第58話 十二司支初戦
目が覚めた時、俺は病室にいた。
「びょ、うしつ?俺は・・・」
俺はあの時、確かにクールが召喚したドラゴンのブレスでやられた筈だった。
それに胸の傷もあった筈なのに塞がっていた。
「どうなっていッつ!?そうだあの時、確か・・・」
誰かは分からなかったが、あのブレスが当たる直前、俺は抱え上げられてそのままあの結界から抜け出したんだ。
「それで病院に連れてかれたのか?いってて」
身体中が痛むことから少なくとも夢ではなかった事は分かった。上半身を起き上がらせ、立ちあがろうとした時、ベッドの上に二枚の白い紙が置かれていることに気がついた。
「これは?確かに結界に出入りする奴か?」
まだこの街に来る前、幼少期のころ、兄に連れられて怪異討伐に行った時に使っているのを目にしたことがある。
「これが何で?助けた奴が置いてったのか?」
「あ!本当にいたハヤテさん!」
病室の入り口から声が聞こえ、見てみるとそこには緑が立っていた。
「お前何で、ってそれよりも何で青をあそこに行かせた!」
あの時、せめて青がいなければ少なくとも俺が死ぬだけで済んだ筈だ。
「ぼ、僕だって青を止めました!で、でも青さんに振り解かれてしまって・・・」
「いやすまん俺が悪かった」
よく考えてみれば、どの道あの男は青を回収した筈だ。ならば、下手に病院で犠牲者が出るよりも良かったのかも知れない。
「そうだ、あいつ、葵は無事か?」
「あ、葵さんなら、その今は集中治療中で・・・た、助かる見込みはゼロだって、、、」
緑は拳を握りしめながら涙を流した。
恐らく、何も出来なかった自分が悔しいのだろう。今、俺も同じ気持ちだからこそ分かる。
「あの女なら大丈夫な筈だ。それよりも緑、これから多分何でも屋が来る筈だ。事情を全て話せ」
「分かりましたってハヤテさん!?何着替えてるんですか??」
「俺は青を取り返しに行ってくる」
病院の服からいつもの私服に着替え、刀を背負い俺は病室の窓を開けてそこから飛んだ。
「任せたぞ」
「ちょ、ハヤテさーん!!」
そうして俺はこの紙が示す場所、西部の政府達がいるテラステラへと足を運んだ。
侵入は容易ですぐにそこの会議室らしい場所についた。
「ここか。あとはこれを使って・・・“道を示せ"」
そして紙を使い、現れた魔法陣らしき物を潜って少し大きな空間へ辿り着いた。
周囲を見渡してみたが、灯りを灯すようの蝋燭以外、特に目立った物はなかった。
「それよりも青だ」
「・・・連れないことを言うなよ」
「何!?」
青を探しに行こうとした瞬間、壁を突き破ってこちらに向かって拳が飛んできた。
それを俺は寸前で避け、一歩、二歩と後ろへ後退した。
「お前、」
「数日ぶりだなハヤテ」
「優希か」
壁から現れた男はあの時、赤服女の件を裏で糸を引いていた少年である優希だった。
「ここに来るとは思わなかったよ」
「お前こそ、まさかクールの仲間だったとはな」
「あの人は俺の恩人なんだよ。俺と姉さんの、な」
「一度だけ言う。どけ」
俺は刀を抜いて、優希に向けた。
既に一度、戦い勝った相手だ。油断するつもりはないが、なるべくならクールを相手にするために体力は温存しておきたい。
「クールさんの所へは行かせない。亥の十二司支の名にかけてな」
「そうか残念、だ!」
大地を蹴り走り、優希に向かって刀を横に振り抜いた。しかし、優希はそれをしゃがんで避けた。
「さて、リベンジマッチだ。"突進連鎖"」
「くっ!?」
お返しと言わんばかりに今度は優希が攻めてきた。以前と変わらず、一撃一撃は重くはないが、何よりもその速さが非常に厄介だった。
だが、やはり捌けないほどの威力ではないのが幸いだった。
「とか思っているな?」
「ッ!前より威りょッ!」
少し前に戦っていた時よりも明らかに威力が上がっていた。それどころか殴り続けられるほど更にどんどんと拳の威力は上がっていた。
「ぐッ、」
「この程度か!猪牙双破!」
「おわっ!」
殴り続けていた両手を今度はハヤテの腹部を狙って勢いよく突き刺そうとした。
ギリギリの所で刀で身を守ったハヤテだったが、威力は殺しきれずそのまま壁に激突した。
「く、そッ、」
「距離をとって休ませることなんてしない」
呼吸を整えようようとした矢先だった、優希は距離を縮めて再び、連続で殴りつけてきた。
ハヤテはそれをギリギリで塞いでいたが威力を殺しきれなくなり、その隙を疲れて腹を蹴り飛ばされ地面を二転三転した。
「ゲホッ、ゲホッ、く、そッ、」
「どうだ?これが俺の本来のnoise"猛進"だ。真っ直ぐに進んでの攻撃をすればするほど、拳の威力が上がる」
「なる、ほどな。だから、か」
「・・・確かにあんたの剣技は目を見張るものがある。だが、能力者である俺達にとってはそんなもの意味をなさない」
「ハァ…、それは、どうかな?」
「?、どうゆうこ、と??」
そう言われて優希は初めて耳や肩、腰、足、腕などが斬られ、そこから血が流れている事に気がついた。
一つ一つの傷の痛みはそこまでではなかったが、恐ろしかったのはいつ斬られていたのか分からない事だった。
「・・・いつの間に?」
「確かに俺には剣技しかない。だがその剣技がお前を敗北へと誘うんだよ。こい、お前の技はもう俺には通じない」
「負け惜しみか?それともお前もまだ本気を出していなかった、そうゆうわけか」
「好きにとらえろ」
「まぁいい。これで終わらせる!"突進連鎖"!」
再び、優希はハヤテへと技を放ち連続で攻撃を仕掛けた。無論、ハヤテもそれを避ける暇がなく、先程と同じ結果になる、筈だった。
「ぐあっ!!?」
「言った筈だもう通じないって」
突進連鎖、打てば打つ程威力の上がる自分の能力の特性を利用して、拳で相手に反撃と逃げる隙を与えずにひたすら殴り続ける、シンプルだが強力な技の筈だった。
しかし、今やられたのは何故だが分からないが優希の方だった。
「どうなって?」
「さぁな?もう一回やれば分かるんじゃないか?」
「くそ!舐めるなぁぁぁ!!」
先程と同じよう優希はもう一度、同じ技を繰り出した。しかし、今度もまたハヤテにとって容易に避けられ刀による反撃を喰らい、更には返しだと言わんばかりに蹴りを決め込まれ、今度は自分が地面に転がっていた。
「ぐっ、そんな俺の突進連鎖が?」
「お前のそれはもう通じないって言ったろ?」
「ふざけるな!突しッ!?」
「通じないんだよ。何度も同じことを言わせるな」
優希が動くよりも速く、優希まで近づいたハヤテは正面から優希を蹴り飛ばした。
「くそっ!何、で、だァ!!」
「お前の突進連鎖、確かに受ければ逃げ切る事が出来ない厄介な技だ。だけどな、それを放つにはお前の状態に左右されやすい」
「左右?どうゆう事だ?・・・まさか」
優希は何かに気がついたのか自分の体中の斬り傷をみた。先程から突進連鎖を放とうとする度に感じていた小さな痛み、ハヤテによって斬られたこの傷が自分の技の精度を大きく落としていた事に優希は気がついた。
「正解だ。その技はお前の身体をフルに使う技だ。足の踏ん張り、腕や腰の動き。そこに普段とは違う何かがあればお前の技には一瞬の隙ができる」
「たかがこの程度の傷が邪魔をしてるってのか!?」
「そうだ」
戦い慣れている人物ならば、あの程度の傷で隙ができるわけが無い。しかし優希は別だ。
あの時と今回、二回も戦えば嫌でもわかる。
優希は恐らく今まで一度もこう言った戦いをして来たことはなかったのかもしれない。もしくは場数が圧倒的に少ないかのどちらかだ。
この街に来た時から今日までこの刀と共に戦い続けて来たハヤテとは潜って来た修羅場が違う。
「まだやるか?」
「あたり前だ!俺は負けるわけには行かないんだよ!」
「そうか・・・」
優希は変わらずこちらに真っ直ぐに近づいてきた。根が正直だからなのか、冷静さを欠いてしまっているからなのか先程まで以上に隙だらけだった。
「はあぁぁぁぁ!猪牙そッ、あぐっ!?」
再び放とうとしたその瞬間、優希の足を刀で突き刺した。これにすら気が付かない時点で俺とあいつの勝敗は決している。
「じゃあな」
「がッ!!?」
鞘で顎を思い切り叩き上げ、優希は遠くまで飛び、そして倒れた。




