知ろうとするもの・知っているつもりなもの
〜ステラ・ステイツ星合国 大統領セファード・レクセン視点〜
「良くぞ参られた、余がローゼン・エーデルシュタイン女王ローゼン・エーデルベルク・シュヴェルト・ハーレイである。」
既に度肝を抜かれ、事前に用意していたこちらが優位に立つための言葉など全てが灰燼に帰した中、ローゼン・エーデルシュタイン女王が待つ下部艦橋...いや。展望室とも呼ぶべき部屋にたどり着いた私達を迎えたのは、女王として君臨する少女の当然としてこの格好であると言わんばかりの姿だった。
私が連絡を入れここに辿り着く迄僅か1時間も無い中で、これ程までに他所者に見せる姿を取れるものか...!!王族という物は実権よりも見栄を優先するのはどの国も同じだが、この女王は実権も見栄も兼ね備えた存在だと言うことが嫌でもわかってしまう。
最早ただの対話などでは無いのだこの場は...これはそう、謁見に等しい物になっている。本来であれば傭兵艦程度にそのような事を行える場所など存在する訳もなく、それに傭兵艦で謁見を行うと言う下手をすれば「自身の国の艦よりもこちらの方が箔が付く」と言いふらしてしまうような行為は褒められたものではないが、よく見ればここに用意されているものは全てがローゼン・エーデルシュタインで製造された物ばかり。
つまりこの場においてのみ、傭兵艦アヴァロンはローゼン・エーデルシュタインの領土に等しいという事だ。本来傭兵というのは自分の家である艦に外部の者が手を入れるのをとてつもなく嫌う...それを一切の嫌悪感無しに受け入れるとはどれだけの信頼を築き上げてきたというのだ?情報ではぽっと出の傭兵であるソラ・カケルが、イネフェイブルとの戦争に参戦しそこで多大な戦果を上げその後に起こった王室から抹消された男の起こした内紛を収めたとは聞いているが...
聞いているだけだとただただローゼン・エーデルシュタイン側だけが傭兵ソラに対して恩を感じているだけなのだが、それでは艦の一部を自由にさせるなどと言う行為をさせるわけが無い。
「どうかされたかのぉ?何時までそこに突っ立っておられるのか、そこのソファにでも腰かけるが良いぞ?...あぁすまぬ、この言葉遣いは既に身に染みてしもうてな。如何に我が国より大国の国主であろうとも変えることは出来ぬでな、許されよ。」
「あぁ失礼、言葉遣いに関してもお気遣いなど要りません。寧ろこの場で先ずは謝罪を申し上げます、急な申し出を受けて下さり誠に感謝いたします。」
「ふむ、その謝罪を受け入れよう。では先ずは喉を潤されてはいかがかな?」
女王が指をちょいちょいと仕草を出せば、さも「毒殺などしませんよ、なんなら一挙手一投足確認して下さいませ。」と言わんばかりのガラス張り給湯室から出てくる侍女。
床には一切の段差など存在せず、凹凸も無いだろうに彼女の押すティートロリーは「カラカラ」と僅かばかりの音を立てている。不協和音とは言い難いその音と共にほのかに香る紅茶のフルーティーさは、既に負けと言う言葉が脳裏を過ぎる私の心を落ち着かせるには十分すぎるほどのものだった。
「して?何故余に対話なぞと急に申されたのか、時間はあるとは言えそちらも慣れぬ場所故下手に腹の探り合いなどしてボロを出したくはあるまい?コチラの予想としては他国と同じ様にアルビオンの確保でも狙っておったかの?」
「っ!!」
「ふはっ...図星...の様じゃのぉ?大方「傭兵には過ぎた艦、国が保有し運用する方が遥かに有意義だ。」とでも思っておったようじゃがのぉ?あんな超々高性能艦国ですら運用出来んよ、建造コストと運用にかかる費用が馬鹿にならん。それに...知っておるか?アレを運用するには艦内環境の運用だけで専用人員が7千は必要じゃて、その他にも砲手・操舵手・整備員...あの艦1つにどれだけの人員を割かねばならんか想像もつかんでな。話を聞いた時は思わず笑ってしまったわ、それだけ人員を割かねばならんなら余は今まで通りの艦を運用すると決めた程度にはな。」
「...馬鹿な...では...何故そのような艦を傭兵ごとっ!?失礼...傭兵が運用出来るのです!!」
今女王が話す事が本当の事ならば傭兵如きがまともに運用できるわけが無い!!艦内の運営だけで7千だと!?ステラ・ステイツ最大の艦艇でも最大乗員数は4万なのだ、そのうち艦内環境の運営に割く人員は4千程度...おかしいでは無いか!!アルビオンよりも少し大きい程度のサイズである我が国最大艦ですらその程度なのだぞ!?
「答え合わせと言うのならばそうさのぉ、大統領は使って...いや採用しておるかの?人工知能を。」
「いえ...最近各国がこぞって採用しているとは聞いておりますが、ま...まさか!?」
「その通りじゃよ、アルビオンもこのアヴァロンも。運用には人工知能を採用しておる、人間の処理速度の数千、数万倍以上の処理速度を持つ彼らの力を借りる事で運用が成り立っておるわけじゃ。」
それならば確かに納得は行く...納得は行くがそれでも傭兵がそのような高性能人工知能を搭乗させることが出来るのか?人工知能の登場はそれこそここ半年だ、確か人工知能を研究していた民間組織が人工知能の反乱を受け鎮圧に乗り出したが人類に対して有用であると宣言し...はっ!?
「人工知能が世に出回るために起こした反乱...いえ、一種の独立戦争にて人工知能側に与した傭兵が居たとは聞いています。その傭兵が...」
「その通りよ、このアヴァロンとアルビオンを有する傭兵ソラ・カケルよ。まぁその人工知能であっても、アルビオンを運用するには10人は下らぬ数が必要ではあるらしいがの?アヴァロンであれば5人以下で可能とは聞いておるが。無論世に出回っておる一般モデルや軍用モデルと呼ばれる人工知能達ではない、最早ワンオフと呼べるレベルのもの達を利用してその数じゃ。如何に難しい事かは分かってくれたかのぉ?」
「なんともはや...」
ステラ・ステイツにおいても人工知能による軍艦の運用については構想が立てられている、今まで必要であった軍艦運用に必要な人的費用や人員搭載に起因する消耗品の数々。それらを人工知能が置き換えることさえ出来れば大幅なコスト削減が可能だと言うことは証明されている、だがしかし問題は人工知能側からの運用の際の注意事項だ。
それには『人工知能のみで運用する可能性が出る軍部が保有する施設・艦艇・AMRSが存在する可能性が有る場合、いかなる理由があっても人工知能の派遣は認めない。尚、運用の際は人工知能15機に対し人員1名を必ず配備する事とする。』という条文が付いているのだ。
要するに今までの無人機による特攻や、無補給活動が可能と言う事を利用した戦線維持などには利用できないとしているということだ。コレには『人工知能には時として人よりも遥かに早いスピードで自我が形成されることがある為、稀にではあるが劣悪かつ過酷な環境下に置かれ続けると反乱とまでは行かないが職務放棄を発生させる場合がある。』と告知されている。これは既に人工知能の大元である中央電算設備にあるAIそのものがそういった可能性があるという事を知らしめているため、人工知能の運用を考える国々にとっては頭を悩ませている問題ではある。
「しかし...1傭兵がそのクラスを運用出来て、国レベルが運用できない理由にはならないでしょう。それに...人工知能であるならばウィルス攻撃やクラッキングによる分離工作すら...」
その言葉を発した瞬間私は後悔した、恐ろしい程の殺気と目に映ることすらないレベルの動きで一瞬にして私の首元に凶器となるナイフが突きつけられたのだから。
護衛たちも動きに反応して動きこそすれ、幾ら生体工学の粋を集めたサイバネティックス処置を施された人間でも反応できない速度で動ける人工知能達の前では無力。同じように組み伏せられてしまっていた。
それを眼前で見る女王はさも当然かのように、少しでも力を入れれば頸動脈が裂け血を撒き散らす寸前の私を見てこう告げるのだ。
「ふむ...大統領、いや...ヌシと呼ばせてもらおうか。人工知能は物では無いのだ、彼ら彼女らは物では無く者なのだよ。ネットワークを介して繋がっているとはいえ、その全ては独立した1個の個体なのだ。それを物として扱う者、ましてや電脳に生きる者たちにとって最も危険な思想であるウィルスやクラッキングじゃと?良くもまぁ本人達の居る前でそのような事を口に出せたものよのぉ。」
女王は私に凶器を突き付ける人工知能に対して何も指示を出さない、いや...この場合女王から指示を出せるものではないのだろう。彼ら彼女らは、無表情でありながらその内には秘めた憤怒が宿っているのだろう。
私は彼らを知る前から、最初から地雷を踏んでいたのだ。
カケル「みんなも知ってると思うが、アルビオンの制御に関してはモーガン・モルガン以下8名がそれぞれ職務を割り振って運用しているぞ。今回陛下はそれらを誤魔化していてくれてるって訳だ、アルビオンの建造時期と合わないのに誤魔化せている理由は辺境で建造されたって事とそこの傭兵組合長と人工知能の親玉・まぁ言ってたように中央電算設備と呼称しようか。が帳尻を合わせた結果だな、つまり現状ステラ・ステイツ大統領はその場にいるモロノエやヴェネスが人工知能だということには気がついていないという事だ。モロノエもヴェネスも動いてはいないみたいだしな?(( ˘ω ˘ *))」




