露わにしながら九条の方を見たが、九条の目はそれ以上に残酷な感情を瞳に宿し、これが嘘や脅しではない事を否が応でも理解させられ、優希は静かに首を縦にふった。


 「・・・大人はこうゆうものだ現実に慣れろ。甘い理想にいつまでもしがみついているとお前達の主のようになるぞ」

 「ッ・・・」

 「決まりだなぁ。俺はイリスちゃんと莉猫ちゃんを責任持って地上に戻す。砕蔵お前はそこに転がってる豚野郎を待て」

 「あ、ずるいでござる!!」

 「黙れ、イリスちゃん立てるかい?」

 「は、はい・・・まだ少し頭がくらくらしますが歩けないほどではありません」


 ダイは莉猫を担ぎ、イリスや牛次を背負った砕蔵や宗一郎を連れて地上に出るために来た道をもう一度、辿っていった。


 「さて、私達も行くぞ」

 「ああ」


 そして九条と優希の二人はクールの元へと進んでいった。

 

 ーー


 「よし、少し装置の方にトラブルはあったが電力のチャージも完了した。後は青に力を使わせるだけだ」

 「クール様〜。でもさぁ、この子が見ないと力使えないんでしょ??」


 カケル達の動向を確認する為に青が囚われている装置がある部屋に唯一いることを許された兎の十二司支の宇佐美はスマホを弄りながら、事前に聞かされていた青の能力の発動条件とは違うやり方をやろうとしているクールに疑問を投げかけた。


 「あぁその通りだ。その制限を無くす為にこれを作ったんだ。これを使えば青のnoiseの力をより強く一段階上のものへと変える事が出来る」


 そう。これを作るために俺は数年前にネオ・アストラルシティに移り住み、宗一郎に拾われるように様々な工作を行なってきた。

 そしてその傍で俺の手足となる部下、十二司支を各地方から集めてきた。

 

 「宇佐美」

 「え?く、クール様??」


 クールはいつの間にか宇佐美の目の前に現れていた。そして彼女を見つめながら優しい笑みを浮かべた。


 「ちょ、ちょ、た、タンマタンマ!」

 「なしだ」


 宇佐美はそんなクールを見て思わず顔を逸らしてしまった。

 宇佐美が十二司支として所属しているのはクールに惚れたからである。その為、宇佐美はクールの側にいることができるこの能力を非常に気に入っていた。


 「お前は今まで俺に尽くしてきてくれた。そんなお前がいなかったら今の俺はいない。そう思ってる」


 宇佐美はクールがこの地下を作る時から部下として引き連れている者の一人であり、その能力を使って様々な事をしてきてもらっていた。


 「これはほんの礼だ・・・」

 「く、クール様・・・んっ」


 頬に触れ、宇佐美の顔をクールは見つめた。

 そして今まで尽くしてくれた女性にクールは労うように唇にキスをした。

 

 「だが、ここから先はもういらない」

 「え、クーゴフッ!?」


 唇が離れ、クールが自分に向けて冷酷な眼差しを向けて発した一言。

 その直後、宇佐美は口から大量の血を流した。


 「く、クールさ、、」


 元々、この装置さえ完成すれば何人かの十二司支はこの時点で始末する予定だった。彼女もその一人だ。能力は扱いやすいものであったがこの先の世界にはそれは必要ない。

 

 「今まで、その力を使って俺に尽くしてくれたこれはほんの些細な礼だ」


 宇佐美は喉を抑えながら苦しみ、ふらふらと後ろ歩きで下りながらゴミ捨て場へ繋がる穴に落ちていった。


 「ふん、能力だけしか脳のない女には丁度いい最後だな」

 「待たせたな」

 「お前・・・生きてたのか」


 宇佐美を始末したのも束の間、邪魔者は次から次へと現れる。まるで俺の計画を止めるために何か見えない力が働いているように。


 「お前を見ていると本当にそう勘繰ってしまうよ。ハヤテ」

 「気安く呼ぶな」


 目の前に立った男はつい数分前に桜花によって斬られた筈の少年、ハヤテだった。

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