やっと帰った!!
〜ローゼン・エーデルベルク・シュヴェルト・ハーレイ視点〜
「ではの、良き視察となったかのぉ?」
「これはまた手厳しい...視察等と言われては何もいないではありませんか。ただの対談ですよ、まぁ...終わってみれば如何に私の見積もりが甘かったか。それを嫌という程見せつけられた気はしますがね。」
「それは重畳と言ったところか、まぁ良い。帰りは気を付けるが良い、何かと敵視される我が国じゃからのぉ。どこぞで襲撃されでもしたらこちらの不手際を疑われる可能性もあるからのぉ。」
『その為にエルピダを護衛に寄越したのでは?』
「はっはっは!!女王も過保護なものですなぁ!!今敵対しないからと言ってここまで手厚く見送りまでしていただけるとは...光栄の至り。」
アヴァロンの小型艇用格納スペースでステラ・ステイツ大統領の見送りに来ておるわけじゃが、かれこれ数時間は居たのぉ...茶を飲んでからせっかくじゃと言った事でアヴァロンとアルビオンにあったカケルやモレッド達の戦闘記録アーカイブの鑑賞会になったわけなんじゃが、まぁ〜モレッド達が「うわぁ...恥ずかしっ...」なんて言いながら鑑賞会に参加しておったわけじゃ。
大統領も最早モレッド達を小娘とは思わずに歴戦の傭兵に対する扱いと同等な対応を示して「この時はどの様な考えを持ってこの機動を取っていたのか?」等聞きまくっておったわ、歳を取ればとるほど若い者に意見をこうのが難しくなるがそれが見受けられない所は余としては高評価じゃった。
まぁ鑑賞会もヴァレットの換羽やら、ギャラハッドのSOAは上手く切り取っておったがの。
流石にアレらの脳波コントロール式無線誘導兵器は見せてしまえば面倒が増えるからのぉ...代わりと言ってはなんじゃが、スクウィーズは見せておったのぉ。打突限定の有線式の使いまわせるミサイルのようなものと考えればまだ分からんことも無いからの!!
「モロノエ叔母ちゃん、アトラク=ナクアは配置に着いたのです。何時でも出られるのですよ。」
『宜しい、運営委員会には許可は取っていますが高度1500m以下への侵入は禁止。武装についても地表に武装を向けること・無闇に振り回すことも厳禁ですよ。』
「武装を振り回したらダメなことくらいわかってるのです!!キスハお姉ちゃんじゃ無いのです!!( ー̀ н ー́ )」
アトラク=ナクアはその機体重量の関係上自前の推力だけではどうしても高度の維持が難しい、不可能では無いがホバリングの様に自身の位置をずらさずにその場に留まると言うのがどうしても苦手らしくてのぉ。
何時ぞやにカケルの使っておった『ゲタ』...つまり機体を乗せて自身の推力を持って揚力を生み出すフライトシステムに乗って居るな。ブレンデッドウィングボディ式の機体は胴体部分でも効率的に揚力を発生させることが出来るゆえな、推力さえ確保できれば十分重量級のアトラク=ナクアを乗せても飛行可能なのじゃ。
「では送迎員がお待ちのようですので、ここらで失礼させていただきます。大変身になる経験をさせて頂き感謝致しますよ女王陛下、この場に居ない艦長にも感謝を。」
「うむ、まさか帰りを襲撃されるとは思ってはおらんが気を付けてな。」
ボーディングブリッジを渡り連絡艇に乗り込む大統領を見送る、わざわざこちらに顔が見える外縁部の席に座るとは...なかなか律儀なものよのぉ。
『ボーディングブリッジ連結解除、メインスラスター点火確認。リニアカタパルトボルテージ上昇中、規定量に到達。対G機構効力全開、射出タイミングを操舵手に譲渡します。』
「キイィィン...」リニアカタパルトの鳴動と共に射出された連絡艇を見送り、「ちょっと!?早い!!早いのですよ!!」と泡を食って着いていくエルピダに「締まらぬのぉ」と思わず笑みがこぼれる。
「お疲れ様でした、お姉様。」
「うむイシュトもご苦労であった、しかし...こうも格好だけ変えれば分からぬものなのかのぉ?いや、モルガン殿達による侍女教育の賜物なのかもしれぬがの?」
「ふふっ...侍女と言うよりも私の場合はメイドの作業でしたので、下女姿の私など分かるわけもないでしょう?」
「それはそれでどうかとも思うがのぉ。」
背中からかけられた声に返事を返す、今回シュトはステラ・ステイツの考えを事前に予測していた故退席しておくということも考えたが、本人が「私も同席致します、勿論この姿ではありませんが。」と言って自らオヴェロン殿とマーリン殿が用意していたシュト用の服を借用してきたのじゃ。
「向こうの思惑を悉く打ち砕いたからかは分からぬが、シュトの話題が出ることはなかったのぉ。」
「そうですね、私としても安心致しました。」
『置き土産をされた方については如何致しますか?』
「余やシュトに実害は無いのじゃろう?大方こちらの情報を少しでも手に入れんとする大統領の子飼い...いや違うのぉ、潜り込んだネズミか?他の者よりも僅かじゃが視線の動きがおかしい者じゃったからのぉ。大統領やその他の護衛や文官には分からぬ程度ではあったじゃろうが...」
モロノエ殿がその手に持つのは本当に小さな、それこそ小バエの様な存在ではあるが。コレは諜報用の小型ドローンじゃなぁ、惑星の大気圏内に入っておる時点でそう言った小型の在来種が入り込むことは致し方ない。が、ソレは一般の傭兵艦であればじゃな。
アヴァロンの防疫システムは空調から乗船する人間の持ち込み物まで全てを探知しておるらしいからのぉ、もっと言えば補給の際コロニーと接続された専用搬送ポートから艦内に入った瞬間にコンテナの中身まで探知しておるらしいぞ?
「ま、伝えておくかのぉ。モロノエ殿、それとなく伝えて置いてくれ。」
『委細承知致しました。』
「プチッ」という感じでいとも容易く小型ドローンを潰すモロノエ殿、過酷な環境下でも故障のせぬよう設計されたそれはそんな簡単に壊れるものではないのじゃがなぁ...まぁ今更か。
大統領も敵が多くて大変とは思うが、それもまた大統領制の特徴故致し方あるまい。如何に優秀な手腕を見せた所で、揚げ足を取りに来るやからというのはどこにでもおるからのぉ。
「さてと、余はまた観戦に戻るかの。モロノエ殿、夕食は展望室に頼む。」
「私は1度湯に入ろうかと、モレッドお姉様に呼ばれておりますので。お姉様も1度入られては?」
言われてみれば確かに?不足していた運動量は解消出来ているとはいえ、今回は徒歩での移動が多かったからのぉ。少しばかり汗をかいて居たか?シックザールに着替えを手配させるか。
『では、陛下も湯浴みということで宜しいでしょうか?』
「うむ、少しばかり汗をかいたようなのでな。」
『ではそのように...ヴェネス!!』
『こちらに用意してございます。』
うーむ...ローゼン・エーデルシュタインの王城勤務の文官共からは鬼とまで呼ばれるヴェネスではあるが、ここアヴァロンやアルビオンではそのような姿は見られんのぉ!!どこまで行っても木っ端の下女クラスよ...それでも他の人工知能達よりもはるかに優れる性能故優遇こそされているものの、ヴィヴィアン嬢達より下...つまり数多の人工知能達とさした変わらぬ立ち位置じゃな。
余専属ということもあるゆえこの立ち位置に甘んじて居られる、そういう考えなのかは知らんが…鬼気迫る気迫を感じさせるヴェネスを見ていると、ほんの少しばかりではあるが。
「ヴェネスよ、今度休暇でもやろうか?」
『:( ;´꒳`;):クビデスカ?』
信じられんほどに震えるヴェネスを見て、このタイミングで言うものではなかったか...となったと同時に、「そんなことは無いぞ!!」と激励をかけることとなったのじゃった。




