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第53話 幻象起還

 「そろそろ来る頃だと思っていたぞ」

 「兄さんもうやめて」

 「ばか、野郎、何で来た!」


 全身から血を流して倒れているハヤテを見て青はクールを見る目つきをより強めた。


 「やめて、か・・・残念だがそれは出来ない」

 「やめてくれないなら、今ここで兄さんを私が倒す!」

 「・・・」


 青は両手をクールに向けた。

 あいつ()は確か力は上手く制御出来ていない筈だ。それなのに何をするつもりなんだ?


 「やめておけ。お前の力は強すぎる、下手をすればこの男まで巻き込む事になるぞ?」

 「ッ、」

 「わかったのならこちらは来なさい」


 再び手を差し伸べるクールに怯えながらも確かな意思を持って青はその手を取るためではなく、クールをこの手で倒す為に近づいた。


 「愚かな妹だ・・・」

 「うわぁぁぁ!!!」


 ハヤテはすぐさまクールから距離を出来るだけ取るために後ろへと下がった。

 そして青はクールにその両手を触れ、能力を発動した。

 彼女が持つnoiseは崩壊。視認した部分や場所を膨れ上がる様に肥大化させた後にそれらを跡形もなく消す力であり、その気であれば概念や生命のルールですら破壊する事ができる強大な力。


 「そう。お前の力は発動してさえすれば凶悪な力だ。ただし、お前自身が視認する事が絶対条件だ」

 「きゃっ!?」

 「言い返せば視認してない事には力は使えない」


 クールは青の目の前で小さな光の塊を作り出した。それは青の目を閉じさせるのには充分な発光だった。


 「自分の能力の理解力の低さが敗因だ。だから簡単に騙される」

 「あっ!?」

 「青!」


 目をやられた青は急いで後ろへと下がろうとしたが、クールはそんな青の首を絞め壁に叩きつけ気絶させた。


 「かなり時間を喰ってしまったな」

 「そいつを放せ!」


 傷だらけの体に鞭を打ち立ち上がり、青を助ける為にハヤテはクールに刀を振りかざした。

 しかし、クールに刺さるどころか、いつの間にか刃のみクールの手元にあった。

 

 「お前はもういい」

 

 興味を失ったのかクールはハヤテに見向きもせず、左胸にその刃を突き刺した。


 「ッ、く、そ・・・」

 「さて、行こうか」


 指を鳴らし、クールは正面の空間を歪ませ転移魔法を発動させた。

 

 「ま、てよ!まだだ!」

 「まったく・・・空間固定、認識阻害、結界領域設定、」


 今にも意識が飛びそうになる中、ハヤテは必死にクールの足に喰らい付いた。

 クールは呆れた様子を見せながらハヤテを完全に消し炭にする為の準備を行い始めた。


 「条件達成、空間転移発令」


 クールが一言そう言うと周囲の景色は一瞬にして、薄い緑色のような景色に様変わりした。


 「そのしぶとさにめんじて、お前にはとっておきの魔法を使ってやる。喜べ」

 

 クールの足元に巨大な魔法陣が現れ、それが足元から上空へと上がり、こちらに魔法陣が向いた。


 「(いにしえ)より響き渡る神秘の声よ・刹那に映る無限の残響を織りなせ・灰色の霧を切り裂き滅びを与えし龍よ・万象の彼方より来たれ・我が前に顕現せよ・此処に招き・輪廻を断ち・力を与えよ――

「幻象起還:ファフニール」」

 「ハハっ、なんだよ、それ」


 ハヤテの目の前にはあり得ない、いやあり得てはいけない光景が広がった。

 クールが何かを唱えたかと思ったら浮かび上がっていた魔法陣から黒いドラゴンの頭部がその姿を現した。

 そんな異常な光景に思わずハヤテは乾いた笑いを浮かべてしまった。


 「神話上で伝えられる伝説上の存在を現代に一部、召喚する高等魔法だ。まぁ、お前に言ったところで理解出来んだろうがな」

 「グゥゥゥゥ・・・」


 黒いドラゴンは大きな唸り声を上げて、今にもこちらを襲い掛かろうとしていた。

 クールは先ほども出していた転送魔法を再び発動させ、ファフニールに止めを刺す様に命令した。


 「さて、今度こそさよならだ。やれ」

 「ガァァァァァァァァ!!!」


 大きな声で叫ぶ黒いドラゴンはその口から灼熱の炎を口から吐き出した。

 既に意識は殆どなく、体もいうことを聞かなかった俺は放たれた灼熱の炎によって、抵抗することなくこの身を燃やされた。

 そしてその時点で意識は途切れた。


 ーー


 「おかえりなさいませ。随分と遅かったですメェ」


 転移魔法を使い、クールはテラステラの元へと帰還した。帰還して直ぐにクールは執事に青を渡し、服を着替え始めた。


 「思わぬ邪魔が入った。そんな事よりも青をあの女と同じ牢に閉じ込めておけ」

 「お部屋を一応ご用意致しましたがよろしいので?」

 「抜け出す可能性がある。牢なら見張りを命じたピエールがいるだろう」

 「あの方でしたら少し前に用事があると言って出て行かれましたよ?」

 「・・・まぁいい。暇なやつに見張りをさせとけ」

 「かしこまりました」


 青を執事に任せ、クールは直ぐに身支度を整え宗一郎や他の十二司支がいる会議室へと足を運んだ。

 

 「失礼します」

 「クール君か」

 「はい。遅くなってしまい申し訳ございません。少々、用事がありまして」


 クールは直ぐに自身の定位置でもある宗一郎の斜め後ろへと足を運んだ。

 何人かの十二司支は来てはいなかったが、牛次による件の報告は既に始まっていた。


 「このリストにあった奴らは全て警察を動かし捕まえた。一人を除いてな」

 「その一人というのは?」

 「無影に決まっておるだろう!」


 牛次はクールが作成した、リスト表を机に叩き出し無影のページを開いた。


 「今回の天辰殺害、それが単独で可能なのはこの男しかおらん!だが、逃してしまった」

 「やはりか。流石は第三次世界大戦の折に世界中で数多くの名のある戦士達を手にかけた伝説の暗殺者というわけだな。お前程度じゃ話にもならなかったか」

 「貴様!今この俺に向かって何と言った!!」


 クールの言葉に牛次は憤りを露わにして近づき、胸ぐらを掴み立ち上がらせた。


 「おいおい、仮にも日本の政治を取り仕切る一人が暴力で話をつける気か?」

 「貴様のその減らず口が無くなるのなら喜んでそうしてやるよ」

 「だから日本は世界から取り残されるんだよ」

 「貴様〜!」

 「落ち着くんだ二人とも」


 クールと牛次、一触即発状態の二人を宗一郎は落ち着かせるために声をかけた。


 「しかし総理!この若造は我らがしてきた努力を無駄だと言ったのですぞ!」

 「その通りだ。プライドだけの男かと思ったが存外話がわかるじゃないか?」

 「きさッ!?ぐっぅぅ、な、何のつもりだ貴様!」


 牛次は今度こそクールを殴ろうと拳を構えた時だった。背後から背中を着物を着た女性によって斬りつけられた。


 「別に?うちは彼の命令通りに動いただけどすえ?」

 「ぐっ、」

 「牛次!クール君どうゆうつもりだ!?」


 宗一郎は牛次の側に駆け寄り、クールを睨みつけた。

 クールはただ何も言うことなく、この日の為に自身が集めた十二司支達に計画の実行の合図を送った。


 「クール君!」

 「はぁ……宗一郎さん。俺は貴方に感謝していますし、一定の評価はしています。だが、貴方では国をまとめるどころか、世界を相手に立ち回れない。だからこそ、この俺がこれからの日本を率いる」

 「何を、そんなふざけた事がまかり通ると思っているのか!!!」

 「通らせるんだよ。それにあんたは俺に逆らう事は出来ない」


 クールは指を鳴らし、魔法でとある牢屋の姿を映しだした。そこには二人の少女の姿が映し出されていた。

 宗一郎はその映像を見て目を見張った。二人のうちの一人は誰か分からなかったが、もう一人は宗一郎は見間違える筈がない人物だった。


 「まさか・・・イリスか!?、クール君!!何故ここに彼女が!?」


 映像に映ったのは紛れもなく、危険が及ばない様にと、海外に移住させた筈の娘だった。

 かつて一度、日本であった事件後に留学と称して海外に行かせた筈の娘が今映像に映し出されていた。

 イリスの名を叫ぼうとした瞬間、クールは映像を切って宗一郎に今一度、問いただした。


 「さて、私の言う事は聞いてくれますね?」

 「・・・何が望みだ」

 「簡単ですよ。貴方は今まで通りにしていればいい。だが、これからの政治は全て俺が決める。それだけですよ」

 「わかった」

 「懸命なご判断です。せっかくだ、貴方には見せてあげましょうか」


 そう言ったクールは会議室の円卓の中央にまで歩き、地面に触れ何かの呪文を唱え出した。

 すると中央に巨大な魔法陣が現れ、他の十二司支達も皆、その魔法陣の上に乗りだした。全員がその上に乗った事を確認したクールは最後にもう一度、呪文を唱えた。


 「これから見せるのはこの世界の命運を握る我々の計画の要です。魔法陣からは出ない様にお願いしますね?」


 魔法陣が光だし、会議室中を照らしたかと思えば、宗一郎と牛次の二人は気がついたら見覚えのない場所に立っていた。


 ーー

 「なぁダイ。俺たちやっぱり何か忘れてる様な気が済んだよ」

 「あぁ?期末のことか?」

 「あ、それだ・・・ってやべぇじゃん!俺おわりじゃんか!!最悪だぁぁ、俺の夏休みがぁぁぁぁ!」


 あいも変わらずカケルとダイの二人は監獄の牢屋でのんびりと暮らしていた。


 「まぁ落ち着けよ。下手すりゃ俺達は夏休み期間中ずっとここにいる事になるかも知れねぇんだ」

 「確かになら別にテストの事なんかいっか」

 「だろ?今はこの素敵な監獄ライフを楽しもうぜ?」

 「だな!流石だぜダッイィィィィィィ!!?」


 その時だった、二人がいる牢屋の外側の壁が突然、爆発したのだった。

 カケルとダイの二人はそこに現た人物に目を丸くして驚いた。


 「な、何であんたらがここに??」

 「おいちょっと待て、そっちの爺さんは誰だよ?」

 「ふぅー。久しいな二人とも出所の時間だ」

 「ほっほっほっ。カケル君、ちと力を貸してくれないかのう」

 「九条!それに師匠ぉ!?」

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