だからさぁ……狙い撃つぜぇ!!
第1射で1機撃墜、第2射を放とうとしたがどうやら密集陣形を取っているようだ。流石にギャラハッドのメインカメラでは状況を拾うことは出来ないのでモルガンからのデータリンクを待つしかないんだよな。俺のやることと言えばゼロコンマ単位の機体コントロールで着弾位置を確定させることだけだ。敵さんの移動予測とかは全部モルガンがやってくれるからな、楽なもんだよ。
え?弾速が遅いと弾着も遅くなるって?当たり前な事を言いなさんな。フェイルノートは多段電磁加速を用いてほぼ光速を実現しているのさ、だから400km離れてようが0.0013秒くらいで弾着だぜ。
「モルガン次はどう撃つ?」
『海賊共の動きが確定したので今データを送信します。』
「りょーかい」
データリンクによって示された敵機の情報を眺めてから、指定された場所に砲撃を行う。全部で6発位かな?残りの3機を落とすのに使ったのは、そんだけありゃまぁ落とせるわな。流石はウチのモルガン様ですよ。
発射間隔は3秒くらいだったからまぁあと少し待機してればそのまま格納デッキに戻るだけだし、なんとも簡単な仕事だったな。
『マスター、海賊機の撃滅完了です。現在救難信号を発信した旅客機を保有する企業に報酬金の請求を上げています。』
「あれ、傭兵組合を噛ませなくていいのか?」
『YESマスター、今回の様な救難信号をキャッチしそれを受理した場合は傭兵が個人で企業に報酬金を請求して良い事になっています。勿論法外な金額を請求することは論外ではありますがそこは私ですから、傭兵組合での前例に則った金額を請求しております。』
「流石はモルガンだ、その調子で頼む。」
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「助かった……のか?」
突然海賊の機体が真っ二つになったと思い、周囲を見渡したしレーダーも確認した。しかしどちらも確認出来ない、つまりレーダーに写りにくく尚且つ視認性も極めて低い特殊型の機体なのか、または超長距離からの狙撃によるものなのか。
私には全く分からなかった、しかしこの状況下で海賊機を攻撃しているということは我々の出した救難信号をキャッチしそれに応えてくれたという事だろう。
傭兵組合の連中にとっては悪名高いエルブエンストスペースだとしても、俺達スタッフを含め乗客の命を救ってくれた名も知らぬ傭兵に感謝を捧げよう。
『こちら傭兵組合所属、傭兵ソラ保有艦アヴァロンです。救難信号を受け海賊機の撃滅を行いました。被害等はありませんでしたか?』
傭兵艦に女性とは珍しい、しかも声から察するに相当やり手と見た。つまりソラという名前は彼女であり傭兵なんて稼業をやっているんだろう、務め初めて早数年。まさかこんな出会いがあるとは……声しか聞いていないが間違いない、彼女は素晴らしい方だろう。
「救援ありがとう、こちらエルブエンストスペース所属ユーラヴェン機長のカイエンです。」
『応答に感謝します、救援行動は終了しましたのでこれより報奨金の手続きに入りたいと思いますが本社の方に連絡を入れた方が間違いは無いですね?』
「いや!!私の方から話をしてみよう、なぁにすぐ報奨金を振り込むよう指示してやるさ!!」
『……承知しました、では連絡をお待ちしております。返答はこの回線でよろしくお願いします。』
通信が終了してから私は思った、彼女は間違いなく俺に気があると!!何故ならばわざわざ「連絡をお待ちしております」なんて言ってくるのだ、これで気が無いという方が無理だろう!?私はソワソワしながら本社に連絡を入れる事にした。
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「んで、そのカイエン機長とやらからの返答は?」
『未だ来ておりませんね。』
「やっぱりあの情報は嘘じゃなかったか〜、まぁ助けた後に気が付いたってのもあったんだよなぁ〜」
『申し訳ございませんマスター、私も確認不足でした。』
「まぁいいさ、連携確認が出来たとでも思っておこうぜ。」
海賊機への砲撃を終えた後モルガンが相手側に請求したのを聞きのんびりブリッジで待っていたのだが、待てども待てども連絡が来ないのでついつい聞いてしまっていたのだ。
そして、傭兵組合の中でもレッドリストに入っている企業の一覧の中に今回助けた旅客列車を運行する企業があった事を思い出した。理由は単純、救援依頼を出しておきながらあの手この手で報酬を出し渋るからだ。やれ救援が遅いだやれこちらの機体に傷が入っているだと文句が出るわ出るわだそうで、組合側からも既に依頼の受付拒否が起こっているらしい。ただ、救難信号を出してそれを受ける受けないは傭兵個人の自由と言うことで奴さんはそこを突いて来る訳だな。
まぁ、モルガンが言うに助けた機長は良い人っぽいから何とかしてみると言ってくれたらしいけど、多分無理だろうなぁ……
あと、モルガンはオレの嫁なので諦めて下さい。悲しいかな彼との会話は全て録音されており俺にチクられていたというわけだ。ダメダメ、声だけで女性を判断しちゃァ。童貞かぁ?機長さんよぉ……俺も人の事言えねぇけどさ……
『どうしますか?マスター報奨金が手に入らない可能性がある以上、これ以上彼等に付き合う必要は無いかと思われます。』
「それもそうだよなぁ、よし!!例の企業のお偉いさんのお宅に1発かましておくか!!勿論穏便な方法でな。」
『?狙撃を行うので?』
「いやいや、物理的な事はしないよ。たーだ、モルガンや他のAIの力も借りて嫌がらせをしてやるだけさ。」
『?承知しました。』
さぁて、楽しくなるぞぉう!!
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「だから言ってるだろう!!そんな事に払うメルなど無い!!」
「しかし、救難信号をキャッチし海賊機を撃破してくれたわけで」
「大体、攻撃した機体も見ていないのだろう?つまり虚言の可能性もある訳だ。」
「ですが……」
「ですがもクソもあるか!!いいか、その傭兵にも言ってやれ!!お前達に払う報酬など無い!!お前達はたまたま通り掛かったボランティアなんだろう?とな!!分かったか!!」
ブツリと通話を切って憎々しげにデスクチェアに腰掛ける男が居た。
彼はエルブエンストスペースの管理職カンザスである。
たっぷりと肥え太った肉体をオフィスの窓際の席に降ろし、ニヤニヤとしていた。まるで何かいい事でもあったかのように「ぐへへ」と笑い出していたのだ、周りの社員から見れば「またあの笑いだよ、横領のネタでも掴んだんだろうね。」とヒソヒソ話している、勿論カンザスにその声は届いてはいないが。
このカンザスは、救難信号を発信しその報酬を傭兵に支払ったと見せ掛け自分の財布に入れるという事を常習的に行っていた。
つまりエルブエンストスペースの悪評はほとんどこいつ1人の責任と言っても過言では無い、まぁ横領した金の一部を上層部に納めることで言及逃れをしているためほんとに1人のせいという訳でもないのだが。
ふと、デスク上に
データファイルが1つ送られて来ていた、周りの部下達を見ても誰もこのデータの事を知らなさそうであるしそもそも気がついてすらいないのだろう。当然だ、彼はオフィスの自分の席で会社のデバイスを使い違法なサイト等を片っ端から閲覧しまくっているため、それが露呈しないよう盗み見防止機構を配置しているのだ。それ故に本人でしか確認はできないし、本人以外のものたちも好き好んで彼の席のデバイスに触れようとは思っていなかった。
「何だこのデータファイルは。」
勿論会社のデバイスな為ウイルス検知は普通の家庭などより倍以上強いだろう。
だからこそ油断があった、カンザスは疑いもせずにそのファイルを開いてしまったのだ。
ファイルを開いた瞬間オフィス内に大量のカンザスの爛れた私生活模様がばらまかれたのである、これはソラやモルガンが1から盗撮したものではなく、コロニー内の監視カメラ映像をあらゆる所をハッキングして得たデータである。
何故カンザスが主犯格だと気が付いたのかは、モルガンによる企業のメインコンピュータハッキングによって不正な金の流れを検知出来たためそれを辿った結果である。あまりにも分かりやすい手口だったためモルガンでなくてもこれを見れば秒で誰が犯人かわかるとの事だ。
これが計画していた嫌がらせ「お前の恥ずかしいプライベート全部晒してやっからよ!!」である。
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「今頃は相手方も躍起になってるかねぇ?」
『申し訳ありませんマスター、オフィス内監視システムはプロテクトが固く直接コンピュータにアクセスできない限りは盗聴は不可能です。』
「いいさいいさ、そんなの。だいたい予想はつくし、楽なもんだよ。俺はただみんなにこれを集めてくれってお願いして、スッキリしただけだからさ。」
作戦はおそらく大成功、カンザスとかいう職員は今後解雇されるか閑職に回されてそのキャリアを終えるだろう。
オフィス全体に自分の恥部を晒されたのだ、隠し通せるわけもないし1度付いてしまったそう言う火は消えないもんだからな。
もう二度と横領なんかを出来る環境にはいられないだろう。
これが相手を計画的に追い詰めて倒す俺流のやり方だ、ま、簡単に言えば弱点を狙い撃つぜぇ!!ってことだな!!