夫、またも子を託される
「どうしたもんかなぁ~…」
「本来の仕事がこれじゃ終わらないってことだよね?」
「あぁ、本来ならここで心臓部をつぶせばこれ以上あの生き物たちが出てくることは無いからそのうち人類の居住区が増えるだけって話だったんだが。」
「本当はこの子とその仲間達を捕らえるため、だったんだもんね。」
「ほんとなぁ…どうしたもんだか。これじゃ戻るに戻れないし、かといってなんにもやってないのに終わったとは言えないよなぁ。この子をそのまま渡すわけないし。」
「ダメだよ!?この子はもううちの子!!」
「キッ(サッ)!!」
皇鋼蜘蛛が右手…手?をあげて「その通りです!!」と訴えている…ように見える。
既にモレッドと俺を家族として認識しているのだろうか?まぁそうじゃないとしてもこの子を軍に出すわけにはいかない。博愛主義ってわけじゃあないが人間だからとか人間じゃないからって理由で隷属させるような主義はもっていないからな。
むしろ、この皇鋼蜘蛛は可愛らしいと思う。昔ゲームの合間に見ていた某動画サイトでハエトリグモの飼育動画とかを眺めていた俺である。こういう種族はバッチこいなのだ。
「とりあえずそれっぽいものを探すしかないよな、一旦ギャラハッドとヴァレットに戻ろう。あと、その子は一旦俺に預けてくれモレッド。」
「むぅ…もうちょっとだけ!!」
「ちょっとだけだぞ?」
「はぁ~い!!」
こういうところはモレッドが嫌がらない性格でとてもよかったと思う、普通の女の子であれば蜘蛛なんて気味悪がって近寄らないしすぐさまぺチンとしてしまうところだろうからな。
だが、モレッドはそれをしない。むしろ同族である人間のほうが嫌がるふしさえあるくらいの子だ、きっと人間のうちに抱える感情を無意識のうちに感じ取ってしまう敏感で繊細な子だからだろう。
モルガンはそれを再生時に施した俺の遺伝子データがもたらしたものとは言っていたが、それはそれでこの子の生き方を不便にしてしまったのではないかと思ってしまうところではある。
おくびにもこの子はそれを出さないし、そもそもそう思っていないかもしれないが親心としてはそう考えざるを得ないものだ。
「……ミ……タ……」
「ん?」
「ほ?」
わずかだが声が聞こえた気がした、モレッドも反応していたので俺の聞き間違いではない事は間違いない。俺はモレッドとアイコンタクトで「周辺を警戒するんだ。」と伝え警戒態勢をとる。
皇鋼蜘蛛の子は何やらそわそわしているようにも見える、俺とモレッドはその子に「ちょっと待っててね。」と一言声をかけ腕から降ろした。
「誰かいるのか?この子の親か?なら謝ろう、決してこの子に危害を加えていたわけではない。そして、おそらくだがこの状態を引き起こしたであろう者と直接のつながりがあるわけでもない。まぁ、だからと言ってこの状態をよくすることも出来ないんだがな。」
「私とお父さんは仕事でここにある外に出てる生物の繁殖を止めるために来たんだ、まぁお父さんが考えてた通りになっちゃってるってことはこの子を見て確信したんだけどね。」
「……ソノコヲドウスル?イシュゾク……」
「少なくともここの人間に渡す気は無い、危害を加えるつもりもなければ何かを要求するつもりもない。」
「わたしはこの子と仲良くしたいな、ウチにはねこのことはまた違うミコケットって言う種族のキスハって言う子がいるの。その子と一緒で、私はこの子とも仲良くしたいと思ってるよ。」
「……シンジルコンキョハ?」
「無い、所詮は俺たちも君の自由を奪った人間と同じ人間だからだ。言葉では何も信じさせる根拠は無いだろう。」
「お父さん…それじゃ何にもないじゃん。」
「だってそれしか言えないだろ?間違いなく今声をかけてきている誰かは人間のせいでこうなってるわけだ。そして俺たちはそれを知らずとは言え加担しちまったわけだ、なら全部正直に話す方がいい。正直者はバカを見るって言うけど、嘘だけって言うのは嫌だしな。」
「お父さんのそういうところ嫌いじゃないよ。」
「ありがとな、モレッド。」
声をかけて来た誰かと話ながら俺はモレッドの頭を撫でた、見えない何かと話し早退するにしてはあまりにも無防備な光景。だが、俺とモレッドは不思議と攻撃されることはないと感じていた。
話をする相手から敵意を一切感じていないからだ、品定めのような感じはある。だがそれよりも、何か大事なものを託せる者達なのか。それを今確かめられているような気がしてならなかったのだ。
だから俺とモレッドは敵地のど真ん中であっても極めてリラックスした状態でこの場所に立っていられた、今まで戦闘してきていまだに敵地にいるとは思えないほどに自然体で居る。
「……ニンゲン、ナヲオシエテクレヌカ。」
「ソラ・カケルだ。」
「ソラ・モレッドです!!」
「……ウム、ソラ・カケルトソラ・モレッドヨ…ドウカ、ドウカワレラノサイゴノムスメヲタノミタイ…コノコハマダナニモシラヌタダノアカゴ。ナニモノニモソマッテオラヌジュンスイナコナノダ、ワレラハスデニムスウノイノチヲスイケモノトカシタ。ワレラノイシキがケモノトナルマエニ、ソノコダケデモ…ドウカ…」
その声は悲痛で、この子の未来に自分たちは居られない事を覚悟しているようで、最後の別れの言葉の様で、己の最愛の子に目いっぱいの愛をささげている母親の様で、とても美しくとても切ない物だった。
「…確かにその思い、承りました。この子は俺ソラ・カケルとモレッドが責任をもって保護致します。」
「ねぇ…この子のお母さんなんでしょ?なら…顔だけでも私たちに見せてください、この子がおっきくなった時あなたのお母さんはすごい綺麗だったって、言えるように。」
「……ソノココロヅカイカンシャスル、デハ…」
空間が裂けるように見えた瞬間、俺とモレッドの目の前に現れたのはまるでギリシャ神話に出てくるアラクネだった。
アラクネ…混〇の魔〇ク〇ー〇…混〇の〇…ウッナミダガ…
「我が娘…既に獣に近づきし私にはもう、お前を抱くことは叶わぬ。だが、いつまでも、どこにいたとしても、私はお前を愛しているよ&%#$&%&…」
「今のは、この子の名前か?」
「私にも何か言ってるのは聞こえたけど、聞き取れなかった。」
「この世界では聴き取れぬ言語故な、我らは本来この次元にはおらなかった故。」
「ならこの子の本当の名は伝えられないじゃないか、それは母であるあんたがこの子に伝えなきゃいけないものだ。俺たちにはそれを伝える義務がある。」
「私もそうおもいます!!名前ってお父さんとお母さんからもらう大事なものだから!!」
例え俺たちが発することのできない言葉だったとしても、この子にとってそれは母からもらえる唯一の…最後のものになるから。俺とモレッドは聞くのだ、この子の未来は確かに母が残してくれたものだと伝えるために。
「ありがとう、ソラ家よ。この子の名確かにおぬしらに託させていただく。」
「任せてくれ。」
「任せてください!!」
「この子の名は……」
その名を告げて彼女は去っていった、我が子に触れる事こそなかったが目いっぱいの愛情を注ぐように、自分の全てをこの子にそそぐようにして去っていったのだった。
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「さて、じゃあ任務完了ってことで帰りますか。」
「そうだね、この地下の崩壊ポイントもわかったことだし。」
皇鋼蜘蛛の母はこの地下がこの子を隠し育むためのゆりかごであると言っていた、その役目を終えたのであればここを破壊するための座標も伝えてくれたのだ。
「しっかし、このポイントを破壊してピッタリ24時間で完全崩壊とはなかなかやるねぇ。」
「この子のお母さん、ちゃんと考えてたんだね。」
「そりゃ、我が子が生き残るためにもちゃんとそういうようにはするだろうさ。大事なのは子を思う親の心ってことだな。」
「お父さんとお母さんとはまた違うけど、あの人もすごいお母さんだね。」
「そうだな、子を持つ母ってのは人間だろうが人間じゃなかろうが関係なく強いもんだ。キスハの母親だってそうだっただろ?自分の子を俺たちになら任せられるって、信じて預けたんだ。普通ならそんなことできないさ。」
「うん…お母さんってすっごい凄いんだね!!」
「だな、それじゃそろそろ脱出するか!!」
「はーい!!行こ?エルピダ!!」
「キッ!!」
皇鋼蜘蛛の子の名は「ελπίδα」エルピダと発音する子の名の意味は希望、もはや同族ほぼ全員が獣となり下がりかけている中で生まれたただ一人純粋無垢な赤子に付けられるには当然ともいえる。
「エルピダはきっと…いや、絶対幸せにして見せるさ。」
「だから私たちに任せてください!!エルピダが笑って暮らせる場所に私たちがなりますから!!」
そう俺とモレッドが叫び、ロンギヌスで崩壊ポイントを破壊する。周辺にヒビが一気に走り地震が始まった。
ギャラハッドとヴァレットが飛び立ち、エルピダのゆりかごから離れていく。
主縦穴を上昇している最中、ふと気が付くとそこには皇鋼蜘蛛の成体…いや、大人たちが手を振って俺たちを見送っていた。
「自分たちの子をよろしくお願いします。」と。
エルピダはまだ、母親のようにヒトの身体は出来ていない。
でもその目には確かに同族の大人たちの姿が映っていて、もう会えないのだとわかっているのか必死になって両手をぶんぶんと振っていた。
ギャラハッドのコックピットで俺の膝の上にいるエルピダは、ほんのわずかに震え続けていた。
だから俺は声をかけた
「エルピダ、お前はみんなに愛されているんだ。でも、愛しているからこそみんなはエルピダとお別れしなくちゃいけなかったんだ。今はわからなくていい、でもいつかわかるときが来たらまた教えてやる。お前は母に愛されているってな。」
「キィィィ…」
エルピダの目には涙腺は無い、でも間違いなく今この子は泣いているんだろう。もう会えない仲間達との別れに、新しい場所に行く不安と恐怖に、そして何よりも自分の母との永遠の別れに。
俺はその辛さを理解することはできない、何故なら経験したことがないから。ここで声をかけたり、慰めたりすればそれは今泣いているエルピダに対する侮辱ではないだろうか?
この子はまだ幼い、それなのにこんな環境に置かれてしまったのだ。孤独になるだろう、切なくなるだろう、苦しくなるだろう。でも、それを解決できるのはこの子の意志だ。
俺は、俺たち家族はエルピダを新しい家族の一員として迎えるだろう。それはもう盛大に、でもそれを受け入れられるのか、受け入れてくれるのかはエルピダ次第だ。
「エルピダ、俺たちは待ってるからな。」
「きぅ…」
優しく、エルピダに声をかけギャラハッドは脱出の横穴に入った。すでにマーゾエによって最短の脱出経路は出ている、ナビゲーションに従ってギャラハッドとヴァレットは出口に向かって飛んでいく、そして。
「外だ~!!」
「ようこそエルピダ、地上へ。」
脱出開始からわずか3時間、俺とモレッド、そしてエルピダは地上へと帰還したのだった。
ヴィ「また新しい子がアヴァロンに!!('Д')」
グィ「お食事の用意はバッチリします!!(*‘∀‘)」
モゴ「エルピダちゃんか、可愛い!!(*'▽')」
オヴ「ってことは新しい部屋作んなきゃじゃない?(; ・`д・´)」
マー「さすがにキスハと同室はキスハが嫌でしょ( ̄д ̄)」
キス「私は一緒でいいにゃ?(*'ω'*)」
全員「!?(゜Д゜;)」




