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図書館とこびと

作者: 蒼城 サトミ



  たったたん♪  たったたん♪

  たったかったったんたったったん♪



 開館前の図書館に少し高めの子供の声で、楽しそうに歌う声。小さな可愛らしい声は、静まり返ったその空間に良く響く。


 

  たったかたんっ♪

  たったかたんっ♪

  たったかったったんたったったんっ♪



 一度目のそれとは別の、こちらも同じく可愛らしい声が嬉しそうに弾むように続けて。

 カウンターで開館の準備に勤しんでいた髪の長い女性が、ふと顔を上げ、堂々とフライングを果たした珍客を認める。彼女はふわりと笑んだ。


「おはようございます。今日は早いですね、二人とも」


  おはよ、リィザ!

  りぃざっ、おっはよー!

  きのうのおハナシのつづきききたーい!!

  つづききくのーっ!


「あらあら。そんなに楽しみにしてもらっていたのなら、私も頑張りがいがありますわね」


 くすくすと女性は肩を揺らす。

 けれども、ふと彼女は時計を見やり、ああでも、と申し訳無さそうに顔を曇らせた。


「もうすぐ、図書館を開けないとだめですから、またいつものようにお昼のときか閉館のあとでも構いませんか?」


  うん、いーよ!

  うんっ、いーよぉ!

  ぼくまってる!

  ぼくもまつー!

  でもまつのひまかな?

  まつのひまかもー?


  あそぶ?

  としょかんあそぶとこちがうー

  じゃあおヒルネ?

  ねむくないけどおひるね?

  うーん、どーしよう

  ううん、どうしよう

  …リィザてつだう?

  てつだう、おひるなるのすぐ?

  すぐだよ!

  りぃざたすかる?

  リィザよろこぶ!

  よろこぶ、りぃざたくさんおはなしする!

  たくさんおハナシ、ぼくうれしい!

  ぼくもーっ!


 うん、と小さな小さなこどもたちは頷きあって、仲良く声をそろえて高らかに宣言した。


  リィザぼくらおてつだいする!

  おてつだいーっ!




 ・・・・・・・・・・・・・・・・




  たったたん♪

  たったたん♪

  たったかったったんたったったん♪


 


「お嬢ちゃん、庭の薔薇がどうにも元気がないんだがの。どの本を読めば原因が分かるんじゃろうか」

「へ。あ、あたしですかっ? ち、ちょっと待ってくださいね、り、リーザさん」


  リィザいそがしいよー?

  しょこ、いったー。ここいなーいいなーい

  ディー、おはなのホンきかれた?

  ばら、さわるといたいやつー?

  いたいけど、キレー?

  それしってるね

  うんしってる

  でぃー、こっち!  

  こっちあったよー!


「え。ちょっとまって、置いてかないでっふたりとも!」



 

  たったかたんっ♪

  たったかたんっ♪

  たったかったったんたったったんっ♪




「これありがとうございました。返却はここで?」

「ああ、ここでいいですよ。ご苦労さま。――――おい、そこの豆小人二匹、ちょっとまて」


  ぼくマメちがうー

  まめおいしー、ぼくおいしくないー


「ああそうかい。奇遇だな、俺も豆は好きだがお前らを食いたいと思うほど飢えちゃいねえよ。…ついでだ、これももどしてこい」


  メルヴィンおーぼー!

  ? めるヴぃん、おぼーちがうよー?

  ちがう?

  うん、りぃざゆった。めるヴぃん、なまけもの

  ??? なまけもの、なに?

  なまけもの、おさるのなかま

  !!! メルヴィン、おさるのなかま!?

  うん、りぃざ、そうゆった

  でもメルヴィン、け、すくない

  …ほんとだ。おさる、け、いっぱい

  ……ふえる?

  ふえるかな?

  これからふえるかも


「ふえねえよ!」




  たったたん♪

  たったたん♪

  たったかったったんたったったん♪




「ご依頼の本はこちらでよろしかったでしょうか?」

「おう、これよこれ! 姉ちゃん、助かったぜ、ありがとよ」

「それはよかったです。では私は失礼いたしますね」

「あ、いや、ちょっとまってくれ」

「はい、何でしょう。別の本をお探しですか?」

「ああ本も探してもらいたいのもあるんだが、もっと重要な話だ。―――姉さんあんた独身かい?」

「…私が独身でしたら、お客様に何か関係するのでしょうか」

「いや、あんた美人だからさ、結婚はまだでも、少なくとも恋人くらいはいるんだろう? でもさ、そこにちょっと目を瞑って、ちょっくら俺と一晩つきあってみない後悔はさせな、――っ!?」


  ダメー!!

  りぃざ、じゃましたらだめーっ!!

  きょう、おきゃくさんいっぱい!

  じゃましたら、おはなし、おそくなる!!

  そんなの、やー!!


「な、なんだこいつら!? 邪魔すん、「お客様、出口はあちらですわ」だ…?」

「あまり騒がれるようならば、東方もそれなりの応対をさせていただかなければなりません。それがお嫌でしたら、どうぞ館内ではお静かに。そうすれば全ては丸く収まりますわ。ね、そう思われませんか?」


  …リィザ、わらってる

  …うん、わらってるー

  けど、

  でも、

  …ちょっとコワい?

  うん、こわいかもー


「あらあら、大丈夫ですわ、そんなに怖がらなくても。あなた達のことは怒っていたりしませんから!」

「って、言われてもなあ」

「リーザさん、手に持ってるペン、少し曲がってますよ…」

「……」



 さあ、もう一働きしてしまおう。

 お昼のお話は無理だったけども、

 代わりに美味しい、おやつをもらった!


 図書館が閉まって落ち着いたら、

 こんどこそ、昨日の続きだ!




  たったかたんっ♪

  たったかたんっ♪

  たったかったったんたったったんっ♪




 ・・・・・・・・・・・・・・・・




「…そうして王子様はガラスの靴を履いた彼女を連れて、お城に帰って行ったのです」


  きゃあ、ケッコンだね

  ちゅうするの!

  エイエン、ちかうんだよー

  ねー

  リィザ、これでめでたしめでたしー?

  おはなし、おしまいー?


「…ところが」


  え。

  え、


「実は王子さまは、最低の男だったのですわ。そう、まるでメルヴィンのような」


  ええ、たいへんだ!

  たいへん。えりー、さわられただけではらんじゃう!

  ……はら、…ってなあに?

  うーん、しらなーい。でも、りぃざがゆったー

  そっかー。

  そうなの

  ねえリィザ、つづきは?

  えりーどうなる? はらまされてすてられる?


「ふふふ。それはまた、あした」


  ええ、あしたー!?

  いまがいいー!!


「だめです。今日はもう遅いですし、片付けもありますから。ね? 明日は今日ほど忙しくはありませんよ」


  …わかったー

  またあしたー


「ええ、また明日。今日はお手伝いご苦労様でした」






 

 


 ちょっとしょんぼりしたような歌が完全に遠のいたころ、ディーは少し涙目で、先輩の背中に声を掛けた。


「…おにですか、リーザさん」

「? 何のことです、ディー」


 きょとん、とした顔で振り返る彼女は、本当に意図を量りかねているようにしか見えなかった。


「メルヴィンさーん、」

「んなこたあ、今に始まったことじゃねだえろ。泣くな。…つーかそれよりも、リーザ。お前ひとを何だと…いや、いい、言うな」


 口を開きかけたリーザを、メルヴィンはうんざりとみやる。

 きかずとも想像がつく自分が心底嫌だと彼は思った。

 息を吐いて話題を変える。


「……今日はシンデレラだったから、明日は美女と野獣あたりか?」

「あら、よくわかりましたね。王子様に飽きられて挙句城を放り出されたエリーさんには、森の古城に迷い込んでいただく予定です」

「…リーザさんがあのこたちにお話するときに持ってるあの本、まっしろですよね」

「ああ…即興でよくあそこまで話しを捻じ曲げれるのか謎だけどな」

「…私は『エリーの大冒険』がいつ終わるのか不思議でなりませんよ」


 ディーは呟くが、答えはその場の誰もが知っていたりする。


「ひでえやつもいたもんだ」

「純粋なこどもをだますなんて、心が痛みます…」


 絶対に終わらないだろう物語を毎日楽しみにしつつ、リーザを手伝うだろう小人たちを思うと、泣けてくる。

 失敬なとでも言うように、リーザは整った片眉を跳ね上げた。


「おはなしが聞けてあの子達もしあわせ。人手が出来て私もしあわせ。どこに不都合があるというのです」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 肩を落としたディーとは対照的に、メルヴィンは天井を仰いだ。が、ふと視線を落として、鼻歌交じりに、後片付けを始めた妙齢の女性に問うた。皮肉るようで、からかうような、そんな声音。


「なあ、リーザ。お前、誰か尊敬してる人間いるか?」


 その問いにリーザは、窓のブラインドを閉めつつ、首だけで振り返った。にっこりと、どこまでも邪気が無さそうに、優しげに笑う。

 ええ、もちろん、と。


「善良な靴屋さんには心から敬意を表しますわ」


 おかげで同じ轍は踏まずにすみましたから!




 ・・・・・・・・・・・・・・・・




  たったたん♪

  たったたん♪

  たったかったったんたったったん♪

 

  たったかたんっ♪

  たったかたんっ♪

  たったかったったんたったったんっ♪



 ほら、今日も開館前の図書館に、歌声が響く。

 それはとても楽しげで、嬉しげで。

 確かに同僚の言うとおりの理由もあるけれど。

 何より、可愛い彼らの訪問を首を長くして待ち望んでいる自分を彼女は知っているから。


 だから、リーザは笑顔で彼らを出迎えるのだ。


「おはようございます、二人とも」


 おはよ!

 おっはよー!




 そうして、今日も、忙しくも楽しい、図書館の一日が始まる。




 


 了



 









こんなとんでも駄文を読んでくださって、ありがとうございました。

この作品自体は随分前に某コミュニケーションサイトの日記で書いたものですので、大分文章に粗が目立ちますが、設定自体は気に入っているので少しでも楽しんでもらえたなら光栄です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは! いやあ、小人が可愛いです! その小人たちを利用するリーザも良いですね! リーザさんのそういったところに好きにならざるを得ません。 メルヴィンとディーとリーザの3人コンビも…
2013/04/12 18:28 退会済み
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