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第98話 想像以上に過酷な現実

 「ここがお前の暮らす部屋だ。俺と同室だ」


 カケルが案内された部屋は二段ベッドと机が一つ、設置されているだけの質素な部屋だった。


 「何かつまんねーな」

 「ほっとけ!」


 部屋を一瞥したカケルはここが明らかに一人用の部屋であり、ギリギリ二人で過ごせるか過ごせないかの広さに少しだけ不満を感じた。


 「風呂とトイレは?」

 「風呂は大浴場がある。トイレはそれぞれの階に男女兼用のが設置されている」


 想像していた以上に魔法が使えない"虫"と揶揄される人々への扱いが不当である事にカケルは改めて、この国の過酷さを目の当たりにしたと同時に日本に帰りたいと強く思った。


 「はぁ、まぁ仕方ねーか」

 「恨むなら魔法を使えない自分を恨むんだな。取り敢えず、荷物・・・荷物は?」

 「ねーよ?だってギンに無理矢理連れてこられたからな。学校に必要な教材とかもないしな」

 「それは安心しろ。魔法や魔術を使う奴以外、教材を持っている奴はほんの一握りだ」

 「えぇ・・・」


 レイヴンに言われ、改めて部屋の中を見てみると確かに学校に通っている生徒と言う割には教材がニ、三冊しかない事に気がついた。


 「明日から学園にお前には登校してもらう。今日はそうだな、この寮と学園の案内を今からしよう」

 「え?あ、おう」


 部屋を後にして次にレイヴンに案内されたのは先程言われた浴場だった。

 

 「あら?あんた達」


 扉を開けると何故か、メイド服に着替えて浴場を掃除していたロキシーと遭遇した。


 「あ、ロキシー、何してんだあんた」

 「何って見ればわかるでしょ?お風呂洗いよ」

 「浴場ご奉仕メイドか」


 ロキシーはその手を一旦止めて、カケルとレイヴンにコーヒー牛乳を奢り席についた。


 「いやぁコーヒー牛乳なんてありがとうな!あんた見た目と違っていい人だったんだな!」

 「何よそれ。私何処からどう見てもいい人でしょーが。と言うかあんた達は、あー案内ね」

 「そうだ。この後、学校にも案内する。カケル、浴場は女子が十九時から、男子は二十一時からだ」

 「あ?風呂も一緒なのか」

 「そうだ。行くぞ、邪魔したなロキシーさん」

 「じゃーなー」

 

 コーヒー牛乳をレイヴンは一口で飲み干し、瓶入れに入れた後、すぐに浴場を出た。カケルもそれに連れられ浴場を後にした。


 「・・・忙しないわね。せっかく奢ってあげたんだから味わって飲みなさいよね。もう」


 浴場を出たカケルとレイヴンはそのまま外に出て、エヴァーモア魔法学園に足を運んだ。

 学園はビッグベンのすぐ隣に設立されており、中世のヨーロッパ時代からあると言われても信じてしまうような荘厳な教会風の見た目をしていた。


 「うへーでけぇ」

 「色々案内するから行くぞ」

 「ほほーい」


 レイヴンの後ろを歩くカケルはその時、妙に周りからの視線を感じていた。いや、正確には自分にではなくレイヴンへ向ける視線を感じていた。

 

 「おい、あれ見ろよ」「あいつがレイヴンか?」「そうそう、虫のくせに 至高なる七柱(シェプティム)の一人に取り入ったって奴だ」


 道を歩くたびに周りからの視線を一斉にレイヴンは集めていた。

 自分がここに来る前に何かやらかしたのだなと察したカケルは視線の理由をレイヴンに聞こうと思い肩を叩こうとした時だった。

 

 「よぉ、レイヴン・アッシュ〜」

 「・・・」


 前から来た、世紀末ファッションの大柄なデブとその子分らしき男達に道を塞がれて二人は立ち止まった。


 「だ、誰この人?」

 「ガーボス・グレイモア。去年にあった 至高なる七柱(シェプティム)の席をかけた学園行事でギンに三試合目で負けた男だ」

 「しぇ、しぇふ?え??」

 「お前、それも聞いてないのか!?」

 「はいそうです聞いてません。だから悪いのはあいつであって俺ではないからね」


 どうやら中々、重要なものであったらしく、レイヴンは、はぁと深いため息を吐きながら、こめかみを抑えて呆れ返っていた。

 

 「おぉい!何、俺様を無視してやがるんだテメェ!!」

 「ぐッ!?」

 「レイヴン!」


 カケルとレイヴンに無視されたガーボスはレイヴンの胸ぐらを掴んで上に上げた。

 

 「テメェ虫のくせに何、堂々と道の真ん中を歩いてやがるんだ!えぇ!?」

 「ぐっ!?し、知るか!ここは公道だ!お前達の顔色を見ながら歩く必要はない!」

 「何ぃ〜!?テメェ、ちょっとあのガキに気に入られたからって俺達と同等になったつもりか!?」

 「ぐあっ!!」


 レイヴンはガーボスに地面に向かって思い切り、放り捨てられ地面に背中から激突した。


 「ぐっ、ゲホッゲホッ!!」

 「少しはテメェの立場ってのを思い出したか?ギンの野郎に取り入ったからって、お前が偉くなるわけじゃないんだよ!虫は何処まで行っても虫なんだ分かったこのゴミ虫が!」


 ガーボスと取り巻きは大笑いしながらレイヴンを今度はその巨体で踏みつけようと勢いよく動かした。

 しかし、それをカケルは自身の片足で受け止めた。


 「テメェ、何のつもりだあぁ?」

 「悪いな、俺今こいつに学園を案内してもらってる最中なんだわ。だからどっか行ってくんね?」


 よく分からん土地に連れてこられた上に今度はよく分からん連中の相手をする羽目になった事にカケルは勘弁しろよと心の内で愚痴った。

 しかし、目の前でそんな自分に誠実に接してくれる相手が傷つけられようとしているのを見過ごす程、薄情でもなかった。


 「テメェ見たことないが俺の邪魔をするって事でいいんだよなぁ!?」

 「したくねーけど、止めなきゃあんたレイヴンの事をぼこすだろ?」


 突然、割って入ってきたカケルに対して、ガーボスは自分の憂さ晴らしをしようと思っていたのに水を刺され、更に苛立ちを募らせた。


 「にしてもあんたの服装だっせーな!」


 周りは白と黒を基調とした制服を着ている中、一人だけ世紀末ファッションをしているガーボスを見て、カケルはバカにしたような笑いを浮かべた。


 「殺す!」


 ガーボスは自分の服装をバカにされた事に完全にキレ、拳の上に上げてカケルに向かって殴りかかろうとした。

 カケルも拳を構えて殴りかかろうとした。

 

 「ちょっと」


 しかし、両者の拳はその一声によって動きを止めた。いや、正確にはガーボスの動きが止まり、それに合わせてカケルも止めたのだった。


 「チッ、テメーか」

 「ん?誰?」


 横を向くとそこにいたのは腰まで届く艶やかな赤髪と白く滑らかな肌を持った女子生徒だった。

 中でも特に目を引いたのは、彼女が動く度にまるで別の生物かのように揺れ動き、今にも弾けそうになっている胸だった。


 「・・・すごいな」

 「何?」


 しかし、そんな艷やかな見た目とは裏腹に、赤く鋭く光る瞳には、決して侮れない強気な意思が宿っており、ガーボスは愚か、カケルでさえ一歩引いてしまう程だった。

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