イロモノの修理屋
気まぐれに書き始めました。
テトリスの起源はかつてソビエト連邦の軍事訓練に使われていたものだ。という通説、あれは流石に嘘だろう。
脳のトレーニング、という点を見ればトレーニングにはなるかもしれない。ただ、ある程度慣れたら後はほぼ作業みたいなものだ。
実際、僕はこのゲームを幾万とこなしてきているが、あまり脳を使ってる感覚はない。積んで消して、積んで消して、無数にあるパターンの中から最適なものを選択する。経験値が処理の早さに直結するだけの暇つぶし。
かつてはオンラインゲームにも親しんでいたが、今はその全てがサービスを終了してしまっている。
というより、かつての文明社会は今はその殆どが機能を停止した。
ダイダーと呼ばれる超能力者が出現してからおよそ4年、その間に人類の総人口は4割まで減り、ライフラインをはじめとして様々な機能が停止した。
もちろんインターネット回線も死滅し、僕はこうしてオフラインのテトリスを暇つぶしにするしかなくなっている。
「おぅい、起きてるか」
マンションの部屋のドアをドンドンと叩く音と、呼ぶ声。電気がないからインターホンは壁に出来た無用の出っ張りと化している。僕はスマホを枕の下に隠してやや不機嫌に大声を返した。
「今行く!」
ドアを開けると馴染みの悪友の顔があった。やけに機嫌が良さそうだ。
「センリュー、お客だ」
「川柳だ。んで、今日は何?」
川柳麟と言うのが僕の名、修理屋を生業としてやってる。家具やら機械やら、手先が器用なのをいいことにちまちまと知識を蓄えて修理ということに関しては幅広く対応出来る。生きるため得た技術とはいえ我ながらなかなかの才能だと言える。
「パソコン」
「そんなもんどうすんだこの世の中で」
実は電気がないというのは正確ではない。燃料供給の問題で火力発電所が使えなくなったが、原子力発電所は発電量を減らしつつ細々と稼働している。
ただ、一般市民がおいそれと電化製品を使えるような環境ではない。時計なんかは電力消費が微々たるものなので大丈夫だが、パソコンを日常的に使えるほど有料の公営充電ステーションに通える財力を持ち合わせている一般市民はそういない。
「知らね、思い出のデータとかが入ってるんじゃない。たまに見て感傷に浸る程度ならそんなに頻繁に充電要らんし。んだから、ちゃんと儲けろよセンリュー」
「嫌だよそんなんでぼったくるの」
「ぼったくれとは言ってないけどさ」
悪友、篠田が儲けろと言っているのは何も僕の生活を気遣ってのことではない。僕のように手に職を持つ人間と顧客を繋げて紹介料を取るのが彼の仕事だからだ。そして、僕は自分の売上から何パーセントかを彼に紹介料として渡すことになる。もちろん依頼人からも取ってる。
「ま、なかなか太っ腹だから多少多めに見積もっても大丈夫だと思うぜい。太っ腹と言ってもスリムで美人なネーチャンだったけど」
「やけに機嫌がいいのはそれか…」
「美女の笑顔を守るのは俺の仕事だからね」
「お前の仕事はピンハネだろ」
「ではピンハネついでに忠告を1つ…“色付き”だよ、彼女。純度の高い“赤”だ。あんま隠してる訳でもなさそうだけど」
色付きとはダイダーの俗称みたいなものだ。異能に目覚めた人間は体のどこかにカラフルな痣が出来る。その色によっておおよその能力の傾向も分かるとされる。
とはいえ、それだけで忠告が必要な情報という訳ではない。ダイダーは全人口の3割弱、決して珍しいものではない。
「お得意のやつか?」
「お得意のやつだよ」
篠田の人を見る目は侮れない。少なくとも、紹介屋という名のピンハネを生業に出来る理由になる程度には勘が鋭い。
「OK、まずは依頼人に会おうか」
続きは特に考えてませんがたぶんなんとかなります。やる気のある限りは