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第52話 壊れた日常

 現れた時から私のnoiseが強い警鈴を鳴らしていた。それは近づいてくる程に強くなっていった。

 そして緑が前に立った時、それはピークに達し、感情だけで人を殺せると思わせるほどの激しい怒りがあの男を襲っていた。

 そんな状況の中、そんな感情を発しているのがあの青の兄である何て信じることが出来なくて目を疑った。


 「さて、そろそろ行こうか青?」


 まずい。青の兄が何をしようとしているのかは分からないが、青の表情と感情からしてロクでもない事だということは分かる。

 今この状況で彼が危険だと分かった上で動けるのは私だけだ。この二人を逃すくらいの時間稼ぎなら私でも何とかできる。

 そう思い前にでて助け出そうとしたが、結果は腹に穴を開けられてこのザマだ。

 青が怒り狂って何かを叫ぼうとしたが、突然現れた縄が青を縛り付けて口を塞いだため分からなかった。


 「ふっー!ふっー!」

 「青、お前はいつから兄である俺に牙を向けるようになったんだ?そこで大人しくしていろ。こうなったならばこの少年も殺す」

 「ひ、ひっ!」


 意識が薄れゆく中、私が最後に目にしたのはクールの背後から刀を持ち現れたハヤテの姿だった。


 ーー


 青達と別れた後、電車に乗る寸前だった。何か感じたことのない気を少し遠くの方から感じ、気になって電車に乗るのをやめてその方向まで足を運ぶ事にした。

 少し戻って来た辺りでだった、緑の大きな声が聞こえ、少し急いで来てみると葵の腹部に穴が開けられている場面を目にした。

 何が起きたのか全く分からなかったが、一つだけ確かなことがあった。三人の前に立つ、男が葵を殺ったという事だ。

 刀を抜き背後から奇襲をかけるようにその男、目掛けて刀を振り落とした。


 「奇襲ならもう少し上手くやれ、そこの女の目線でバレバレだったぞ」

 

 刀は男の背中を斬る筈だった。しかし、そんな事は起きず、六角形のバリアみたいなものに塞がれた。


 「ハヤテ!」

 「お前・・・誰だ!」

 「そこの聞き分けがない妹の兄だよ」

 「ぐっ!」


 男が顔だけ振り返ると同時に地面から勢いよく水が飛んで来た。

 その水は電柱をまるで豆腐なのかと疑わせるほど、簡単に斬り裂き電柱はこちらに目掛けて倒れ込んだ。

 

 「あっぶね・・・」


 もし今の一撃をこの身で喰らっていたのならば恐らく、真っ二つにされて死んでいた。

 何者なのかは全く分からなかったが、目の前の相手がnoiseを持つ相手だという事はわかった。

 

 「お前も青のお友達か?随分と物騒な男だな」

 「青?・・・妹・・・青の兄か?」

 「さっきそう自己紹介したが?」


 女二人いるのに分かるわけがないだろとツッコミたいが、こいつに隙を見せるわけにはいかないと本能が訴えかけていた。


 「・・・いい警戒心だ。それに腕もたつ。どうだ、お前こちら側につかないか?」

 「こちらがわ?」

 「ああ、その通りだ。青の力を使って世界中の争いをなくす。正義の行いだ」

 「興味ない。青、緑、葵を連れてできるだけ離れろ」

 「で、でも」

 「お前らがいると全力が出せないんだよ!葵だってまだ間に合う早く行け!」

 「くっ!青さん!行きますよ!葵さんは僕がおんぶしていきます!」


 緑は葵を抱きかかえ、青の手を引き走って逃げ出した。

 男はそれを見て特に何かをする訳ではなく、ただジッとそれを眺めていた。邪魔をするつもりだと思ったが、何が目的なんだ?


 「全く、ガキは困る」

 「追わないのか?」

 「そんなことより今はお前だ。どうだ?あいつの力とこのネオ・アストラルシティがあれば実現する」

 

 この街を使う?・・・この街と青で何ができると言うんだ?彼女の力の事はわかる、赤服女の時の腕が破裂するように砕けたアレが関係しているのだろう。

 しかし、何故街が必要なのかがわからなかった。時間稼ぎの意味も込めて男に質問してみる事にした。


 「何でこの街なんだ?」

 「時間稼ぎか、まぁいいだろう。答えはアレだ」


 男は指を上にあげた。いや違う、あれは少し遠くにある電磁塔を指していた。


 「アレはこの街の全エネルギーを作り出している日本最大の建造物といって変わりない。自然エネルギーを電磁塔が吸収し、エネルギーを作り街に流す。素晴らしいだろ?」

 「自然、エネルギー?風力発電とかみたいな感じか?」

 「そうか、そう言えばそこら辺の構造は宗一郎が秘匿していたな」


 宗一郎?・・・今の日本の総理大臣が何故ここで出てくる?

 そして今の説明が本当ならば、何故それをこの男は知っているんだ?いや待てそもそもこの男、何処かで見たことがある。


 「お前、総理補佐の男か?確か、天辰さんと同じ十二司支の?」

 「・・・ああそうかお前、"黒武者"の中身か」

 「何でお前がそれを知っている?」


 アレの事は師匠とカケル、天辰さんしかこの街で知っている人はいない筈だ。

 それなのに何でこの男がそれを知っている?


 「不思議そうな顔だな。この街は既に俺の統治下にある。俺が知らない事は何一つとしてないんだよ」

 「なら、余計に斬らないとダメらしいな」

 「減点だよ黒武者君」


 男が指を鳴らした瞬間、全身から大量の血が噴き出し地に倒れ伏した。

 何が起きたのか全く分からなかったが手を見ると斬り傷の様なものがついており、頬などに触れて確認しても同じだった。


 「霧傷、大気中の水を刃の霧へと変化させる」

 「お前もnoiseか?」

 「ストレスやトラウマから発生される力と生まれ持った才能であるこの力を一緒にするな。これは魔法だよ」


 魔法。今この男は確かにそう言った。この場にカケルが居たのならば、爆笑してバカにするであろうことをこの男は表情を変える事なく淡々と話した。


 「日本に住むお前達にとっては縁遠い物だろうな」

 「ぐっ、」

 「立ち上がったか流石だな。天辰はこれで終わったんだがな、やはり若さか?」


 ・・・今あの男はなんて言った?天辰さんがこれで終わった?


 「お前が天辰さんを殺したのか?」

 「察しが悪いな。事実を口にしてやらないと分からないのか?」


 そうか。この男が師匠にあの様な顔をさせた男だったのか、青の兄だと思い手足を斬り落とすだけに済まそうとは思っていたが、事情がどうやら変わった。


 「殺す」

 「減点だ。初めからそのつもりで来い」


 ハヤテは地面を蹴り、壁や倒れた電柱、家などを蹴り続けながら、男の周囲を猛スピードで飛び回った。

 そして男にその間、何度も斬りかかった。しかし、それらは全て先ほどの様な六角形のバリアによって全て止められた。


 「邪魔だなそれ」

 「オート式だ。反応できないほど速くやれば簡単に攻略できる」


 男は特に何も感じていないのか、汗一つ垂らす事なく黙ってその場で立っているだけだった。

 ハヤテは一度、距離をとって男の前に立ち止まった。

 先程の霧傷を警戒しながらも自身の一番得意とする抜刀術で勝負を決めるためだ。

 一呼吸吸い、バリアの反応速度を超えて男を確実に殺すために動き出した。


 「なるほど、一点集中か」


 男の言う通りだ、しかしそれだけでは通じない事は理解している。オートでバリアを張れるならマニュアルでする事も可能な筈だ。ならっ!

 ハヤテがクールを斬るのに一番効率的な場所で止まり斬りかかろうとした瞬間だった。

 ハヤテはクールの前からその姿を消した。


 「・・・驚いたな。頭に血が昇っていると思っていたよ」


 姿を消したハヤテはクールの背後に回り込み、手にした刀で胸を刺し貫いていた。

 確かに天辰が死んだ事はハヤテにとってもショックだった。しかし、天辰と出会ったのはつい最近だ。刀の修行にはたまに付き合って貰っていたが、関わりはそれだけだ。

 言ってしまえば冷静さを欠くほどの怒りはなかった。


 「俺を殺せば青は悲しむぞ」

 「ああ、分かってる。覚悟はできている」

 「そうか・・・だが減点だよハヤテ」

 「え?、がっ!!!」

 

 確実に刺した筈だった。しかし、男の姿は目の前からなくなっており、気がついた時には背後から何本の槍で逆に刺し貫かれていた。


 「人殺しを生業としていた男がまさか幻影にすら気がつかないとはな?」


 背後から何事もなかったかのように歩いてきた男は倒れる俺の前に立って見上げてきた。


 「惜しいなハヤテ。実に惜しいよ。それだけの腕を持ちながらこの程度だととはな」


 自分でも全くもってそう思う。勝手の自分ならば気がついたであろう事にまさかこんな簡単に引っかかるとは。

 そして何よりもこの男は手を抜いている。


 「さて、これ以上邪魔はされたくないからな。さよならだハヤテ」


 男は手をこちらに向け、手のひらでエネルギー玉の様なものを作り出した。

 これを避ける事は今の俺では不可能だ。だがしかし、この男を倒す事はできなかったのは悔しいが、時間稼ぎは充分に出来た筈だ。

 目を瞑り、最後の一撃が放たれようとした時だった。


 「兄さんやめて!!」

 「ッ?!」


 瞑った目を開き、上体だけ起こして後ろを振り返るとそこには逃げた筈であった青が立っていた。

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