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子どもじゃない 〜夢を追う乙女よ〜

 〜ローゼン・ツヴォルフ・プリンツ・ザイデンシュトラーセ視点~


 侍女見習いとして働いてから早6日、本日がモルガン様とモーガン様の試験最終日です。ここまで数多の経験と実践をさせて頂きましたが、どれも満点には程遠く赤点まみれだったと言う自己採点しかできません。


 今日も今日とて失敗続きだったと言う有様...来客にお出しするお茶を毒など入れておりませんと表すために護衛等の目の届く範囲で淹れるべきものを先に淹れてしまったり、音を立てずに置くことが出来ず「カチャ...」と小さく物音を立ててしまったり...おね...陛下の前では態度を崩してはならないのに「ふぅ...」と息を吐いてしまったりと散々です。


 せっかくカケル様から頂いたチャンスを全て自分の手で潰してしまっているこの状況、この後の採点を聞くのが大変憂鬱...もとい恐怖でしかありません。


『お待たせ致しましたシュトラーセ殿下、少々採点に手間取りまして。』

「いえ...お手数をおかけ致しましたことをお詫び申し上げます、では私の結果は如何程でしょうか?」

『気を急するのはよくありませんよ?いかなる時でもその胸には平常を持たなくてはなりません、先ずは評価の発表と致しましょう。』

「?」


 モルガン様が部屋に入り、すぐにでも結果を聞きたかったのですがまずは落ち着けと仰られる。ダメならばダメと言えばすぐ済むし私のダメージも小さいというのに...合格だから引き伸ばしている?そんな馬鹿なことは無いでしょう、家庭教師が与える宿題の評価に似てどれだけ自分が批評を受けるのかという恐怖が私の胸を駆け巡るのです。


『お入り下さいませ陛下、シックザール様、フッテン様。そしてお母様。』

「うむ、入るぞシュト。」

「「失礼致しますシュトラーセ殿下。」」

『失礼致します。』

「なっ!?」


 入ってきたのはお姉様やシックザール達、つまりこの6日間で私の侍女見習いとしての行動を常に見ていた方達。

 一人一人から私が侍女見習いとしての評価を聞かねばならない...つまり私がどれだけ至らぬ者であるかを今ここで知らしめるというわけですね?こんなの...既に落第と言っているものではありませんか...俯き、眼に浮かび溢れそうになる涙を必死に抑え込まねばなりません...ここで泣いても意味は無いのですから...。


「では、僭越ながら最初の評価は私シックザールが行わせて頂きます。」

「お願いします...シックザール。」


 身構える...一体どれほどの酷評が私に降りかかるのか、ただその恐怖だけで。


「一言で申し上げるならば赤点ギリギリの合格点でしょうか?」

「へ?」

「到らぬ点は確かに数多く御座いました、勿論その都度リカバリーも私達が行うことも。しかし、それらを鑑みても不合格には至らぬと判断致します。」


 アホの子のような声が私の喉からこぼれてしまいました...ですが、筆頭侍女たるシックザールがそこまで評価してくれると言うのは喜ばしいことなのでしょう。


「無論コレは私の職務、一切の色眼鏡はかかっておりません。幾らシュトラーセ殿下とは言え、侍女見習いであるならば出来て当然出来なければそもそも1日目にして来なくても良いと発言させていただく予定でありました。よくぞこの短期間ではありますが職務を全うされましたね。」


 口をパクパク、エサを求める小魚のように。思考は纏まらず呆然とするかのように目を広げて私はボーッとしてしまう、何故?何故これ程までにシックザールが私を評価してくれたのかが分からないのです。お姉様の筆頭侍女として、その下に着く侍女や侍従に厳しく指導している事はよく知っています。私とでこの短い時間ではありますが幾度となく指導されましたから、少し...いえ。とても嬉しいと思ってしまいます。


「では次に私フッテンからの評価をさせて頂きたく思います、シュトラーセ殿下...いえ。イシュトの評価は私としては100点満点中50点とさせて頂きます。」

「フッテン...」

「ご無礼を働いたと思われたのならばそれでも構いません、私もモルガン様より殿下の採点を行うよう願われておりましたゆえ。わたくしの首を切られるのであればそれも最早仕方の無いことかと。」

「構いません、フッテン。貴女は私の上司であったのです、部下に評価を行うことになんの不都合がありましょうか。」

「...ありがとうございます、では失礼致します。」


 フッテンの採点は想像以上に高かったのですね、予想外...と言うよりも何故?という印象の方が強いのですが。どういう訳なのでしょうか。


「私が評価した点は陛下のお召し物、その選択と準備に関する部分です。持ち込んだ数百にも上るお召し物の中からその日の公務に最も合った物を瞬時に判断する精度。そして何処に何がどのように保管されていたかを記憶されていると言う記憶力に関しては100点満点を差し上げてもよろしいものでした。減点対象はお仕着せの時ですね、折角のお召し物に余計なシワを作ってしまうという...普通は気が付かない。ですが見る者によっては間違いなく気がついてしまうであろう部分に作ってしまった僅かなヨレを作ってしまったことです、私はシックザール筆頭侍女よりお召し物という部分に限り採点するよう支持を受けておりましたのでこのような採点に致しました。」

「ありがとうございますフッテン、私もまだまだという事ですね。私自身今言われて見れば確かにそう言うものを作ってしまったであろう場面は数多く...いつもありがとうフッテン。」

「殿下!?...いえ、お褒め頂きありがとうございました。」


 うふふっフッテンにはほんの少しだけ意趣返し?が出来ましたね、ですがそれよりも嬉しいものですね。ちゃんと私の行った仕事がこのように色眼鏡を通すこと無く厳しく採点され、ちゃんと評価してもらえるというのは。同じことを言っている?同じでも別の人から言われてしまえばまた違う意味だと思うのは私だけでしょうか?


「ふむ...では最後に余じゃな?」

「お姉様...」


 最後と言うのは恐らく身内の中での最後という事、お姉様だどれだけ甘い評価をしようとその後のモルガン様とモーガン様の採点結果によっては私のこの先などどうとでも代わってしまう...それでもお姉様からの私の評価はどうしても聞きたい物です。

 お姉様は私のことを庇護下に置き、常日頃から私に意識を割いて下さっておりました。それが日々の公務に追われる中どれ程の苦痛と、困難だったでしょうか。


 それでも、私の評価をする為に自らの仕事の合間をぬって私を常に見ていてくださった。なんと凄まじい職務に対する姿勢...そして、私を見届ける為に向けてくれた愛なのでしょうか。


「余の採点は...」

「お願いします。」

「0点じゃな。」


 やはりどこまでも厳しい、それでこそお姉様です。シックザールとフッテンは何故か「何故!?」と言った表情を浮かべておりますが何故でしょうか?お姉様ならば満点を出すとでも思っていたのでしょうか。そんな訳はありませんよ、あなた達だってよく知っているでしょうに、お姉様はやるならば徹底的に。0か100かしか付けないお方ですよ。


「感謝しますお姉様、私の仕事に()()をつけて頂きました事。」

「ふむ?なぜ感謝する、0点じゃぞ0点。」

「ふふふっ、お姉様も分かっていらっしゃるはずですが?」


 「むむっ...シュトがグレてしもうたぞシックザール、フッテンよ。」と2人に声をかけてはおりますがその声は喜色が浮かんでいて、どうにも私も嬉しさが隠せませんでした。

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