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第46話 罪の償い方

 青が俺の発言に驚愕していたがそれも無理はない。赤服女と最初に会った場所は暗がりでガタイが良い事くらいしかわから無かったはずだ。

 この手術室も明かりは申し訳程度しかついておらずギリギリ皆んながどこにいるかを確認できる程度だ。


 「は、ハヤテどうゆう事?」

 「ふっーふっー」

 「近くによって分かった。ツギハギだらけの顔だったから性別がうまく判断できなかったが、明らかにお前のその発達の仕方は男性にある傾向だ」


 勿論、女性という可能性だって十分にあり得る。ただ女性だと言うのなら納得いかない点が色々あった。

 そして男性であれば一連の事件を起こしている訳もあの姿をみれば分かるし、俺の皮膚がなくなった事にも説明がつく。


 「女性に憧れたか」

 「ッ!?ふっーふっー」

 「その髪も服も女性になりたいと言うお前の願望が反映された影響だな?それに女性ばかり狙うのも憧れからくる嫉妬だ。だからツギハギなんだろ?」

 「どうゆう」

 「手術台を見ろ」


 青はハヤテが指差した手術台に目をやった。そこには皮膚だけが無くなっている女性らしき肉片が手錠を付けられて寝かされていた。


 「後これだ」

 「その腕!?」

 「ふっーふっー」

 「これは明らかにnoiseの力だ。この力を使って同じ事をそこの台にいる奴にもやったんだろ?そしてそれをお前は自分に縫いつけた違うか?」

 「ふっー!ふっー!」


 ずっと俯いてその場に立ち尽くしていた赤服女は表情こそ長い髪に隠れて読めないが、明らかに動揺はしていた。


 「じゃ、じゃあこの人と同じ事を私達にも?」

 「恐らくな。優希を突き刺したのだって男だったからだろ?俺の場合は咄嗟のことだったからついやってしまったってところか?」

 「う、うわぁぁぁぁ!!!」


 俯いていた赤服女は突然、奇声を上げながら天井に向かって叫び出した。


 「黙れ!黙れ!黙れぇぇぇぇぇ!お前達に何がわかるの?この私の何が分かるって言うのよ!!?」

 「知るか」

 「可愛い物を買えば皆んなにバカにされ!おしゃれな服を着て学校に行けば皆んなから軽蔑の目で見られ、先生からはキモがられる!それがどんな惨めなのか分かるん」

 「黙れ。お前の気持ちなんて興味はない。それ以上口は開くな楽にしてやる」

 「は、ハヤテ!?」


 優希の方も時間の問題だ。今ここで説得なんてしている時間はない。

 殺さないようにやるのもあの異常な力の前では難しい。ならば、やはり殺すしかない。


 「怖いなら目を瞑ってろ」

 「な、何するつもりなのハヤテ!?」

 「あいつを殺す」

 「だ、ダメだよ!」

 「優希も重傷だ!あいつに手加減なんてしていたら助からないだろ!」

 「そ、それでもハヤテが殺すなんてダメだよ!」

 「う、動くな!う、動いたらこの女の子の皮膚を剥がしてやる!」


 ハヤテと青が言い合いをしている中、赤服女は捕らえていた女の子の一人を人質とする為に引っ張り上げ、包丁を向けた。


 「こ、この女がどうなってもいいの?あ、あなたのご明察通りよ!わ、私のnoiseは剥ぐ。人間の皮膚ならばあなたにやったように一瞬で剥ぐことができるわ!理解したかしら?この女もそうされたくなかったら、そ、そこを退きなさい!」

 「やれよ」

 「は?」


 何故、わざわざ顔も名前も知らない人物を人質にしたんだろうか?バカなのか?

 俺はどっかの誰かの様に他人まで命をかけて助けようとする程、お人好しになったつもりはない。


 「殺したいならやれ。その隙にお前を殺す」

 「ハヤテ!」

 「黙ってろ。自分で救う力がないなら口を出すな」


 綺麗事や理想論・・・それらを掲げ、人を助け出そうとするのは結構だ。実際、俺もそれに助けられたと思う。 

 ただ、それを押し付けられる筋合いはない。


 「救いたいならお前が救え。俺にお前の理想を押し付けるな」

 「ハヤテ・・・」


 俺は刀を抜き、赤服女まで走り出した。赤服女は怯えながら何かを叫んでいたが、そんな事既にどうでもいい。殺すべき人を殺すだけだ。そこには多少の犠牲だってあるものだ。

 かつてのように心を凍つかせ、俺は最悪人質ごと首を切り裂くために横に刀を振るった。

 だが次の瞬間、人質にされていた女性が一瞬目をさた。


 「んっ、・・・ゆう、き?」

 「ッ!!」


 優希、確かに今赤服女に捕えられている女性は目を覚ましてそう答えた。

 ほんの一瞬、刀を握る力が緩み、凍てつかせた心は温かさを取り戻した。


 「まさか?ハヤテ!ダメ!」

 「ッ!わかってる!」


 人質ごと斬り殺そうとまで考えて振るっていた刀を上に斬り上げ、寸前のところで止める事ができた。


 「う、運命が私を味方した!」


 そんな隙だらけの所を狙わない馬鹿はいない。赤服女は手をこちらへと向け、俺に触れそうと前に出した。斬り上げながらも後ろへと飛びやったが赤服女も前のめりになってこちらに向かってきており、こちらが触れられるのは確実だった。


 「バイバ〜〜〜イ!」

 「くっ!!」

 「ハヤテ!」


 触れられる。あの時、腕の皮膚を一瞬で持っていったその力は恐らく次はこちらの全てを持っていくだろうと直感で理解できた。

 これが俺への報いなのだろうと思い既に抵抗する意思さえ湧かなかった。代わりに走馬灯が脳裏の隅々までに広がっていた。

 ハヤテが全てを諦めかけている時だった。


 「ダメぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 「あぇ・・・?」


 あいつ()が叫んだと思った時、それと同時に赤服女が俺に触れようとしていた手が無くなっていた。

 いやヒビ割れて崩れていったという表現の方が正しかったかもしれない。


 「え・・・あれ・・・私の手・・・あれぇ??」


 赤服女にとっても想定外だったのだろう。自身の無くなった手を何度も何度も見ていた。


 「あれっ!あれっ!あれっ!あれ、あれ、あれあれあれあれあれあれあぁぁぁぁぁぁぁぁ手がぁぁぁぁぁぁぁ!!!私の手がぁぁぁぁぁ!!!」


 何を狂ったのか、手がなくなった方を何度も顔にぶつけながら今度は叫び出した。

 

 「あぁぁぁ・・・お、前かぁ?」


 ようやく落ち着いたのか赤服女は青の方に目を向けて、そう言い放った。

 当のあいつ()は赤服女の事が目に入ってないのか、自分の両手を見ながら今までに見たことのないような表情で目を見開き、震えていた。


 「何で・・・だって、そんな違う・・・。私・・・じゃない、違う、そんなだって、あの時に・・・兄さんが、だって、そんな嫌・・・こんな力嫌だよ・・・」

 「何ぶつぶつ言ってるのぉ?」


 俺があいつ()に気を取られている隙に、赤服女はあいつ()の目の前まで来て、座り込みながら震えている青を上から見下した。


 「あなたね?私の、私の、私なぁぉぉぉぉぉ腕ぇぇぇぇこんなのにしたのはぁぁぁぁぁぁ!!?」


 怒り狂っている赤服女はそのまま叫びながら青を苦しめながら殺す為に残っていた腕で青に触れようとした。


 「しまっ!!?」

 「おーーーしーーーまーーーイッッッ!!?」


 しかしそれは起き上がった優希によって止められ、赤服女は顔を蹴り飛ばされ壁に埋め込まれた。


 「がはっ!!?」

 「・・・無事か?」

 「違う、嫌・・・え?あっ・・・ご、ごめんう、うん・・・」


 優希に肩を叩かれ正気に戻ったのか青はびくりとして立ち上がった。

 俺は二人の側まで足を運び、致命傷だった筈のこいつ(優希)が何故か起き上がっている理由を聞いた。


 「・・・簡単だ。俺のnoiseは身体強化だ。当然、自己治癒能力も高まる」

 「そうゆうことか」


 思えばあの日、闘ったあの男もそうだったのかもしれない。ボロボロになりながらも立ち上がれたのは身体強化のnoiseのおかげだったのかもしれない。


 「そんな事より姉さん!」


 優希は走って姉の元までいき、抱き抱えて何度も姉さんと呼び続けた。


 「んっ・・・あれ?優ちゃん?何でこんなところに?」

 「良かった姉さん・・・良かった」


 優希が姉を抱きしめているのを横目に俺は壁に埋まっている赤服女の所まで足を運び、喉に刀を突きつけた。


 「チェックメイトだ。どうする?ここで俺に殺されるか、大人しく警察に投降するか。今ここでお前が決めろ。口以外を動かしたらその部分を斬る」

 「あ・・・うっ・・・」

 「口以外動かすなと言っただろ」

 「あ、あぁぁぁぁぁ!!!」

 「「!?」」


 ほんの一瞬、赤服女は壁から無意識に出ようとして、指を動かした。こちらに何かをする意思は全く感じ取れなかったが、最初にこちらの言ったことを信じさせるにもいい機会だ。

 そう思ったから動かした指と手首をほぼ同時に斬った。


 「ハヤテ?何してるの!?」

 「黙って見てろ。今言った筈だ動かすなとな」

 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もう動かさないからごめんめッあがっ」

 「俺は二択を選ばせただけだ。謝罪の言葉はいらない」


 何度も謝る口に刀を突っ込み、その謝罪を静止させた。本来であれば、その舌ごと斬り裂いていたがまだ二択を選んでないのでそれは辞めてやった。


 「ハヤテやめてもうその人は、」

 「分かってる」

 

 こちらを心配したのか、それとも赤服女に同情したのか青は心配そうな声を上げながら背中に手を当ててきた。


 「とおっ、とうこうしはふ・・・らからもう、やめて・・・」

 「お前は辞めたのか?」

 「ハヤテダメだよ」

 「この人達が何度も助けを求めてた筈だ」

 「ハヤテもう辞めて、ダメだよこれ以上は」

 「やめてぇぇ」


 かつて、多くの人を手にかけてきた。命乞いをする人も助けを求める人も例外なくだ。

 こちら側(人殺し)にいる人達は皆、助ける良心を持ってない。かつての自分を見ている様で腹が立った。

 今ここで殺すべきなのではないのかと頭に何度もよぎった。


 「ハヤテッ!」


 だが、その思考は前に立ち両手で俺の頬を両側から叩いてきた青によって止められた。


 「ダメだよ・・・ハヤテ。ハヤテが手を汚すことないんだよ?それにこの人だってまだ、やり直せるかもしれないし、ここで殺すのはダメだよ・・・ハヤテが人殺しになるなんてやだよぉ・・・」


 涙目でこちらを見ながら青はそう訴えかけてきた。頭に昇っていた血がすっーと引いていくのが感じ取れた。そしてまた、脳裏にあの男・・・カケルが師匠に伝言として伝えてくれた言葉を思い出した。

 刀を仕舞い俺は青の手をそっとどけ、赤服女の前に立った。


 「お前が本当に罪を償う気があるのなら、殺めた以上の人の命を救え・・・それが償いになる」


 あの日、伝えられた言葉を伝え俺達は赤服女と共に廃病院を後にした。

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