第43話 もう一人の身体強化を持つ男
放課後、ハヤテ達は教室で葵に昨晩の事を話した。
「と言うわけなの。葵ちゃん何か知らない?」
「全く知らない」
「そうかぁー」
四人で机を囲んで弁当を食べながら赤服女と優希の事を話しているハヤテ達だったが、突然ハヤテが席を立ち廊下に出た。
「ハヤテ?」
「・・・悪い少し用事ができた」
「え?ちょ、ハヤテ!?」
そう言ってハヤテは廊下を走り姿を消した。
ーー
朝から違和感はあった。いや正確に言うのならば家を出た後からだ。
家を出てから今この時までずっと誰かに監視されているような気分に陥っていた。
最初は父が自分を殺す為に誰か刺客を送りつけてきたのではないのかとも考えていたがそれならば俺は気がつかない間に死んでいる。
階段を上がり屋上に続く扉を開け屋上に出ると真ん中で黒いローブをきた人物が一人そこに立っていた。
「お前かずっと俺を・・・いや俺たちを監視してたのは」
「・・・」
俺の問いに対してローブをきた人物は何も答えなかった。代わりに拳を構えてきた。
ローブを着ていることから性別は分からなかったが、拳の形や構え方、息づかいから男性だと言うことはわかった。
「何のつもりだ」
「試させてもらう・・・」
その一言が始まりだった。
男は一瞬でこちらまで距離を詰め拳で殴りつけてきた。その拳を辛うじて交わした俺はそのまま相手から距離を取るようにしてフェンスまで下がった。
見ると男の拳によって屋上に上がってきた扉は破壊されており男の力が尋常ではない事が分かった。
「noiseか」
それに対しても男は何も答える事なくそのままこちらに向けて再び攻撃を仕掛けてきた。
「くっ!?」
男の拳の拳の威力は充分に捌ける程度だったが、問題はその拳を繰り出す速さだった。
まるで無数に手があるかのように錯覚されるほど早く出されるその拳は確実にこちらを追い詰めていた。
(チッ、せめて刀があれば!)
ハヤテ自身、刀以外での戦闘もある程度はできるがそれでもそれらが本領の相手には何十歩も劣る。
今朝、刀を家に置いてきてしまった事を後悔しながら拳を捌き続けていると背中にフェンスの感触を感じた。
「なっ、しまっ!」
「ハッ!」
「がはっ!!!」
男の発勁が自身の腹部に直撃し、ハヤテはそのままフェンスを突き破って学校の屋上からそのまま落下していった。
「この程度か・・・」
ローブの男は屋上から下に落ちたハヤテを見上げながら落胆の言葉を発した。
「ぐっ、あいつッ・・・何者、なんだ・・・」
息がしづらいだけで肋骨や肺などに特に支障がない事を確認した。幸いにも落ちた先がゴミ捨て場であった事からゴミ袋がクッションになり多少の怪我だけで済んでるようで直ぐに立ち上がれた。
しかし男がその隙を待つわけもなくハヤテの頭上には既に屋上から飛び降りた男が迫っていた。
「くっ!」
ハヤテは二転、三転しながら転がりグラウンドへ転がり出て、男もそれに続いてグランドへ足を運んだ。
「お前何者なんだ?」
「答える義理も価値もお前にはない。教えて欲しいのなら実力を示せ!」
そう言った男は突然ハヤテの視界から姿を消し、ハヤテの背後に回っていた。
そのまま男はハヤテに向かって強烈な蹴りを叩き込み、ハヤテは後ろに飛びのき両手で防御の姿勢をとりそのままグラウンドの端まで飛ばされた。
「くそ、あいつと同じ身体強化か!」
「何だ既に闘ったことがあるのか正解だよ」
「ッ!?がっ!!!」
ハヤテが起き上がり前を向いた直後、既にハヤテの横に来ていた男によって更にもう一撃、蹴りを入れられたハヤテは守る暇なくモロにその一撃を喰らった。
「ゲホッゲホッ!」
口の中が血の味がし、今度こそ肋骨は何本もやられていた。掠れる目であの男を睨みつけた。
まるであの日出会った男ともう一度、闘っている様な感覚にも陥っており、ほんの少しだが心が躍ってもいた。
「立て、この程度でやられる訳がないだろ」
目の前の男に言われ肋骨を押さえながら立ち上がったが状況は最悪だ。
こちらは既に満身創痍なのに対して、男は未だピンピンしている。更にこちらは得意な得物も持ち合わせていないときた。
本来ならばこんな最悪な状況とっとと逃げるのだが、俺の名前を知っていることから恐らくあの男はこちらの情報を把握している筈だ。
ならば、当然逃げれば次の標的となるのはあいつらになる。
「そんなの逃げれるわけないだろ」
どのみち、逃げる選択を取ったとしてもあの速さだ逃げ切ることは不可能だろう。
完全な手詰まりの中、ハヤテが諦めかけた時だった。
「おーい!ハヤテェー!!!おーい!」
「ゲホッ、青?」
後ろを振り返ると校舎の窓から手を振るあいつの姿が目に入った。更によく見ると他の校舎の窓からも何人もの生徒がこちらを見ていた。
「目立ちすぎたか・・・」
「ここまで派手にやってるんだ、目立つに決まってんだろ!」
「ハヤテ何してんのー!」
あいつは変わらずこちらに声をかけ続けていた。いつもなら状況をよく見ろと怒鳴るところだが今回ばかりはあいつに感謝する事になりそうだ。
「青!」
「なーにー!!」
「教室に置いてある竹刀袋をそこから投げてくれ!急げ!!」
「は、はい!」
ハヤテの気迫に気圧され青は急いで教室のハヤテの席にまで走り机の横にかけてあった竹刀袋を手に持った。
「うわっ、これ重っ!?何入ってるの???」
明らかに竹刀ではない重さなのが気にはなったが、青は急いで窓際まで戻りハヤテに声をかけた。
「ハヤテ!これ!」
「助かる投げてくれ!!!」
「え?え?」
「くっ!?いいから!」
「は、はい!」
青はハヤテに言われるまま竹刀袋をそのまま投げつけた。
「よし」
「行かせると思うか?」
振り向き刀まで走ろうとしたが男は当然、そこに立ち塞がった。
竹刀袋まで数百メートル、足の速さには自信がある方だがそれ以上に身体強化のnoiseを持つあの男は速い。
「かけっこでもするか?」
「あぁそうさせてもらう」
一瞬の間の後、俺とローブの男は同時に走り出した。やはり速さでは断然男の方が速かった。
みるみるうちに距離を離されていき、竹刀袋を手にしたのはやはり男の方だった。
「悪いなこれでゲームセッ、!?」
男が振り返るとそこには先程まで争っていたハヤテの姿はそこにはなかった。
「・・・なに?」
「こっちだ」
「上だと?」
ハヤテの声がした上を見てみるともう一つ、先ほどの教室から自分が手にしている竹刀袋と同じものが落ちてきていた。
「ナイスだ青」
「へへーん!」
青はハヤテに向かってガッツポーズを決め、落とされた竹刀袋をハヤテは手にした。
そして竹刀袋から刀を取り出した。
「お前が言った筈だぞ?目立ちすぎたんだよ」
そう。この男が言っていた通りだ。
この男が速いのは学校の校舎の窓から顔を覗かせ俺たちを見ていた生徒達には既に周知の事実だっただろう。青だってバカじゃない俺がこいつより遅い事は理解できていた筈だ。
「ふっ、賭けだったがどうやら上手くいったみたいだな」
「チッ」
ハヤテは落下しながら竹刀袋から取り出した刀を構え、そのまま男の目の前に向かって一直線で落ちた。
「くっ、!」
「遅い!」
ほんの一瞬、反応が遅れてしまったローブの男は急いで後ろに飛んだがハヤテはそれよりも速く刀を抜刀し、下から上にかけて縦にローブを斬り裂いた。
「ん?お前は・・・優希?」
ローブを斬り裂いて姿を現したのは昨晩帰り道で助けた少年である優希だった。
俺は事情を話させるため、尻もちをついて倒れた優希に駆け寄り喉に刀を突きつけた。
「お前どうゆうつもりだ?」
「・・・」




