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第66話 午の十二司支

試合開始前


 ミサがカケル達と別れた後、彼女は手持ちのスマホを使って早速、生配信を始めていた。


 「はぁ〜い皆んなぁ〜、ミサミサだよ〜」


 今回参加した目的はこういった大ごとに参加できるアイドルは中々いないと考えたのも理由の一つであった。

 

 「ねぇ〜怖いところだね。でも実はここって、何と政府のお偉いさん方が集まる場所の真下にあるんだよ〜。びーくりでしょ!」


 確実に伝えてはならない情報でさえ、ミサにとっては自分を輝かせる為なら平気で配信する。

 彼女自身、一応良識というものは持ち合わせている。しかしそれ以上にミサという女は自分が一番なのだ。


 「あ、チッ垢banしたな運営」


 生配信中だったが政府関係と知られたからなのか、すぐに消されたミサは舌打ちをしながら長い通路を歩いていると薄暗い空間にでた。


 「あら?どこかしらここ??」

 「ここは試合会場だよ」


 どこからか声が聞こえたと思ったら、ミサの視線の先にはプロレスのリングらしきものが設置されていた。


 「なにこれ??」

 「見ての通り、プロレスさ。あんたがあたしの相手だね。あたしは午の十二司支、名は馬場薫。聞いたことくらいはあるだろ?」

 「馬場、ってあの馬場薫?うそぉ」


 馬場薫。かつて女子プロレスで名を馳せた人物。そのあまりの強さから男子プロレスに参加することを許可され、そこでも頂点に登り詰めた。それ以外にもあらゆる格闘技に挑戦しては頂点を手にし続けた、伝説の女である。


 「あんたみたいな若い子にも知られているとは嬉しいねぇ。あたしもあんたの事は知ってるよミサミサ。中々奇抜な事してるじゃないか」

 「え〜ミサミサはそんなことしないよぉ〜」

 「何言ってんだい。あんたの暴力だけ切り取った動画よく見るよ。中々いい拳をしてるじゃないか」


 そう言った馬場薫はミサに持っていたスマホの画面を見せた。

 そこにはミサがライブ中に騒ぎ出したファンを問答無用で殴り飛ばしたり、自身を揶揄したファンの腕の骨をへし折るなどの洒落にならない動画が映し出されていた。


 「あら、こんなの出回ってたの」

 「何だ知らなかったのかい?ミサミサあんたはどうやら相当頭のネジが飛んでいるみたいだね!」


 そんな事を言われても私は私が一番可愛いと思っている。それを揶揄するような奴らは私は許さない。

 何よりも一々そんな事を言うくらいなら初めから見るなと思う。

 

 「ファンになったのなら、大人しく私を応援して、目立たせて欲しいものね」

 「それは無理なんじゃないか?あんたが目立たないのはファンのせいじゃないさね。あんたの問題だよ」


 馬場は真剣な眼差しでミサを指差した。

 

 「あたしもファンを持つ身だから言わせてもらうよ。あんたは今のままじゃあ絶対頂点には立たない」

 「ふふっ、ご指摘は嬉しいんだけど、私は私の力で頂点に立つわ。上からベラベラと偉そうに話さないでくれるおばさん?」

 「言うじゃないか貧乳」

 「ふふっ」

 「ははっ」


 二人は笑い出し次の瞬間、両者の拳が交差してお互いの頬を殴りつけた。

 

 「誰がおばさんだ!!!」

 「誰が貧乳よ!!!」


 お互いにとって、それは一番言ってはいけない言葉だった。馬場薫は見た目こそまだ三十代だが、年齢はすでにそこそこな歳となっている。更にミサはと言うと高校生ながら胸に関しては中学生である青と葵よりも小さく密かにコンプレックスとなっていた。


 「ほぉやっぱり中々いい拳じゃないか」

 「くっ、」


 お互いを殴った二人であったが馬場薫は平然としているのに対し、ミサはたったの一撃喰らっただけで膝にまでそのダメージは来ていた。


 「あっ、う、嘘・・・」


 ミサは自分の想像以上のダメージだったのか、思わず床にしゃがみ込んでしまった。

 ミサ自身もこれには驚き、震える脚を見て一筋の汗を額から垂らした。


 「どうしたんだい。この程度で終わる女じゃないだろ。ほら、立ちな」

 「あ、あら、私、まだ女捨ててないの、あなたと違ってね?お・ば・さ・ん」

 「いいねぇ、あんたのそのへらず口、余計に黙らせたくなったよ!!!」


 馬場は飛び上がり後ろにバク転しながらプロレスのリング似たところの四方にある鉄柱に立ちった。


 「上がっておいで!ここはあんたとあたしが戦うためのステージさね!!」


 馬場薫が両手を広げた瞬間、それまで薄暗かった空間は突然、明かりがつき部屋中が見渡せるようになった。

 

 「これは・・・びっくりね」


 辺りを見渡すとリングを中心に観客席のようなものが設置されており、そこにはところどころにカメラのような物が設置されていた。

 

 「カメラあるじゃない」

 「ふっ、流石アイドル目ざといね。そう、ここは今から十分後にNouTubeで生配信されるんだよ。あんたとあたしの世紀の大決戦がね。因みに観客席には開いたのが早いもん順にバーチャルでだけどこの場で生で見れるようになって」

 「それはどうでもいいわ。私的には事務所通して欲しいんだけど」


 地下アイドルにだって事務所くらいある。まぁ私に関してはクビ寸前なんだけどね。

 

 「安心しな。その事務所からの許可は降りてるよ。まぁあんたの素行に関して相当頭を抱えてるらしいじゃないか」

 「あら、私もしかして見捨てられちゃった?」


 確かにこれまでも自分勝手に色々やってきたのは自覚している。

 だけど、まさかクビになるどころかまさかこんなわけのわからない戦いをさせられるとは思わなかった。


 「ま、いいわ。あなたを倒して事務所にもしっかりとお返しをしてあげるわ」

 「そのいきだよ。さぁ!衣装はあそこにあるから好きなのを選びな!おっと、忘れるところだったよ。今からあたしたちがやるのはプロレスだがプロレスじゃないから気をつけなよ」

 「?」

 「何でもありのデスマッチプロレスさ!ルールは無用何をしてもいいのさ」

 「あら、それは好都合ね[


 そうして今に至る。

 ゴングがなり、両者は再びぶつかり合った。

 

 「オォォォウラァァァァァ!!」

 「きゃっ!?」


 挨拶かわりの頭突きを制したのは馬場薫だった。

 馬場薫はそのまま突き飛ばされたミサの右腕を掴み、もう一方の腕で人差し指と中指を立てた。


 「さぁ!行くよ!馬場薫の五つの十八番のその一ぃぃぃ!!」

 「おっーとぉ!出るかぁ!馬場薫の十八番ぉぉぉ!」

 「"香る"シップゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 「ぎぃやぁぁぁ!?」


 馬場は立てた指をミサの右腕に向かって思い切り叩きつけた。叩かれた部分はメキメキッと音を立て、ミサはあまりの痛さに女性とは思えない叫び声をあげた。

 そのまま腕を離されたミサは逃げるように馬場薫から距離をとった。


 「はぁ…はぁ…うぐぅぅぅッ〜」

 「どうだい?あたしの十八番は」

 「あ、あら!ぜ、全然?たいじたことないじゃないのッ!」

 「強がるんじゃないよ。自分の腕をよく見てみな」


 馬場薫はミサの右腕を指差し、ミサも自分の右腕を見た。

 ミサの右腕の叩かれた部分は皮が巻かれており、更には煙のような物を立てており、少し焦げ臭かった。


 「これがあたしの"香る"シップ!あたしが叩いた部分はそのあまりの摩擦力に煙をだしてしまうのさ!」

 「あ、ありえな、いでしょ・・・」


 これは想像以上に厳しい戦いになる。ミサはそう感じ、一度引くべきかと考えた。しかし、それをカメラが許さなかった。


 「ミサあんたは逃げれないだろ。どんな問題を起こしたとしてもあんたはアイドル。カメラを向けられればそこから立ち去る事は許されない」

 「あ、あら。アイドルの事をよく研究してるじゃ、ない。何?もしかしてアイドル志望だったの?おばさん??」

 「・・・流石だね。そんな状態でへらず口を聞けるとは。じゃあ、次のやついくよ!!」


 そう言った馬場は今度は伸ばした中指の指先に逆の手の指先をつけ、ミサに向けた。


 「さぁ!行くよ!」

 「おーっと!更にでるかぁぁぁ!馬場薫の十八番がぁぁぁ!!」

 「何かやばそ!」


 身の危険を感じたミサはすぐ様、その場から移動しようとしたが、時は既に遅かった。


 「遅いよ!行きな!"飛ばす"デコピン!」


 馬場薫は中指を思い切り伸ばしデコピンを放った。

 本来、デコピンは誰もが知るように近距離で使う技だ。しかし、馬場薫は違った。自身の筋力で放たれるデコピンの威力は風の弾丸になって飛ばされる。

 そして、ミサはそれを今度は左肩にモロに受け、鉄柱の所まで飛ばされた。


 「あぐ、・・・ツゥ〜」


 幸い骨は折れなかったが、ミサはその場でうずくまり痛みに悶えていた。


 「さぁ〜〜〜すが!我らの無敗の女帝!現役アイドルであるミサミサは当たり前だが、なすすべがなぁぁぁい!!!」

 「ばーば!ばーば!ばーば!」

 

 会場にバーチャルで来ている大勢の観客達は一斉に馬場コールを行い、馬場もそれに答え両手を広げた。

 会場が馬場コールで熱狂する中、一人ミサは怒りを募らせていた。


 「チッ、うっさい観客共ね。黙れないのかしら」

 「まだ起き上がるかい。あんたアイドルにしておくには勿体無いくらいのタフガイだッ!!?」


 痛みに苦しみながらミサは立ち上がり、青筋を立てながら馬場コール一色を黙らせるように重力のnoiseを馬場薫に向かって発動した。


 「な、何だぁ!ミサミサが立ち上がったと思ったら、今度は我らが馬場が突然、リングに倒れ込んだぞぉぉぉ!!!」

 「これが私のnoise"重力"よ」

 「なるほど、確かにこれはきついね」


 筋肉の塊のような女であっても重力に反抗して無理に動かそうとすればタダでは済まない。

 ミサはさっきまでの仕返しをする為に近づいていった。


 「さぁて、私をボコボコにしてくれたお返しよ?覚悟はいいかしら?」

 「・・・なるほど、これがあんたのnoise。ならお返しにあたしのnoiseも見せなきゃね!」

 「は?、ウッ!!?」


 重力のnoiseは確かに発動した筈だった。しかし、ミサは突然起き上がった馬場薫によって殴り飛ばされた。


 「ゲホッゲホッ!あ、あんだ、なんで??」

 「これが私のnoise"打たれ強くあれ"さ」

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