娘に「洗濯物をお父さんと一緒にしないで」といわれる気持ちがわかりました(と言うか言われた)
鍋パーティーをモニターで眺めた翌日、とりあえず独房からは出されました。
ちなみに監視はありません、モルガンがスピーカー越しに開放してくれるといっただけです。せっかく独房から出されたということでとりあえず自分の部屋に戻るついでに、モレッドやキスハにも顔を出していこうと思ったわけです。
というわけで現在居住ブロックのキスハの部屋に来ております、相変わらずの森林っぷり。これを再現したモルガンにはやはり頭があがらんな、ここにいるだけでマイナスイオンを感じて体が軽くなっていく気すらする。
「…キスハ居ねぇな?」
そうなのだ、この部屋に入って5分ほど経ってはいるはずなのだがキスハが全くと言っていいほど顔を出さないのだ。前だったら部屋に入った瞬間とびかかってくる勢いだったのに…
モレッドと一緒に行動しているのだろうか?とりあえずここにはいないということで退散するとしようか、久しぶりに見るであろうキスハの成長を確かめたい気持ちもあったんだがなぁ…
ちょっとしょげながら今度はモレッドの部屋に向かおうとした、しかし機能のモルガンの言葉が頭の中でリフレインする「回復したのを祝いもせず、怒鳴り散らす親がいてモレッドが楽しめるとお思いですか?」と。
今思えば確かにあれは無いだろうとも思えるのだ、何せモレッドはカプセルから解放されてすぐにAMRS適性の高さからパイロットになった。我が家には他の仕事は全てアンドロイドたる妻と姉たちがいる、自分だけがプーでいるなどいくら幼いとはいえ納得できるものでもなかったという事だろう。そんな中、自分の仕事が奪われる。しかも俺との約束すら反故にする形で。釣った魚にえさを与えないよりもひどい事だろうなと思ったわけだ。
モレッドとの距離がかなり広がってしまったなと感じはする、だがこれは俺がまいた種だ。自分で何とかするしかあるまい、ほんの少しずつでもいいからまたモレッドに笑いかけてくれるように頑張るとしよう。
「一回風呂にでも入るとするかぁ。」
思えば1月以上湯船につかっていない、健全な日本男児たるもの風呂に入るときは湯船につかりたいものなのだ。
ともなれば善は急げ、自分の部屋に戻って着替えを用意して風呂場に直行するのみである。
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「…どうしてこうなった…」
「声を出さないで、うるさい。」
風呂に入ろうと脱衣所で服を脱ぎ、いざ風呂場に入るとそこにはモルガンを除いた家族全員が集合しているではないですか。
ちなみに風呂場と脱衣所はなぜか防音が完璧で風呂場の声は脱衣所には全く聞こえない、よっておれは何も警戒せずに風呂場に入ったわけです。
結果、わいきゃいしている娘たちに突如入ってきた俺はとっても冷ややかな目で見つめられたという事です、風呂場はあったかいはずなのに全然あったまらないぞぉ?おっかしいなぁ。
「…あの…」
『キスハは自分から体を洗って偉いですねぇ、ほとんど毎日くらいのペースでお風呂に来ていますもんね。』
「そうなんだね!!だから私の病室に入るのも許されてたんだ!!」
『そうですよ?一カ月以上お風呂にも入らない誰かとは違いますもんね?』
「ふにゃぁ~。」
「……」
これは、あれか。さりげなく俺をディスっているのか、そしてキスハお前はそんなにきれい好きだったのか。いや、確かに毛艶とかはめちゃくちゃ良いんだけどさ。性別の壁というのは種族さえも超越するという事か、キスハも女の子だし身だしなみには気を使うと。
なるほど、今のキスハは同じミコケット種から見ても大層美人に映るに違いない。
それに対して俺のこの扱いのひどさよ、さりげなく一番端っこに追いやられつつも声だけははっきり聞こえる位置で話をしてくるんだもんなぁ。
ちなみにキスハを今ほめていたのはグィネヴィアである、アンドロイド5姉妹の中で一番俺に対する当たりが強いのだ。辛いです…
いや、でもだよ?一応長期間活動用のパイロットスーツは身体浄化機構があるから体が老廃物まみれになってるなんてことはないんだよ?そうでもなきゃ俺は今頃とんでもなく臭いだろうし。そもそもこの風呂場に入るんじゃねぇって怒鳴り散らされるだろうしさ。
「ねぇ、ヴィヴィアンお姉ちゃん。」
『どうしたの?モレッドちゃん。』
「ギャラハッドって今どんな調子?」
割と容赦なくモレッドが俺に対して言葉の針を刺してくるぞぉ!?ちょっと勘弁してほしいとすら思ってしまう。
しかし、そんなことはお構いなしに話し始めるヴィヴィアン。
『正直ひどいもんだよ、よくもまああそこまで酷使しきってくれたって感じだよね。関節なんて摩耗しきってガッタガタ。装甲と装甲の間に入りこんだ返り血やら体液やらは腐ってとんでもない臭い出してるし、金属疲労の影響なのかフレームにひずみが出来ちゃってる。これも見越してフレーム自体に多少たわみを作って衝撃とかを逃がすようにしてたはずなんだけどねぇ。』
「わぁ、そこまでやったんなら逆にすごいね!!」
『ホントにね、整備する方の身にもなってほしいとは思うけどね。ぶっちゃけオーバーホールしたほうが早いくらいだよ、よくもまああそこまでの状態にしてくれやがりましたよねぇ。』
やっべぇ、ヴィヴィアンも相当お怒りだった。さっきからめちゃくちゃ鋭い視線が俺の背中に刺さっているのがわかる。こそこそと頭と身体を洗いながらようやく湯船につかろうと俺は立ち上がって湯船に向かう。
『ねぇ、湯船に入るならあっち行って。そしてそれ以上近づかないで。』
『モレッドちゃんを泣かせた人がこっちに来ないでね。』
『あっち行ってね~。』
「…はい…」
もはやここに俺の味方はひとりもいないのか、モルゴース・オヴェロン・マーリンにまで言われてしまった俺は広い湯船の四隅の端っこにポツンと体育座りでつかるのだった。
広いのにとても狭く感じてしまうのは間違っていないはずだ、こんなにも居心地が悪い風呂場は初めてだからな!!
娘たちとキスハは相変わらずキャッキャしながら風呂を楽しんでいる、俺などいないものとしているかのように。あっるえぇぇぇ?個々の家主って俺だったよね?俺、お前たちの父だよね?ここまでの扱いされなきゃならんのなんでなん?
『一カ月以上仕事に出て帰ってこなかったのに、しかもその間連絡の一つもよこさないわ久しぶりに会った娘に対する第一声が怒声だったあなたに何か言えることがあるのですか?』
「返す言葉もございません、本当に申し訳ございませんでした。」
いつの間にか風呂場に来て、俺の横で湯船につかったモルガンの言葉に俺は項垂れる。
くっそう…俺はみんなを食わせるために頑張って仕事してきたんだぞ!!
『ただの八つ当たりではありませんか、自分がモレッドを無事に帰還させられなかったことに対しての。その結果がこれですよ、それで?まだ何か不満があるのならば聞きましょう。あなたの考えが正しいと思えるのであればこちらとしても考えを改めるのもやぶさかではありませんが?』
「正直すまんと思っているっ!!」
有無を言わせぬ強い語気に俺は完全に心を折られました、くそうさらにできるようになったなモルガン。
『あら、キスハあなたが私の方に来るだなんて。やはり1月も姿を見せない人のことなど忘れてしまいましたか?』
「うーなー?」
「キスハ…お前まで…」
もうやめて!!俺のライフはもうゼロよ!!キスハにすら「誰この人?」と言わんばかりの反応をされてしまい俺は両手で顔を覆ってしまう。涙なのか湯船のお湯なのかもわからんくらい顔はべちゃべちゃになるけどな!!
しかし、キスハの慈悲なのか尻尾だけは俺をくすぐってくれた。濡れてはいるがとても触り心地が良い、皆にいじめられている俺にとってはとてもうれしいものだ。
しかし、抜け毛とかないのかねぇ?毎日くらいの頻度で風呂に入るなら相当抜け毛とか出てそうなんだが。まぁ実際そんな問題とか起きてないみたいだから気にしないでいいのかな?
そうこうしてるうちにのぼせてきそうになったので俺は湯船から上がることにした、娘たちとモルガンはまだまだいるみたいだな。うぅ~む、長らく湯船につかっていないせいで我が家の中で一番風呂に入る時間が短くなってしまったというのか…なぜかとても悔しいな。
こそこそと風呂場から脱衣所に戻り服を着て、来ていたものを全自動洗濯機に放り込もうとしたときふと貼り紙が貼られていることに気が付く。
「ん?なんだこれ。」
裏返しに貼られていたためそれを手に取りそれを読もうとする。書かれていた内容は…
「ソラ・カケルのみ使用禁止、洗濯機を使用の際は自室のものを使う事。」
と書かれていた「バカなっ…!!」膝から俺は崩れ落ち、これが「お父さんの洗濯物と一緒にしないで。」と思春期の娘に嫌われる父の心の痛みなのかと心の涙を流すのだった。
ヴィ「全くもう!!<`~´>」
グィ「困ったものです!!( `ー´)」
モゴ「さすがにやりすぎたかなぁ(;´・ω・)」
オヴ「気にすることないんじゃない?('ω')」
マー「お風呂はやっぱりいいね~(-_-)」




