第69話 巳の十二司支
数分前
ハヤテが真っ直ぐ先を進んでいると桜が舞い、草木や花が生い茂げ、川が流れる本来、地下ではあり得ない光景が広がる部屋に出た。
そしてそこには和服を着て、身の丈ほどある刀を桜の木に立てかけた女性がお茶を作っていた。
「あらあら、ほんまに来たんやなぁ」
「・・・」
ほんのりとした口調でこちらに語りかけてくる女性だったが、その身に宿す覇気は本物だった。
「あんたも十二司支とか言うやつなのか」
「せやよ。ウチは巳の十二司支、名は桜花。よろしゅうな」
お茶を作る手を止め、桜花と名乗った女性は刀を手に持ちハヤテの方まで歩いてきた。
「クールはんからはここに来た奴は始末しろ言われとってなぁ」
「ならあんたを斬り捨てる」
互いが互いの間合いまで歩いていき、そして刀を抜いた。
刀と刀がぶつかり合い、ハヤテと桜花の周囲に生い茂っていた草や花はその衝撃によって全て真っ二つに斬られた。
「中々ええ腕してはりますなぁ」
「くっ!」
二度、三度とハヤテは桜花に斬撃を繰り出したが、桜花はそれは見事に受け止めていた。
「これならどうだ」
再び、斬撃を繰り出し桜花がそれを受け止めた瞬間にハヤテは鞘を取り出して刀を持つ手の甲を叩きつけようとした時だった。
(鞘が斬られてる!?)
鞘に手をかけたハヤテであったが、肝心のその鞘は気が付かない内に斬られてしまっていた。
「残念やったなぁ」
「しまっ、!!?」
一瞬の内だった。ハヤテは気がつけば胴体に何十もの斬り傷が現れ、そこから大量の血が噴き出した。
ーー
そして現在、立ち上がったハヤテは傷口から流れる大量の血のせいで意識を失いかけながらも桜花に向かって斬りかかった。
「おぉぉぉ!!!」
「遅いなぁ」
「ぐっ!」
ハヤテが一つの行動をとる間に桜花は四、五回の斬撃を喰らわしてくる。そんな桜花の斬撃になす術なくハヤテは再び膝をついてしまった。
「この程度でウチには勝てへんよ?そうやなぁウチの顔に傷つけれたら勝ちしてあげるわ」
「な、舐めるな」
立ち上がったハヤテは、桜花の付近にあった桜の木に向かって走り出し、それを桜花の方に向けて斬り落とした。しかし桜花はそれを軽々と宙に浮かんで避けた。
「無駄やよ」
「分かってる!」
木をそのまま斬り落とすか、回避行動を取るのどちらを選んでも自分の足ならば確認をあった後でも充分に間に合うとハヤテは考えていた。
そして桜花はハヤテの予想通り、回避行動を取った。ハヤテは斬った木の上に乗ってそのまま桜花の元まで走り桜花の目の前に現れた。
「残念やったなぁ。中々ええ作戦やと思うんやけどウチの方が一歩、早かったどすなぁ〜」
「なに!?」
刀を桜花に向かって振り落としたと思ったハヤテであったが、既にそこには桜花の姿はなく、周囲を見たハヤテだったが、突然背中に痛みが生じ前に倒れた。
「く、いつの間に後ろに」
「・・・」
後ろを取られ、体勢を崩されたハヤテは死を覚悟した。しかし桜花は突然、刀をしまってハヤテに声をかけてきた。
「なぁ、少しだけ質問してもええ?」
「何、だ」
「あんたにその剣教えたの誰?」
何故、今このタイミングなのか分からなかったが、ハヤテは少しでも体力を回復する時間が欲しいと考えて素直に答えることにした。
「無影だ」
「あらぁ!そら因果なもんやねぇ〜!」
無影という単語を出したハヤテであったが、桜花の満遍の笑みを見て不思議に思い、今度はこちらから質問をしてみることにした。
「し、師匠を知って、るのか・・・」
「勿論、ウチはあん人の後釜として世界中から来る暗殺依頼を請け負ってるんよ」
世界中から来る依頼?
現在の日本では海外と繋がりを持つことでさえ、下手をすれば罪に課せられる程シビアになっている。
それなのにこの女はかつて師匠が行っていた仕事を今続けているといった。
「ほんでもって今回はクールはんからの依頼でなぁ、もしも無影はんが今回の計画の邪魔をするようならウチが止めろって言ってきたんよ」
確かにこの女は強い。だが、あの師匠に勝てるかどうかは疑問に思った。いやあの男が雇ったのならば、何らかの止める手立てがあるのだろう。
「すごいな・・・そんな相手と俺は戦っていたのか」
俺は思わず笑みをこぼしてしまった。別に戦闘狂と言うわけではないが、俺はいつか師匠を超えたいと思っている。だから今目の前にいる敵は俺にとって師匠との差を知ることができる絶好の機会だ。
「あらあら、笑顔になるなんてあんたはんも中々狂っとんなぁ」
「ここまで差があるとは思わなかったけどな」
「??」
未だ背中を取られ身動きができない俺は何とか体勢を立て直せる方法を考えていた。
「ほな、少し手ほどきしたろか」
しかし、桜花はハヤテを斬るどころか、何かをする気配すら感じさせなかった。
ハヤテはおかしいと思いながらも桜花から距離を取り、息を整えた。
「何で今俺を逃した」
「ん?ゆうたやん。手ほどきしたるってな」
俺を完全に舐めているのか、それとも師匠の弟子だからなのか、桜花は先ほどとは少し変わった様子を見せていた。
まるで兄弟弟子を見るかのようなその眼差しで俺を見つめてきたのである。
「ほな、あんたはんの一番得意な技でおいで」
「初めからそのつもりだ」
正直、もう体力も残り少なくなっている。何よりも俺と師匠の差は実感できた。遠すぎる遥か高みに師匠がいる事は今回、彼女と戦った事で理解した。
ゆえに勝ち目は勿論ない。だが、それでも今ここで少しでもこの女の体力を削る。
「行くぞ」
ハヤテは刀を鞘に仕舞い、抜刀術の構えを取った。そして今自分が出せる最大の速さで桜花に向かって走り出した。
「これがあんたの本気なん?ほんまに?はぁ、無影はんは何教えたんのやろな」
迫り来るハヤテに桜花は何故だが呆れながら刀の柄を握り締めた。
そして次の瞬間、
「魔刃」
「えっ・・・?」
ハヤテは突然身体を右から左腰まで真っ二つに斬り落とされた。




