第55話 貰ってばかりだ
「・・・葵」
無影が受けた連絡によってカケル達は急いで病院に足を運んだ。
カケル達は訪れて直ぐに黄昏荘の面々から葵が重体である事を聞かされ葵の病室に向かい、現在カケルを除いた仲間達は病院の廊下へと出ていた。
「何があったんだ」
「さぁね?私も現場にはいなかったからよく分からないんだけど、緑って子が言うには青って子のお兄さんが原因らしいわよ?」
「くそっ、厄介なことになったな」
何よりも厄介なのはカケルだ。あいつは自分にとって大切な人や救いたいと思った人に危害が加えられた時、その相手をどんな手を使ってでも徹底的に潰し回る奴だ。特に葵に関してはそれが著者だ。
中学の頃、あいつを敵に回したネオ・アストラルシティでも有数の能力研究技術を持っていたとある研究機関はそのせいで一夜で滅びる結果となった。
「それにしてもあんた達、本当に監獄にいたわけ?アテネちゃん、ぶっ倒れたわよ??」
「うっせぇよ。今丁度それどころじゃなくなってベッ!!」
「私にうっせぇよっていい度胸してんじゃない。ねぇ、ダイ?」
「ご、ごべんばざい・・・」
ミサの右ストレートが顔面に直撃し、そのまま壁にめり込んだ。
ダイ達の隣では九条が緑から詳しい事情を聞いていた。
「ご、ごめんなさい。ぼ、僕何も出来なくて・・・」
「落ち着けお前のせいじゃない。それにしても無影殿、その兄の名」
「うむ。緑君、その人は本当にクールと名乗ったのかね?」
「ぐすっ、は、はい・・・」
「クール?」
確か内閣補佐の名前がそうだった気がする。イリスちゃんの一件があった後、あの時出会った男が気になり調べたらそんな感じの名前だった。
「そいつが葵にあんな事して、青ちゃんを攫った野郎の名前か」
「落ち着けカケル」
「俺は落ち着いてるよ。これ以上ないくらいに冷静だ」
病室から出てきたカケルは普段では考えられない程、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
しかし、その瞳には確かに怨讐の炎を滾らせていることがカケルを知る者達には理解できた。
「直ぐにそいつのとこ行って落とし前つけさせようぜ?なんか企んでんだろ?」
「ほっほっ、落ちくんじゃッ」
「落ち着いていられるかよ」
無影がいつもの様に陽気な声でカケルを諫めようとした瞬間、カケルは病院の壁を殴りつけた。
「カケル」
「ちょ、カケル!?」
「・・・カケル君。今は落ち着くべき時じゃよ。今動き出しては相手の思う壺かも知れぬじゃろ?」
「知るか、だったら全部ぶち壊してやる」
こうなったカケルは止められる奴は殆どいない。それこそ葵なら止められるかも知れないが、当の本人の事でカケルの堪忍袋の緒が切れてしまっていやがる。
「ハァ、たっく・・・おいバカケル」
「あ?ぐッ!!」
院内の廊下でカケルは名前を呼ばれたと思い、振り向くとダイによって頬を殴られ、ミサが座っていた椅子に殴られ飛ばされた。
「いっつ、、何、しやがんだダイ!」
「落ち着けって今言われただろ?」
「だから俺はッ!」
「どこが落ち着いてんだよ。葵があんな風になってんだ、暴走する気持は分かる。だがな、無策で突っ込んでいったらお前も二の舞になるかも知れねぇだろ」
「んなこと知るか!」
「それを他でもない葵が望んじゃねーはずだぜ?」
ダイの言葉と自身を真っ直ぐと見つめる目にカケルは思わず顔を逸らしてしまった。
「だけどよ、、、」
「少し頭冷やせ。今のお前と行っても下手に怪我人増やすだけだ」
「・・・」
カケルは立ち上がり、外の空気を吸う為に屋上へと上がって行った。
ーー
屋上
ダイに殴られた頬に触れながらダイに言われた事を思い返していた。
確かに俺は冷静ではなかったのかも知れない。だが、葵が生死の境を彷徨っているのだ。冷静になれるわけがない。今もまだクールとかいう奴に対して憎悪の感情で塗り尽くされている。
「これじゃあ、あの時の二の舞にじゃねーか」
ダイが止めてくれなかったら俺は恐らく、直ぐにでもクールとかいう男を殺しにいっていた。
外はまだまだ暑いが、たまにくる心地よい風に当たりながら今の自分を葵が見たらなんて言うかなと考えながら、しばらくして俺はもう一度、葵の部屋へと訪れた。
彼女は現在、意識不明の重体で生命維持装置のチューブや機械が穴が開いた腹に入っており、医者が言うにはこんな状態で生きているのが不思議だという。
「ごめんな葵。肝心な時にいつもいてやらなくて・・・」
手を握りしめながら、未だ目を覚さない葵に聞こえるはずのない謝罪の言葉をただただ吐き続けた。
その時だった。
「か・・・ける?」
「え?」
突然、声をかけられ俺が顔を上げると先程まで意識不明となっていた葵が目を覚ましていた。
「葵!?ちょっと待ってろ直ぐ医者をッ??」
「まっ・・・て・・・」
俺は席を立ち、急いで医者を呼ぼうとした時だった、葵が手を握る力を強くして俺を引き留めた。
「は・・・話、たいこと・・・ある・・・の・・・」
「何だ?言ってみろ」
「ご・・・めんね?・・・か・・・ける・・・みたいに・・・かっこよく・・・たすけ・・・れると思った・・・んだけど・・・ダメだった」
葵は俺の手を握る力を強くして涙を流しながら俺にそう話してくれた。
葵が涙を流す姿は久方ぶりに見る。彼女の涙を見たのはあの日以来だ。
葵がいつも涙を流す時は自分の力で大切な人達を守れなかった時だ。どうやら青ちゃんは葵にとって本当に大切な友達だったんだろう。
俺は握る手に力を込めて笑顔で答えた。
「大丈夫だ。青ちゃんは俺が命に変えても助け出すよ。だからお前も諦めんなよ。必ず元気で帰ってくる約束だ」
「うん、」
安心したのか、葵は目を瞑って眠りについた。俺は握っていた手を放し立ち上がった。
「いつもお前に俺は貰ってばかりだな・・・」
いつのまにか憎悪で塗り尽くされていた心は晴れていた。
あの日、俺の手を握ってくれた彼女のようになる為に、そして何よりもそんな彼女にとっての大切な者達を守る為に俺は戦う。
扉を開けて廊下へ出た。
「よぉ、勿論仲間ハズレじゃないよな?」
「当たり前でしょダイ?そんな事したら私が殺すんだから」
「お前らいたんだ」
先程、来た時は姿が見えなかったダイとミサ、それに黄昏荘の面々がいつの間にかこの場に戻ってきていた。
「どこ行ってたんだよ」
「それがよ。何かめんどくさい事起きてるらしいんだわ」
「??」
ーー
お前が屋上に行った直ぐ後の話に何だけどよ。
「あ!、あの後一つ言わなきゃいけない事あるんですけど・・・」
あの緑色の服着てた緑ってガキが何か思い出したらしくてよ、手挙げたんだよ。
「何だ?」
「その・・・実はハヤテさんも入院にしていて」
「何とハヤテもか?そう言えば今朝から姿が見えんと思ったんじゃよ」
「せ、正確にはしていたの方が正しいかも知れないです・・・」
歯切れの悪い返答しかしなかったからよみんな不思議がってたんだがなとりあえず、ハヤテの病室まで案内してもらうことにしたんだよ。
「ほっほっほっ、ハヤテの奴逃げおったか」
「は、はい・・・実はいつの間にかいなくなってて、ハヤテさんも結構重症だった筈なんですけど」
「あら?これ何かしら?」
んで、病室に入って早速、ミサが手にした長方形に切られた白い紙を見つけたんだよ。
「それは、すまんのぉ女子よ、少しそれを見せてくれぬかのぉ?」
「いいわよ」
それをミサは無影に手渡した。
無影はその紙を訝しげに見ていたが、少ししたら何か納得したのか、いつもの陽気な表情に戻った。
「何だったのそれ?」
「ん?ほっほっほっ、まぁ敵さんも一枚岩ではないと言う事じゃ」
「はぁ?ねぇ、ダイ何このおじいさん」
「ん?知らね。カケルの知り合いだろ」
ーー
「って事があったんだよ」
「ハヤテも入院してたのかよ!?」
「らしいのぉ」
「あ、師匠。そのさっきはごめん・・・」
「よいよい。若い内はそれくらいの胆力があるくらいが丁度良いからのぉ」
師匠はいつものように笑顔でそう答えた。
そしてダイが話してくれた例の紙を取り出し、何かの呪文を唱え始めた。
「さて、では皆の衆行くとするかのぉ」
「「「どこにだよ!!」」」
「決まっておろ?殴り込みじゃよ」
ーー
その頃、ダイ達が来るより一足早くに病室を抜け出したハヤテはテラステラに足を運び、総理と十二司支達が使う会議室まで足を運んでいた。
「ここか」
そして手に持っていた、一枚の紙を使って魔法陣を作り出し、ハヤテはその場から姿を消した。




