失意の果て
泣いて、泣いて、泣き疲れて、眠って、起きてはまた泣いて。
そんなことを繰り返して、最初に目が覚めてから一週間たった日。
ようやく医務室から私は自分で自由に動けるようになった、自由に出られるようになって最初に向かったのはキスハの部屋。傷自体はもうふさがってるから感染の問題もないからOKだってグィネヴィアお姉ちゃんが言ってたから。
「キスハ―、居るー?」
この部屋は森みたいになってるしちょっと広いから少し声を出してキスハを呼んでみる、ひょっこり顔を出して私を見たキスハが嬉しそうな顔になって私にとびついてくる。一応私が病人だってことは理解しているみたいで倒れ込みそうになった私の背中側に回ってゆっくりと倒れるようにしてくれた。
キスハも私が意識を失ってる間にさらに大きくなったみたいで、今じゃ資料で見たシベリアンハスキーくらいの大きさになってた。
「キスハありがと、急に来たのに呼んだら来てくれて。」
「んなぁーう」
おなかに頭を乗せながら声をかけて、返事をしながら私に頬を優しく舐めてくれたキスハ。
ちょっと舌がザリザリしてるけど、そんなことはどうでもよかった。ただキスハにちょっとだけ寄り添ってもらいたかった私にとっては。
「んなー?」
私の気分を知っているのか「何か言いたいことあるの?」とでも言っているような顔で私の顔を覗き込んでくる。正直、話そうと思っていたわけではないしこればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかないと思ってたから、言いよどんでしまう。
「んなっ!!」
「ほぴゃあ!?キスハ!!いきなり何するのさ!!」
私が言うか言わないかで悩み続けて「うーん、うーん…」と唸っていたらキスハがしっぽを使って私をくすぐりだしたのだ。
あまりに突然の事だったので変な声が出てしまうくらいには驚いた、しかも私の弱いところを知っているかのように的確な位置をくすぐってくるものだからもう大変。息も絶え絶えになりながらキスハのおなかの上で頭をゴロゴロさせていたのだった。
「んもぉ~、このいたずらっ子め!!」
「んにゃ~♪」
お返しとばかりに私もキスハの喉周りをくすぐるように撫でる、うれしそうな声をあげてキスハが喜んでくれるから私も思わず笑ってしまった。
「うん…ありがとね、キスハ。元気出たよ!!」
「んなっ!!」
キスハに「元気出してよねぇね!!」と言われた気がして、私は笑顔でキスハにそう言った。確かにキスハとのこの時間は元気が出てくるものだったから。
私はキスハの部屋を後にすることにした、「またねキスハ!!」と明るく声を出して部屋を出て次に向かったのはお父さんといつも一緒に入っていたお風呂。
アヴァロンの大浴場は常にお湯が貼られている、「リソースの無駄遣いだ!!」とかいろいろ言われそうだけど完全循環式だから大丈夫とかなんとか。
一人で服を脱いで、浴室に入る私はお父さんがいないだけでここまで寂しい物なんだと改めて感じていた。松葉杖をつきながら浴槽にまで近づいて、ゆっくりとお湯につかる。
「あっ…先に体洗うの忘れてた…」
お父さんといつも一緒に入っていたから出来た習慣も、お父さんがいないだけで簡単にできなくなる。独り言がむなしく響き渡る浴室に、たまに聞こえてくる水滴の落下音。さっきキスハにあれだけ励ましてもらっていたくせに、私は早くも泣きそうになっていた。
左腕で身体を抱きしめて、目をきつく結んで、涙は流さないように耐えた。
それでも瞼を突破して出てくる涙に、私は根負けして結局声を出してまた泣き出してしまったのだった。
私しかいない浴室に、反響した私の泣き声が響いていた。
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「はぁ…かっこ悪いなぁ、私…」
『お風呂に入るのなら呼んでくださいね、今のモレッドちゃんは一人じゃお風呂上りに身体を拭くこともままならないんですから。』
「うん、ごめんねグィネヴィアお姉ちゃん。」
『はい。』
お風呂で散々泣き散らした私は、泣き腫らした目を隠しながら浴室から出た際「私、今一人じゃ体拭けなくない?」と気が付いて慌てて脱衣所にあるコンソールからグィネヴィアお姉ちゃんを呼んだのだ。
『勝手が違いますからね、今までと同じようにやってできない事に気が付くものも多いでしょう。あまり気にし過ぎない事ですよ、その目もね?』
ごまかしていたつもりだったがやっぱりグィネヴィアお姉ちゃんには勝てないなぁ…泣いてたこともすぐにばれちゃった。
髪を乾かしながらゆっくりと、優しくなでてくれるその手が私にはとても暖かかった。
髪が乾いてお姉ちゃんが『せっかくですから少しアレンジしましょうか。』と私の髪をサイドテールにしてくれた。今まではツインテールだったからちょっと新鮮。
お姉ちゃんは『今晩はモレッドちゃんの好きなリップルジュースを出しますからね。』といって食堂に向かっていった。まだお昼ご飯も食べてないのに、気が早いなぁ。でもリップルジュースはうれしいから楽しみだ。
「…ヴァレットのところに行こう。」
お姉ちゃんが見えなくなってから私はまた気が落ち込んだ顔に戻っちゃって、そんな顔で行くべきではないんだろうけどどうしても見たくなってヴァレットの元に向かうことにした。
居住ブロックからファクトリーブロックはそこそこ離れてるからかなり時間がかかっちゃうけど、それでも行きたいんだから仕方ない。
松葉杖をつきながら私はファクトリーに向かっていった。
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『あれ?モレッドちゃんじゃん、もう一人で動き回って大丈夫なの?』
「うん、グィネヴィアお姉ちゃんからはOK出てるから。モルゴースお姉ちゃんこそ、持ち場離れてて大丈夫なの?」
『私はここにきてからほとんど暇してるからね、ちょっと散歩だよ。ファクトリーに行くんでしょ、手伝ってあげるから。ほら、おいで。』
ファクトリーに向かう途中、向こう側からモルゴースお姉ちゃんがやってきてわざわざおんぶしてくれるみたい。ちょっと恥ずかしいけど私もさすがに疲れちゃってたからおぶさることにした。
首に手を回して自分でも身体を押さえたところで『よいしょっと。』とモルゴースお姉ちゃんが立ち上がった。ちょっと揺れてびっくりしたから思わずお姉ちゃんのおっ〇い掴んじゃったもんだから『ちょっと!?モレッドちゃん!?』なんて声が。モルゴースお姉ちゃんも可愛いところがあるのだ。
そこからおんぶしてもらいながらお姉ちゃんに話を聞いてもらいつつファクトリーに向かって、着いたらお姉ちゃんは『帰りもおんぶしてってあげるから。』とニコッと笑ってくれた。
お姉ちゃんたちはみんな私にやさしい、でもそんな優しさも今の私には苦しいものだ。
相変わらず私の権限じゃヴァレットが置かれているエリアには立ち入ることが出来ないから前と同じガラス越しでヴァレットを見つめる。
「ヴァレット…」
言葉をかけてもヴァレットは動かない、当然だろう。あくまでもヴァレットは主機が動いているときに動くロボットに過ぎない。お母さんとお姉ちゃんたちのように自立して動けるアンドロイドとはわけが違うのだ。
何をしていたんだろう、何をしてあげられていたんだろう。そんな考えばかりがヴァレットを目の前にして、私の頭の中を駆け巡る。前に見たときとは違って、今は横たわって作業アームによって解析が進んでいるんだろう。腐食液による浸食は収まってるみたいだから横たえても問題ないって判断なのかな。
『モレッドちゃん、マーリンも言ったと思うけど…』
「うん、ヴァレットはもう動けない。私を守り切った忠義の騎士はもう死んだ。でしょ?」
あぁ、感情が死んでいく。どんどん無機質になって心が冷めきっていくのを感じながら、私は作業アームによって細部まで調べられているヴァレットを見つめていた。
ヴィ「マーリン!!言い方ってものがあるでしょ!!( ゜Д゜)」
グィ「モレッドちゃん大丈夫でしょうか(;´・ω・)」
モゴ「ちょっとまずいと思うな('Д')」
オヴ「…(小声で何かしゃべっている)( 一一)」
マー「オヴェロン?どしたの?( ゜Д゜)」




