さぁフィナーレだ
〜モルガン視点〜
『早いですね、2日目にしてここまで数が減るなんて前代未聞では?』
ママが持つ端末には既に残部隊数と残戦闘可能数が表示されていた、それは既に残存部隊が100に達しているということで最初10,000居たはずの部隊が僅か1日の間に100分の1にまで減っているということ。
そしてそれだけ数が減ったという事は戦闘範囲も狭まっているということで、私達の予想通り戦闘範囲の中心は私たちが陣取った坑道のど真ん中。
ここから東西南北に向かって移動するという関係上どうしても私たちを突破しないと他のエリアに向かうことは出来ない、かと言って無謀な突撃をしようにも機関砲の弾幕の前には無力となってしまえば戦線は停滞する。故に各エリア毎に集まった部隊はそこで遭遇する他の敵とすり潰し合うしかない状況に。
敵が攻めてくるタイミングが少しでも開けば私達は簡素な探知トラップを設置したので、仮に全方位8箇所から同時襲撃でもされない限りは侵入されることは無いですね。
探知トラップとはつまり鳴子、張り巡らせた糸に引っかかると鳴子が揺れ音が鳴ることで接近を知ることが出来る古来より伝わる有能トラップです。鳴子なんてものはないのでそこらで拾った廃材を使ったものではありますがね、かなり甲高い音は鳴るのでわかりやすくとても助かっています。
『モルガンちゃん、次よ。北東ねぇ…音の鳴り方的に数は10以上、たぶん戦闘中なのかしら?』
『了解しました手が空いているのは…モルゴース!!マーリン!!北東から来ますよ、数は10以上蹴散らしなさい。』
『『はーい!!』』
ぱたぱたと言う音が似合いそうな様子で機関砲の銃座に向かっていく二人を見送りながら、私もそちらの方向に向けてライフルを構えなおす。稀に…いえ、結構な頻度でいるのですよ。おそらくは補給物資の中に入っていたのであろうロケットランチャー、またはグレネードランチャーを携えた方が。
炸薬ではなく俗に言う催涙系が炸裂すると散布されるタイプの物ですが、その威力は私達にも有効に作用するほどに絶大。一度油断したヴィヴィアンとオヴェロンが至近弾を貰い炸裂した際には少し離れていた場所に居た私でさえ涙があふれるほどに強力な物。
幸いだったのは風上が私達の方でしたので、むしろそれを放り込んできた敵側に催涙成分が流れ自爆していたことですが…二度と食らいたくはないと思う程度には強烈だったようで、ヴィヴィアン・オヴェロン共に目元をぱんぱんにして『次やられたら殺してやるぅ…』と涙ながらに訴えておりました、
故にそれらを食らわぬよう私が中心地の全方位に射線を通すことのできる位置で、今回は光学スコープを乗せた状態で待機しているのです。結果的に実働で機関砲に配置できるのは4人しかいませんが、攻勢に出るのが散発的かつ消極的なのでなんとかなってしまうのが悲しい所ですね。戦力の適宜投入は最も戦場においてやってはならない事ではありますが…そもそもが味方でもないのだから仕方ありませんよねぇ?
『しかし、なぜわざわざ分かりやすいレーザーサイトなど使っているのでしょうか?白兵戦が得意ではないのならば後方支援に徹すればよい物を。』
スコープ越しに見える敵はこちらに向かってよく見える(レーザーサイトの光が見えるという事はその空気中に微細な粒子が漂っているという事です、今回の場合は湿度のせいでしょうね)それを追えばすぐに誰がそれを使っているかなどわかってしまいますから。地球ではナイトビジョンを通してのみ視覚出来る波長の光を放つサイトも存在するそうですが、今回の戦場では見られませんでしたね。そこまでの物を配置する必要もなかったという事でしょうが。
それに、サイト上で目標に合わせたとしても重力による弾道の落下に風による横ぶれ・惑星の自転つまりコリオリの力と言えばわかりやすいですか。それらも長距離射撃には必須なのですがそれすらもしていない辺り、傭兵にとって狙撃による敵の殲滅はやはり必須ではないのでしょうね。と言うよりも傭兵が白兵戦をするときは大抵が海賊の基地襲撃もしくは拿捕された民間船の救助が大半ですし、そういったものが必要ないのだから仕方ありませんか…とはいえこの戦場に長距離狙撃用のライフルが配置されているあたりそれらを獲物とする好き物が居ると言うのも事実なのかもしれません。実際私たちがそうでしたしね?
弾道の計算を済ませてからトリガーを引く、最初からそこに落ちる事が確定していたかのように曳光を伸ばしながら飛んでいった弾丸はこちらを狙う敵の鳩尾にクリーンヒット。口の動きから「ぐぇ!?」とでも言ったのでしょうか、うつ伏せにそのまま倒れてシステムが起動し速やかに空中に連れ去られていきました。
私の撃ち抜いた相手が最後尾だったのか、前方の集団にはすでにモルゴースとマーリンによる機関砲の弾幕に飲まれているようですね。
『しかし…受けばかりもつまらないですよね?お母様、攻めに出たくはありませんか?』
『あらあらあらぁ?良いのかしら?』
『構いませんよ、方角を知るだけならば誰でも出来ます。初撃を与える手段が減るだけですし、ここらで私達の全力を見せつけるのもありかと。』
それを聞いたママの顔はそれはもう嬉しそうで、意気揚々と言った感じにレプリケーターに向かい弾薬を生産し始めました。
機関砲による弾幕で敵を殲滅したモルゴースとマーリンも戻って来ましたし、ヴィヴィアンとオヴェロンも呼びますか。
既に中心を制圧し続ける意味もあまりない(機関砲の銃声を聞いて及び腰になっているので攻めてこない)ので、守勢に回っていると思い込んでいる相手が攻めてくるという恐怖を与えてあげましょうか。
『ヴィヴィアン・オヴェロン来なさい。』
インカム越しに『はーい』の抜けた声、これが私達の素なのでどうしようもありませんが…如何せん気が抜けますね。屍山血河の戦場であれば多少は固くはなるのですが、まぁこれが返ってあの人やモレッド達には良い形で気が抜けるので矯正する気も起きませんね。
とてとてとこちらに走ってきた2人を手招き、これから四方に向けてこちらから攻撃に向かうという事を伝える。
分かりやすく興奮しているあたりやはりこの子達も受けだけではつまらないと思っていたのでしょうね、まぁ地球で行ったサバゲーでも我が家は特定のメンツを除けば全員『バンザーイ!!』と言いながら突撃してくるような脳筋ばかりですからね…これで良いのかと思ったものです。
『では、これよりこちらから攻勢をかけ敵を殲滅します。総員装備確認!!弾倉確認!!』
『問題無しよ。』
『『『『問題無〜し!!』』』』
装備は統一、戦場で各々が違う弾倉を使う武器を使用していると弾切れの際共有が出来ませんしね。
今回は射撃レートが分間550発程の低レートであるSCAR-Lにそっくりなものを使用します、アタッチメントパーツの装着しやすいピカティニー・レールが装備されているので色々取り付けやすいですし。
『では行動を開始します、1人一方向の制圧を任務としますよ。残りの2方向については早い者勝ち…良いですね?』
『了解よ〜』
『『『『私が!!』』』』
先日の競走と同じ様に、全員が全力で踏みしめた舗装は『バグォッ!!』と粉砕され跳ぶように各々が各方向に走り去る。
大会運営委員には申し訳ありませんが、あまり時間をかけても楽しくもない戦闘など早く終わらせるに限るのです。個人的な主張を押し付ける事で大会スケジュールが短くなる事は…仕方ありませんよね?
さぁこの試合を終わらせに掛かりましょうか。




