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第67話 午の十二司支②

 馬場薫のnoise"打たれ強くあれ"とは、攻撃を受ければ受けるほど、ダメージを受ければ受ける程、上限なく強く、速く、重くなる力である。

 馬場薫はかつてこの力を使い世界中のあらゆる格闘技の頂点に立った。


 「ミサあんたのnoiseも中々強力だね。だが、あたしとの相性は最悪なようだね!」

 「うっそでしょ・・・」


 ミサのnoise"重力"は対象の相手に対して重力をかせる能力。

 つまり、それを受けた相手は永続的に攻撃をされ続けると言うことになる。

 馬場薫のnoiseとミサのnoiseの相性は最高にして最悪の組み合わせとなっていた。


 「さぁてミサミサ。これであんたも万策尽きたんじゃないのかい??」

 「く、、、」


 馬場薫が言った事は正解だった。

 ミサもフィジカルこそ、同年代の女子や一部の男子を除けば抜きん出ている。しかし、今目の前にしている怪物はそんな次元の話ではない。


 「本来なら、猪のボウヤと組む予定だったんだけどね。勝手にどこか言っちまってね」

 「あら、フラれたの?それはお気の毒におばさん」

 「その状態でよく言えね。さぁてそろそろ次いくよぉ!」


 馬場は両手を広げてミサに向かって走り出した。先ほどとは別人かたら思わせるほど、走る速さは上がっており、ミサは既に反応する事すら出来なくなっていた。


 「どうしたんだいミサ!あんたの実力はそんなもんじゃないだろ!」

 「うるさいわね!能力効かない相手にどうやって戦えって言うのよ!ってゆうか、おばさんだけ能力使えるってフェアじゃないじゃない!」

 「それが今回のルールさね!ほぉら、捕まえたよぉ!!」


 馬場はミサの片脚を掴み軽々と上に上げた。

 そして観客に見えるように周囲に見せびらかしてからもう片方の手でもミサの脚を掴んだ。


 「さぁて!今度はあれやるよ!」

 「おぉぉぉと!あの構えはまさかぁぁぁ!」


 両手でミサの脚を掴んだ馬場はそのままミサの脚を握り絞り始めた。俗に言う雑巾縛りである。

 

 「ぐぅ、ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「どうだい!これが"滴る"雑巾絞りさね!」


 水で濡らした雑巾を絞った時にでてくる水の様に人間を絞った時に血が流れることから馬場薫がつけた十八番の一つである。

 捕まれ、縛られた片脚からは血が滴るように落ち、ミサは苦悶の声を上げた。絞られた片脚は肉はぐちゃぐちゃになり、骨の関節は曲がらない方向へと曲がっていた。


 「う、あ・・・」

 「どうだいミサ」


 右腕は湿布によって肉がエグれ、デコピンによって肩の骨が砕かれ、片脚は使い物にならないほどぐちゃぐちゃになってしまった。


 「それにこの声を聞きな!あんたを応援している声は何処にあるんだい?これが!あんたが!蔑ろにしてきたファンというやつさ!」


 ミサは耳を澄ませて周りの声を聞いた。確かに今自分を応援している声は全く聞こえない。いやそれは最初から聞こえてなかった気もするが。

 

 「ファンは私達の力になるのさ。そんなファンを蔑ろにして、暴力を振る、そんなあんたじゃあ私に勝てるわけないんだよ」

 「・・・」


 おばさんの小言ほど煩いものはないとはよく言うけど、まさにこの女はその通りだ。

 大体私はファンの為にアイドルをしていない。私は私の為にアイドルをやっているのだ。

 ファンとはそんな私の結果だ。私が私を貫いて活動をした結果、形として現れる結果なのだ。よくアイドルはファンの皆んなのおかげでここまで来れたと言うがそれは違うと私は思ってる。

 ファンがつくのは何故なのか、何もしないでファンがつくわけがない。こっちが諦めずに活動をし続けたからだ。その結果、ファンがつき、グッズが売れるようになるんだ。

 後、そもそも


 「わた、し・・・頂点とか、目指してないんだけど・・・」


 そんなもの目指したつもりは毛頭ない。私はほどほどにチヤホヤされて、ほどほどな生活を送れればそれでいい。to swapにいた頃は他のメンバーの夢があったから私も目指していたに過ぎない。

 今一人となった私は特にそんな欲望はない。・・・とは言い切れないかもしれないけど多分ない。


 「・・・っ、ふふっ」

 「?、何がおかしいんだい?」


 どうやら耳が遠くなったおばさんには今の声が聞こえてなかったらしい。

 だが、私には微かに聞こえた。そう聞こえたのだ。


 「ざん、ねんだった、わね?・・・こんな、私にだって・・・ファン・・・いるん、だから、ね?」

 「どこにいるって言うんだい?この歓声を聞きいてみな!あんたを応援してる声なんて、」

 「ミサミサ〜!!」

 「ミサァー!!」

 「ミサちゃん!!」


 その声は今度は馬場にも聞こえてきた。しかし、この馬場コールの中、どこから聞こえてきたのか、誰が言っているのかまでは馬場にはわからなかった。

 

 「どこから!?」

 「あらら?わから、ない、のかしら?」


 ミサは声がした方向に指を刺した。

 馬場もその方向を見てみると、そこには三人の女性の姿があった。その三人は馬場はおろか観戦席にいた人々でさえ、一度は見たことがある人物たちだった。


 「彼女たちは・・・」

 「ええ、そうよ。to swapの仲間たちよ!」

 「あぁ!やっとミサミサ気がついたぁー!」

 「最近、顔見せへんと思ってたら、何や大変なことに巻き込まれてるやん!」

 「ミサちゃん頑張って!」

 「何故、ここに・・・」

 「私の為に決まってるでしょ!!」


 馬場が三人の方向を見た隙をついて、ミサは自分のnoiseの制御を手放し、自分すら巻き込んで空間全体に重力を発生はせた。


 「ぬぅ、、!」

 「さぁて行くわよ!"重弾"!!!」


 先程以上の重力を浴びた馬場は、突然のこともあってか膝をついてしまった。みさはそれを見逃すことなく、その上に飛び乗り今の自分にとって最大最高のフルパワー重弾で馬場を殴りつけた。


 「どぉ?少しは・・・聞いてないわね」

 「私のnoiseは打たれれば打たれるほど、私が強くなる能力なんだよ。その程度じゃあ勝てないよ!」

 「ぐっ!!」


 しかし、その重弾でさえも馬場を倒すことは叶わず、馬場によるボディブローをくらい、ミサはまたもや反対方向の鉄柱の元まで飛ばされた。


 「あぁもう!その能力狡すぎるでしょ!!」

 「何を言うんだい。あんただって能力を使っているんだフェアだよ」


 馬場の圧倒的な力を前にミサがなす術なくやられる姿をto swapの三人は歯痒い思いで見守っていた。


 「ミサミサァー!」

 「何やあの女、めちゃくちゃ強いやないか」

 「馬場薫、あまりの強さに公式戦に出ることを禁じられてしまった伝説の人よ」

 「それでもミサミサならいけるよ!頑張れぇ!」


 ミサは苦楽を共にした三人からの応援に少しむず痒さを感じながら再び立ち上がった。


 「そうこなくちゃね」

 「あの三人が応援してくれてるんだもの負けられないわ」

 「ふっ、ミサこの歓声を聞きな」


 確かにミサにもファンはいた。応援してくれる人がいた。しかし、たかだか三人。この会場に来ている数千人規模の人々の馬場コールには遠く及ばなかった。


 「この数千人の声援にあんたのたった三人の声が勝てるわけないだろ。あんたも理解しているだろ」

 「あら?おばさんには聞こえないのね。そっか、もう歳だものね」

 「・・・いってくれるね」


 だが、ミサには確かにその声が今も聞こえてきている。神様からの奇跡なのか、はたまた気のせいなのかはミサにもわからなかっただが、確かなのはそれがミサに立ち上がる力を与えてくれていると言うことだ。


 「残念だったけど、私にはあの子達の声援はしっかりと今もこの耳に聞こえてきているわ。むしろおばさんこそ、ちゃんと一人一人の声が聞こえてるのかしら?」

 「何を言ってるんだい。これだけの声援があるんだ。それで充分じゃないか」

 「ぷっ!名も知らない人達の声だけで優越感を満たして、頂点でふんぞり返ってるおばさんこそが一番の自分大好きっ子ちゃんじゃない!」

 「なんだと?」

 「悪いんだけど私、名も知らない奴らの応援なんかよりも、知ってる人達の小さな声援の方が嬉しいの」


 何千、何万人もの人がこれから先、私を応援してくれたとしても私はやっぱり大切な人達の声の方が嬉しいと今この場でこうなって初めて実感した。

 そう考えているミサの脳内にはto swapの仲間たちや黄昏荘に住む仲間、そして幼馴染である二人の男の顔だった。


 「・・・うん。そうだ。私は今の自分を貫く自分を応援してくれる、背中を押してくれてる皆んながいてくれる方が嬉しい」

 「くだらないね。ミサ、いいかい?私達の様なスターにとって、名を知る少数なんていらないんだよ。私達が大切にしなきゃいけないのは名も知らない数多くの人なんだよ」

 「なら私は新しい道を行くまでよ。あくまで私が信じた道を、ね?」


 人差し指を唇に当て、片目を閉じてポーズをとるその姿は紛れもなく、彼女がアイドルということを証明していた。

 会場中にいた人々はそんなミサに見惚れてしまっていた。


 「そうかい。どうやらあたしとミサ、あんたとじゃあ考え方が違う様だね!!」

 「元からそうよ。おばさん」

 「ならば!我が最大奥義でミサ、あなたを葬ってあげるわ!!」

 「お、おーっと!まさか!まさか!ここで出てしまうのかぁぁぁ!伝家の宝刀がぁぁぁ!!!」


 会場中が今度は馬場の一言にざわめいた。

 ミサもそうだった。自身の最大の技"重弾"が効かないのだ、その上にまだ何かを持っていると来た。


 「まだ、何かあるわけ・・・」

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