第68話 午の十二司支③+α
こちらは既に何もない。打開策を考えるミサであったが、何も思いつくことはなく馬場はジリジリとこちらへ近づいてきていた。
「さぁこれで終わりだよ」
目の前に来た馬場は手刀を右手で作り出し、腕を上に上げた。
私の能力は効かず、体ももうボロボロで避けるのも精一杯の状態だ。そんな状態の中、馬場は追い討ちをかけるかのように私の意識が右手にいった瞬間に左手で私の脇腹を引きちぎった。
「あがぁっ!あ、あぁぁぁぁ!?!?」
「騒ぐんじゃないよ。"引きちぎる"くまんばちって技だよ。悪いがあたしは用心深くてねえ」
脇腹を抑えながら床で疼くまる私の首を馬場は締めて、完全に逃げることが出来ない状態にされてしまった。私は首を絞められる苦しさに脇腹の痛みによって思わず涙をだしてしまっていた。
「泣くほど痛いのかい?安心しな、次の技で最後にするからねぇ!さぁ!行くよ!"伝家の宝刀"馬場チョップ!!!」
「ぐっ、うぐ、ふぅぅぅ!」
そして右手が振り落とされた。
私はその瞬間、何か逆転できるものは無いのかと必死に考えていたが、彼女の能力は自分とは圧倒的に相性が悪い上に、既にこの体だ。何をするにしてもまず、もう体が言うことを聞かないだろう。
ならばせめても最後までこの女を睨みつけてやろう。私はそう考え、馬場薫を睨みつけた。
「ははっ!いいじゃないか!流石だよ!最後まであたしに屈せず、睨みつけるその胆力!もう後十数年早く生まれていれば、あんたとはいいライバルになれたかもしれないねぇ!!!」
誰もがもうダメだ、勝負は決まったと思った。to swapのメンバーも馬場薫もそしてミサでさえ、そう思った瞬間、ミサはその声を聞いた。
「頑張れ、諦めるなミーちゃん」
その声を聞いた瞬間、ミサの体の奥深くから力が湧いてきた。そしてミサは馬場チョップが当たる瞬間に奇跡を起こした。
「・・・ん?な、何だいこれはどうなってるんだい!?」
会場中も馬場の姿に驚いていた。
そう、馬場薫が、先程までミサの首を絞めていた馬場薫が空中に浮かんでいたのである。
「な、何をした!ミサぁぁぁ!!」
「ハァ…ハァ…、わ、私だってよくわ、分かんない、わよ・・・」
声が聞こえたと思ったら次の瞬間、私は咄嗟に自分の"重力"のnoiseを発動していた。
そしたら、チョップが当たる寸前で彼女が浮かび上がったのである。
「くっ、何だいこれは!?、降りることが出来ないだと!?それにあたしのnoiseが発動しない!?」
「ハァ…大分落ち着いてきたわ。どうやら私も新しい力が目覚めた見たいね」
ミサが右手を上げ、ぶんぶんと振り回すとそれと同時に浮かんでいた馬場もぶんぶんと動き出した。会場中も何が起きたのかわからず唖然としていた。
「まさか、重力の力を使って無重力を作り出したのかい!?いやあたしの周りにだけ!?」
「さぁ?私もよく分かんないけど多分そうじゃ無いかしら??」
「な、ふ、ふざけるな!?」
「ふざけてなんて無いわよ?私は常に真剣に生き抜いてるわよ?」
ミサはニコリと笑いながら、馬場を自分の近くに寄せた。
「さぁて今までの分をしっかりと返させて貰うわ」
「忘れたのかいミサ?私のnoiseは攻撃を受けたらより強くなるんだよ!」
「忘れてなんて無いわ。でも今はそれが発動してないんじゃないの?」
「ッ!」
一瞬だったが馬場は表情に出してしまった。直ぐに表情を隠す様に俯いたが、それを見逃すようなミサではなかった。
「じゃあ終わらせてあげるわ。あなたに相応しい頂点まで、飛んで行けぇぇぇ!!!」
「ぐわっ!?」
ミサが両手を上に上げた瞬間、馬場薫はそのまま、地下を突き破り続け、地面を破壊して青空へと飛ばされた。
「そのまま上がり続けててね?それ私が能力を解除しない限り、永遠と上がり続けるから」
勿論、ある程度のところで止まるようにはしてあるが、何せ初めての事でもあるから多少の誤差はあるかもしれない。まぁあの人なら多分大丈夫だろう。
「フッ、いい試合だったよミサ」
未だ上空へ上がり続ける馬場は目をそっと閉じた。現役時代から自分に勝てる者はいなかった。どんな相手であっても少し捻ってやるだけで泣いて降参を告げるばかりであった。
そんな事ばかり続いていたら、いつの間にか公式戦にも裏格闘技でも出禁となり、そして表舞台から姿を消した。そんな時に出会ったのがクールであった。
彼女がクールに協力した理由はただ一つ、自分と対等な、もしくは負けない相手との戦いを望んでのことだった。
そして今日、自分にどんなにやられても立ち上がり、そして勝利を掴んだ女が現れた。
そんな彼女に対して馬場薫は心からの称賛を送りながらどこまでも広がり続ける青空へと姿を消していった。
「しょ、勝負有りだぁぁぁ!勝ったのは、な、な、なんとぉぉぉ!現役アイドルのミサミサだぁぁぁ!!!」
「後はなんとかしなさいよカケル・・・」
熱い歓声が飛び交う中、ミサはここへ共に来た仲間たちのことを思いながらそのまま意識を失った。
ーー
「・・・驚いたな。戌はともかくとして羊と午が敗北するとは」
青と装置の調整に終わりを告げた後、クールは電力が貯まるまでの間の娯楽として、カケル達の映像を眺めていた。
クールは今回の計画を実行するにあたって、自身の故郷や東部、更には西部に所属している強者達とぶつかる可能性を考慮して、各地から優秀だと判断した人材を集めてきていた。
その中でも特に戌、羊、午、そして巳の実力は群を抜いており、下手をすれば自身ですら無事では済まないと判断した者達であった。
「それが既に一人、か。戌は裏切り、羊と午は無様な敗北、亥、申に至っては足止めにすらならないカス」
そう言ったクールは酉であるチキンの映像を見てそのままゴミ箱へと捨てた。
「まぁいい。奴らの穴を埋めるだけなら彼女だけで事足りる」
そう言ったクールは巳の十二司支がいる部屋の映像を映し出した。
ーー
「なんや、もう終わりなん?」
巳の十二司支がいる部屋には二人の人影があり、一人は巳の十二司支その人であり、もう一人は金髪のメッシュが入った髪で刀を持った少年だった。
いや持っていたと表現するほうが正しいだろう。
「うっ・・・」
その少年、ハヤテは刀を折られ、既に地面に這いつくばっており大量の血を流していた。
「こん程度でほんまにうちらの相手するつもりやったん?夢見るんはええけど、もすこし現実見たほうがええよ?」
女の声に反応して、ハヤテは再び刀の柄を握りしめ起き上がった。
「ゔ、ゔるさいん、だよ、、、現実、なんて・・・沢山、見てきた」
ハヤテはあの日、青の兄であるクールに負けたことを思い返していた。自分の無力さを痛いほどあそこで痛感した。
折れた刀を杖代わりにして立ち上がり、少年はその刀を女に向けた。
「あい、つに・・・こん、どこそ・・・勝つ、だか、らお前、なんて・・・相手してる暇ないんだ。そこをどけ」
「ええなぁ・・・惚れてまうわ。流石あん人の弟子やね・・・」




