元気な姿を見せるって大事
~カケル視点~
「おぉ?シランまだ右手はだめだぞォ?加減が出来ないからな!!」
「ぶぅ!!ヽ(`Д´)ノ」
早速スタリオンを使ってアルビオンからアヴァロンに向けて移動中だ、グィネヴィアとグリトネアは操舵の関係でここにはおらず俺がシランと一緒に乗員席でのんびり過ごしているってわけだ。アヴァロンは現在1,800m付近で待機状態、対するアルビオンは18,000m付近で待機していたんでな。それなりに降下には時間がかかっているってわけだ。
そしてシランが拗ねているのは俺の付けている義手が気になって仕方ないのに触るなと言っているからだな、やっぱり赤子だからこそ自分とは違う物には興味津々というか何でも触ってみたいもしくは咥えてみたいみたいな感情が沸き起こるのだろうか?但し先にも話していた通り現状俺の右腕は結構危険だ。
力加減が絶望的にへたくそになっているって言えば可愛いが、卵を持つつもりで握ったその力で石を粉砕するレベルの誤差が出ているのだ!!おかげでシランを抱きしめる時も変わらず左手が基本…いや、抱きかかえるだけならば右腕で十分なのだが人工皮膚で被覆していないので抱き心地が気に食わないのか「イヤイヤ!!」してしまうので仕方なく左腕が基本になっている。そして左腕に居るとどうしても目に入る右腕が気になっちゃうって感じだな。
アルビオンの管理はいいのかって?嫌だなぁ、忘れたのか?基本的にアルビオンへのアクセス権があるのは俺もしくはモルガンのみだ。そしてアルビオンの管理権限を一時的にとはいえ現在預かっているグリトネアは自身の持つリソースの約8割にも上る膨大なタスクをこなしながら同行してくれているんだ。遠隔だからより割かなければいけないリソースが増えているので出来ることはかなり減っているが…それでも俺やシランの生活の補助に限って言えばヴィヴィアンもいるし問題はないってことだな。
「ぶぅぅ…(-"-)」
「そんなにむくれるなよ~、可愛い顔が台無しだぞ~?」
「ふんすっ(。-`ω-)」
「おっ?機嫌治ったか?」
ここがシランの凄い所、俺やグィネヴィア・グリトネアなどの保護者と言うか家族認定してくれているのであろう年上からの声を聴くとどこか「分かった!!」とでもいうように大人しくなると言うかスッ…よ静かになるのだ。いやぁよくできた素晴らしくいい子!!という評価をしてあげてもいいのだが…それって齢0歳としてはどうなの?と言う純粋な疑問も出てしまうのが辛い所。
いっぱい遊んでいっぱい笑っていっぱい泣くのが赤子の仕事だとはよく言うが、シランちゃんはあんまり泣かない子なのだ!!もう少し親や兄弟を困らせてくれても全然いいんだぞ~と言う俺の気持ちは無視するかのように、俺の顔を見て「元気?だいじょぶ?」と言わんばかりに頭にはてなを浮かべたような顔をするシランに俺は笑うしかなかった。
『お父さま、間もなくアヴァロンに着艦いたします。シートベルトを。』
艦内放送でグィネヴィアからの報告を受けシートベルトを締めてシランを少し強めにホールドする、すこし強めとは言ったがギュッと抱きしめているわけでは無いぞ?シランの抱きかかえる位置を少し深めに変更しただけだ。赤子ってのは痛みにはすごく敏感だ、それ以外にも不快感だったりにも大人からすれば過剰なほどに反応してしまうからな。と言う事でちょっとだけ身体の位置を変えさせてもらったという事だ。むずむずする位置になっちゃったからか「ぶぅ…!!」と文句を言いたそうにこそしているが揺れが少し強くなっていることは認識しているのか「仕方ないなぁ!!」と大人な反応を見せる。
着艦とは言えスタリオンは元々はアヴァロンに格納されていた機体でもあるわけで、専用の保持アームや着艦システムがあるので揺れなんてものは最小限ではある。それでもグィネヴィアがシートベルトの装着を指示したのはひとえに俺やシランの心配をしていたからに他ならない、着艦の揺れが収まった後はシートベルトを外しベビーカーにシランを移すだけ…なのだが珍しくここでシランがぐずった!!
「やぁやぁ!!( ;∀;)」
おうおう…暴れない出遅れお姫さまや…右腕と言う補助が効かない今ヘタに暴れられてしまうと君を落っことしてしまいかねないのだよ、そんなことは知ったことか!!私を抱っこし続けて!!と荒れ狂うお姫様シランの要求を赤子の奴隷たる父である俺は快諾。ベビーカーから離れお姫様のご要望通りその腕で抱き上げ続けるしかないのです。
ベビーカーは後でグィネヴィアに持ってきてもらうしかあるまいとあきらめてスタリオンとアヴァロンを結ぶボーディングブリッジを渡ることにした、その手前でグリトネアと先に遭遇した時に俺がシランを片手に抱き上げて、なおかつシランの顔に若干の泣いた後を見たことですべてを察したグリトネアは『回収してまいりますね?』と言ってほほ笑みながら回収に向かってくれた。なんで自分で押してこねぇんだよ!!えぇわかりますよその意見も、でもねぇ!!ベビーカーに近づいた瞬間に「もう泣く!!泣くからね!?」と言わんばかりの顔つきになり鳴き声スタンバイ!!されたらもう無理なんすよ…父の意志は弱い…っ!!
という訳でグリトネアがベビーカーを押して戻ってくるのと同時にスタリオンのシステムをアヴァロンに移行させたグィネヴィアも来た所でアヴァロン側に移動、流石にこのタイミングで出迎えはない…と言うかアヴァロンのシステム管理を任されてるモロノエ含むキャメロット型以外には知らせてないからな!!ドッキリみたいなもんだ。まぁ勘のいいと言うかエルピダなら艦内にたま〜に張り巡らせて怒られる事のある糸を張ってたりすると空気振動を探知して気がついたりするんだが…今回はそれは無さそうだ。
左腕がそろそろキツくなってきたタイミングと、陛下と殿下が居る下部展望室に着いたのが同時。グィネヴィアにシランを任せて(さっきの泣く泣く詐欺みたいな行動により力を使い果たしたシランは寝た!!可愛ぞ!!)少し腕を解してからその扉を開ける。
「なんじゃ?モレッド達でも来た…」
「お姉様?なぜ振り向いて急に言葉…を…っ」
「お久しぶりです陛下、それに殿下…いやシュト様と呼びましょうか?傭兵ソラ・カケル。ただいま復帰致しました。」
右手を伸ばして敬礼の形を、背筋は伸ばして儀礼的な態度はとりつつもその顔はとても笑顔で。
俺なんかの為にかしこまった儀式かなにかは必要ない、ただ…そうだな。笑うか喜んでくれさえすればそれでいいんだ、バカめとか言って笑ってさえくれればな。
「…良くぞ…良くぞ生きて戻った…聞いてはおっても、この目で見るまでは納得などできぬでな。相変わらず余やシュトの心配も知らんでアホ面晒しとったのかのぉ?」
陛下は辛辣だ、辛辣ではあるがその目には涙を浮かべて…本当に俺のことを心配してくれていたんだなということがよくわかる。
「…( •̥╶ •̥` )グスッ…」
その一方でシュト様は感極まったというのがいちばん正しいような反応だな、もはや言葉すら出せないってレベルで俺を見つめている。
本当に俺なのか?って疑問でも持ってるんだろうか…間違いなく俺なんだけどなぁ、っとそうか。シュト様は目の前で…重ねてしまっても仕方ないのかもな、とすればなかなかにえげつない事を俺はしてしまったということか。気を付けないとな。
「只今をもちまして、傭兵ソラ・カケルはアルビオン並びにアヴァロン艦長として復帰。陛下と殿下の護衛長として復職します。」
王と王族に対する最敬礼として、片膝をつき頭を垂れる。
いつの間にか俺の後ろに集まっていたモロノエ以下8人のキャメロット型達もそれに続く。
「あいわかった、傭兵ソラ・カケル。其方の復帰を受け入れよう、余とその妹シュトラーセを帰国させるまで。次こそは手傷を負うことなくその任を果たして見せよ。」
「ja, Eure Majestät」
傭兵でありながら、王の直参レベルの扱いを賜る物として。これ以上の恥を晒す訳には行かねぇよなぁ、改めてこの大会が終わるまでの気合いを入れ直して俺は陛下と殿下に向かって顔をあげるのだった。




